殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭

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26. 順番を間違えておりました


 あれから森林の手入れは順調に進み、林業に携わりたいと言う領民も随分と増えたのだった。
 余分な枝を落とす作業も、多くの人間が関わったことで思いの外早く進められた。

「アドリエンヌ嬢、侯爵が派遣してくださった方々は本当に働き者ですね。力持ちだし、それに疲れ知らずだ。」
「お義父様、事故もなくスムーズに作業が進んで良かったですわね。」

 これはアドリエンヌだけが気づいたことであったが、シャトレ商会が派遣した者たちは全員が人間達の言う異形の者であった。

 狼男たち、吸血鬼たち、フランケンシュタインもいる。
 人間の言葉を話し、見た目も人間に近いがどこか違和感がある。

 だが、このガンブラン王国には彼らのような種族は居ないとされてきたので、領民たちは全く気づいていなかった。

 それに、彼らはバリアント国の中でも人間に友好的な者たちだろう。
 そうでなければ侯爵が伯爵領に彼らを送ったりしないはずだからだ。

 彼らの超人的な能力と、領民たちの人海戦術で伯爵領の森林は次々と伐採に向けて準備されていった。




 アドリエンヌは定期連絡になっている父親への手紙に、同胞達のお陰でスムーズに森林の管理が進んでいることを書き足した。

 そしてヘルメスに手紙を渡して窓の外に目をやった時、遠くの方で狼の遠吠えが聞こえた。
 独特の調べで長く鳴く狼の声はもしかしたら同胞の狼男の声なのかも知れないとアドリエンヌは暫し耳を傾けた。

「お父様は一体何を企んでいらっしゃるのかしら?ガンブラン王国に同胞を呼び寄せるなどして。」

 やり手の父の考えることはまだ未熟な自分には分からないと、アドリエンヌはため息を吐いた。

「アレックス様にはお話した方が良いのかしら?でも、お父様の狙いも分からないのに私が勝手なことをして混乱させてもいけないし。もう少し様子を見てみましょうか。」

 そう呟きながらも月明かりに照らされた黒い木々の影を見つめて、狼が居ないかと視力の優れたアドリエンヌは探してみたが見当たらなかった。

 そのうち遠吠えは聞こえなくなり、伯爵邸は静寂に包まれた。

 その時、アドリエンヌにあてがわれた部屋の扉の方で小さな物音がした。
 ただの人間であれば聞こえないほどの物音は、誰かが扉の方へと近づいたり遠のいたりと潜めて歩いているような微かな音。

 窓辺からそうっと扉の方へと近づき、ガチャリと勢いよく開けばそこには驚いた顔をして、口元には両手を当てて声を抑えているアレックスがいた。

 とにかく部屋へ入れて、扉を閉めた。

「アレックス様?何をなさっているのですか?」
「いや、森林の事業で忙しいアドリエンヌ嬢と最近あまりゆっくり話ができていなかったから……。思わず部屋の前まで来たものの、もう寝ているかと思って引き返そうとしていたんですよ。」
「その割には何度か往復していましたわ。」

 アドリエンヌは部屋の前で何度も往復する足音を聞いたのだ。

「聞こえていたんですね。そういえばすごく五感が鋭いのでしたね。はあー……。何だか恥ずかしいです。」
「何故ですの?私はとても嬉しいですわ。」
「最近僕も父の分を引き継いだ執務が増えたので、日中はお互いの業務が忙しいじゃないですか。だからほんの少しだけでも二人きりになりたくて。」

 あの二回目の吸血行為の日から、アレックスは随分と素直に自分の気持ちを伝えるようになったので、アドリエンヌはその度に嬉しさを隠せないでいた。

「もうすぐ森林事業がもっと忙しくなりますしね。アレックス様、婚約の手続きは王都の教会で三日後に行うのでしょう?私、すごく楽しみです。」
「シャトレ商会にも顔を出して挨拶をしないといけませんね。本来は侯爵領へ行ければ良いのですが……。」
「お父様が、今侯爵領はまた落ち着いたら来るようにとおっしゃってましたから、とりあえずは商会だけで良いでしょう。」

 さりげなく、ソファーに腰掛けたアレックスの濡羽色の髪を触りながらアドリエンヌは答えた。

「アレックス様、おぐしがまだ少し濡れてらっしゃいますわ。お風邪を召しますわよ。」
「風呂上がりですぐにこっちへ来たからかな。貴女が濡れてしまうから触らないように。」

 そう言って少し距離を開けたアレックスの方へとアドリエンヌは近寄った。

「アレックス様、私たち口づけをまだしていませんの。吸血行為は二回もしましたけれど、順番が逆でしたわね。」
「いや、順番って……。普通は口づけが先なのですか?」
「だって吸血行為は人間で言えばと同じですわ。ですから、順番的には口づけが先です。」

 そう言って、アドリエンヌは瞼を閉じ顔を突き出した。

「これは、口づけをしろと?」
「はい、お願いします。だって私たち婚約者ですもの。宜しいじゃありませんか。」
「宜しいじゃありませんか……って。分かりましたよ!それでは、口づけをしても良いですか?」

 早くと、もっと近づいてくるアドリエンヌの唇にアレックスは口づけを落とした。
 ひんやりと冷たい唇は甘く、啄むように何度か口づけた。

「アレックス様!愛しております!」
「ちょっ……!アドリエンヌ嬢、夜ですから。お静かに!もう、それでは今日は部屋に帰ります。お休みなさい。」
「え?もう帰りますの?」

 キョトンとしたアドリエンヌを置いて、己の理性を試されたアレックスはさっさと部屋から出て行ったのであった。

 







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