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33. やはり只者ではないお父様の考えは壮大なのです
しおりを挟む急に大人しくなった王太子は直立不動で部屋の隅に居て、よく見れば何故か片足立ちで立っている。
「あれはどういうことですの?」
「あれ、とはあの愚者を眷属としたことか?それとも奴が今大人しく部屋の隅で待っていることか?」
「両方ですわ。それにフルフルと震えながらも片足立ちですし。」
侯爵はチラリと王太子に目をやり、フンっと鼻で笑って答えた。
「元々この国に来た時から考えていたことだ。片足立ちなのはただの鬱憤晴らしだ。ここでは話せん。一旦帰ろう。」
「そうですわね。では、王太子殿下ごきげんよう。」
アドリエンヌはもはや自分の意思はないであろう虚な目の王太子に、美しいカーテシーで別れを告げた。
王都の商会へと戻り、会長室で親子は話し始めた。
「この国に来てお前と王太子を婚約させろとあの強欲な国王が言ってきた時、このような展開は既に予見していた。結論から言えば、私はこの国に人間と共存を望む同胞を呼び寄せて故国であるバリアント国とは別の我々のような異形の者たちの国を作ろうと考えていたんだ。」
「何故お父様はバリアント国から同胞を呼び寄せようと?」
「バリアント国には人間に友好的な者と、ただの家畜のように考えている者が混在しているのを知っているだろう。我々シャトレ家は古くから人間と共存しようという考えで、早くから国外へ出て見聞を広めたり人間相手に商をして栄えてきた。同じように人間と共存を考える同胞たちは今も各国にバラバラに存在しているが、昨今バリアント国内で両者の小さな摩擦が増えている。これが大きな争いとなる前に、人間と共存を望む同胞たちの受け皿を作ろうと思ってな。」
アドリエンヌはまだ幼い頃にこのガンブラン王国へ渡ってきたから、故国のそのような状況は初めて聞いたのであった。
そのような考えの下、侯爵はこの扱いやすそうな王族が治める国へと狙いを定めたのだ。
そうして恐れを知らぬ国王がアドリエンヌと王太子の婚約を望んできた為、これを好機だと侯爵は了承した。
折を見て内側から王族を眷属に変え、思うままに操れば良いのだから。
アドリエンヌが王太子のことを好まなければ、適当な時期に平和的な婚約破棄をさせるつもりであった。
それを愚かな王太子が先走った為に、少しばかり計画が変更となったのだ。
「侯爵領には既に同胞が多く入国しているのですね?」
「そうだな。既に多くの同胞が我が領地に住まっている。あの国王が有難いことに移民の受け入れを何の疑いもなく許可したから非常にやりやすかったよ。」
「お父様はこれからどうなさるおつもりですか?」
「まずは侯爵領から始まり、やがてフルノー伯爵領へ同胞を送る。あの王太子はもはや私の傀儡だからそのうち国王が退位すれば、より多くの同胞を国内各地に送ろうと思う。」
「ですからあの愚かな王太子との婚約をお父様が許したのですね。どこかおかしいと思いましたわ。それに、フルノー伯爵領に同胞たちが送られてきたことも納得がいきました。」
シャトレ侯爵であるヴィンセント・ド・シャトレは故国バリアント国でも力のある吸血鬼の家系であった。
バリアント国の王は同じ吸血鬼であるが、その血筋を引く由緒正しい家柄なのだ。
それと同時に優れた能力を持ち、その力はバリアント国の王族と匹敵するほどであった。
しかし、バリアント国の王はあくまで中立の考えであったから人間を家畜のように扱う同胞に対しても寛大であったのだ。
それならば、と侯爵は同じ考えの同胞だけの国を別に作ろうと考えたまで。
その土台となるのがこのガンブラン王国であった。
「お前にもいつか話そうと考えていたが、それは同胞たちをうまく呼び寄せてからと思っていた。そうこうしているうちに王太子が勝手に暴走し、お前は人間の番いを見つけたんだ。そこまでは私も予見していなかった。」
「それではこれからお父様は商会の職務だけではなく、このガンブラン王国の国政まで担うことになるのですわね。」
「まあ、眷属である王太子を操って国王をはじめ王城内に眷属を増やし、簡単なことは其奴らにさせるさ。」
「それでも、お身体を壊しませんようお気をつけくださいませね。」
アドリエンヌは壮大な計画を実行しているこの父を心配した。
いくら身体が丈夫な吸血鬼とはいえ、あまりに無理をすれば疲れも溜まるのだから。
人並みならぬ回復力があるとはいえ、娘としては心配であったのだ。
「分かっている。アドリエンヌも、フルノー伯爵領の事業をくれぐれも頼んだぞ。」
「お任せくださいませ。」
こうしてアドリエンヌは父親である侯爵の壮大な計画を知り、自分もその一翼を担っていることを実感した。
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