26 / 39
26. 我儘なお嬢様はラベンダーを少年に投げつけるのです
――私がまだ幼くて、無知な故に残酷だった頃。
すでにお母様は病気がちで体調を崩すことが増えており、たまの気晴らしにとお茶会へ共に連れて行ってくださったフォスティーヌ姉様のご実家。
そこで、まだ少年の貴方とお会いしていましたのね。
貴方はまだご結婚前のフォスティーヌ姉様に長く仕えた侍女の一人息子だったのですわ。
紫の絨毯が目の前に広がる中を、大人の話はつまらないと我儘を言うまだ幼い私の子守りをフォスティーヌ姉様に頼まれて。
八歳も年上の貴方はきっと、小さな女の子と遊んでもつまらなかったでしょうに、それでも常に優しく接してくださいました。
庭に咲き誇るとても良い香りのするお花たちは、素朴なものがお好きなフォスティーヌ姉様の好みでほとんどがハーブでしたわね。
そこに咲いたラベンダーを「いつも遊んでくれてありがとう。これからも、ずっと私のお兄ちゃまよ。」と、小さな手で花束にして渡したキレイな濡羽色の髪をしたお兄ちゃま。
大人たちの退屈な会話が続く邸内から抜け出し向かったお庭で、度々遊んでくれていたお兄ちゃまは確かにシルバーグレーの瞳をしていましたの。
「お兄ちゃま!今日も遊んでくださるの?」
「ヴィオレットお嬢様……。」
「あら、どうして?……お兄ちゃま泣いてるの?」
しゃがんだままうつむいて、真っ黒な夜色の髪で目元を隠したお兄ちゃまは呼吸も辛そうにして泣いていましたわ。
「たった一人の家族だった母さんが病気で死んだんです。だからこの次にお嬢様がここへ来られた時には、僕はもうここにはいません。」
当時幼かった私はそんな難しいことは分からずに、どうして?なぜ?嫌よ!と泣き喚いて、一番辛いはずのお兄ちゃまを困らせてしまいました。
「私、お兄ちゃまとずっと一緒にいられると思っていたのに!約束したのに!」
優しいお兄ちゃまともう会えなくなることが悲しくて、幼い私は自分の気持ちだけで好き勝手に言葉を投げかけていたのです。
二人の周りに咲いたラベンダーを、手当たり次第に千切ってはお兄ちゃまに投げつけて。
お兄ちゃまに当たってもどうせ痛くなんてないと分かっているのに、投げつけている私の胸はすごく痛くてどうしようもなかったのです。
辺りにはむせ返るようなラベンダーの香りがずっと広がっていましたわ。
「お嬢様、泣かないでください。」
「いやよ!お兄ちゃまがいなくなるなんて、私は許さないわ!」
「そんなに泣くと疲れてしまいますよ。」
そう言って寂しそうなお顔をしながら私の頭を撫でてくださいました。
今思えば、一番辛いのは独りぼっちになってしまった貴方でしたのに。
「それではお嬢様、お嬢様が独りぼっちになってしまった僕の家族になってくれますか?」
「いいわ。もうお兄ちゃまは私のお兄ちゃまなんですから。」
「では約束しましょう。僕が大人になったらお嬢様をお迎えに行きます。それまでの間良い子で待っててくれますか?」
どうして今じゃないの?と尋ねると、困ったようなお顔をしながらも口元を緩めておられましたね。
「僕はまだ子どもだから、お嬢様にはとてもつり合わない。」
当時の私には難しくて、その呟きの意味が分かりませんでしたの。
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
旦那様には想い人がいるようなので、私は好きにさせていただきます!
水川サキ
恋愛
君を愛することはできない。
なんて言われても、大丈夫です。
知ってますから~。
どうぞ愛人と仲良くね!
私は自由を満喫しまーす!
※他サイトに掲載
【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました
あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。
だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。
彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。
※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています
★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位
★他サイト様にも投稿しています!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定