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18. もし吸血鬼になったら
落ち着いた雰囲気の酒場へと足を踏み入れた二人は、この地の名物料理に舌鼓を打った。
「ここの料理はスパイシーなものが多いのですわね。商人が多く行き交う町でもあるから、様々なスパイスが手に入るのでしょうか?とても美味しいですわ。」
アドリエンヌは、料理や客層にまで目を向けてアレックスとの食事を楽しんだ。
そして二人は、この辺りで人気だというワインでほろ酔いになり店を出たのだった。
「ねえ、アレックス様。私が伯爵邸に滞在させていただくことになってご迷惑ではないですか?鬱陶しいと思ってはいませんか?」
アドリエンヌは酒に強かったが、酔った勢いということにして聞きたくても聞くのが怖かった質問をぶつけてみた。
「……別に迷惑でも鬱陶しい訳でもないですよ。僕らの領地を救ってくださる訳ですし。侯爵とアドリエンヌ嬢には感謝しています。」
「本当ですか?それなら良かったです。ご迷惑だと思われていたらどうしようかと思っていたのですわ。」
アレックスは酔っているからかいつもより饒舌だった。
「アドリエンヌ嬢、僕は貴女を尊敬しています。侯爵の商会に、伯爵領の森林を活用することを意見してくれたことも貴女の木材に関する知識があったからです。僕はそのようなことは知らない。それに、貴女は侯爵の商会を手伝うこともあるとか。この街の酒場もでも色々と感づいたことがあったようですし、何となく生活している僕とは違うのです。貴女の聡明なところは素晴らしいと思いますよ。」
ワインのせいかアレックスの頬は赤く色付いていた。
アドリエンヌは、普段と違う饒舌なアレックスに少し戸惑いながらも褒められたことは素直に喜んだ。
「ありがとう存じます。私は一人娘ですから、いずれ商会を継ぐのだろうと幼い頃から漠然と思っていたのです。それでなるべく父の仕事を見るようにしました。そして役立ちそうなことを進んで学びました。ですから、その知識が今回伯爵領を救うことになれば本当に嬉しいことです。アレックス様のお役に立てることが私の喜びなのです。」
そう言って宝石のような紅い瞳をアレックスの方へと向けた。
その時アレックスは、街の光に照らされたアドリエンヌの銀の髪がキラキラと煌めいているのをぼうっと見ていたのである。
そして目が合った二人は暫し見つめ合った。
「もし……もしですよ!吸血鬼になったら、僕は人間だった時と何が変わるのですか?」
アレックスは両の手に拳を握り、緊張した面持ちでアドリエンヌに問うた。
「ほとんど生活は変わりませんわ。食事は人間と同じですし。まあ時々は血ーダインゼリーが必要ですけれど、それも番いの血を飲めば必要ありませんし。まあでも特殊な能力は嫌でも身に付きますわね。」
「特殊な能力とは、変身したり怪力になったりですか?」
「その通りですわ。まあ他にも色々とありますけれど主なものは傷の治りが早くなります。それと……。」
アドリエンヌはふとそこで言葉を止めた。
「人間だった時より長生きします。」
「長生き?」
「何事もなければ百年以上生きるのです。ただし心臓を刺されたり頭部を破壊されたり、毒を飲めば死んでしまいます。」
「自分の弟や妹よりも随分と長生きすることになるのですね。」
アレックスはそう呟いたあとは沈黙した。
アドリエンヌも、それ以上言葉を紡がなかった。
そうして宿屋に帰った二人はそれぞれの部屋で、なかなか寝付けない夜を過ごしたのであった。
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