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7. 個性的な仲間たちに囲まれて
しおりを挟むミカエルはリュシエンヌの答えに満足げに頷いて、目の前に水晶が嵌め込まれたネックレスをぶら下げた。
「これは?」
「このネックレスはファブリスが言うことには昔、幽霊を見ることができたとても力のある枢機卿がこしらえた物で、これを身に着ければ私と同じようにローラン殿以外の幽霊が見えるようになり、話せるようにもなるんだ」
「そのような便利な物があるのですか?」
「便利なか。貴女が嫌でなければこれを身に着けてくれないか? 実は私の友たちも貴女と会話をしたがっているんだ」
ミカエルはリュシエンヌの返答にフッと笑うと、透明の水晶を守るように繊細な蔦模様の透彫が美しいネックレスをリュシエンヌの方へと渡した。
リュシエンヌは迷わずネックレスを受け取って首から下げた。
すると白髪を綺麗に撫で付け口髭を蓄え、王族の証である紫目を持ち、気品ある出立ちの壮年の男性がリュシエンヌをその目を細めて穏やかに見つめていた。
その隣には艶やかな黒髪に漆黒の瞳を持つ美しい貴婦人が真っ赤なドレスを身に纏い、扇を広げてリュシエンヌへ流し目を送っている。
貴婦人のドレスの端からひょっこりと顔を出したのはまだ幼い顔立ちで、エメラルド色の瞳とクルクルと巻毛のブロンドが可愛らしい少年であった。
「まあ! 素晴らしいわ!」
リュシエンヌは初めて見たローラン以外の幽霊たちにも恐れることはなく、それどころかローランの仲間がこんなにも近くにいた事に歓喜さえ覚えた。
そんなリュシエンヌをミカエルはじっと見つめてその整った顔に喜色の笑みを浮かべたのだ。
「皆さま、改めましてリュシエンヌと申します。よろしくお願い申し上げます」
リュシエンヌが再度挨拶を行うと、三人の幽霊たちは次々と声をかけてきた。
「リュシエンヌ、其方もあのようなろくでなし婚約者の為に苦労するな。今も昔も好色な男はいるが、それにしてもあのような屑はなかなかだぞ」
「リュシエンヌ、あんな屑さっさと捨ててしまいなさいな。貴女のように可愛らしい令嬢にあの屑は勿体無いわ。私が祟り殺してやってもいいのだけれど。フフッ……」
「リュシエンヌ、僕はエミールだよ。宜しくね。君は幽霊が怖くないの?」
三人の幽霊たちは皆リュシエンヌに対して好意的で、一様に婚約者であるマルクのことを貶していた。
「幽霊といってもあなた方三人のことは怖いとは思いません。だってミカエル様とお親しいのでしょう? それに、こんな近くにローランの幽霊仲間がいると知って嬉しいのです」
「リュシエンヌ、僕も君とお話できて本当に嬉しいよ」
エミールはマリアの陰からリュシエンヌの傍へと移動し、リュシエンヌの手をそっと握った。
その手はひんやりと冷たかったが、柔らかな感触は生者と変わらないものであった。
「我らも其方のような心の美しい令嬢と話ができることは僥倖だ。このミカエルは幼き頃から我らのことが見えていたが、その力を共有できる者もいなかったから寂しい思いもしていたであろう。だから其方がミカエルの傍にいてくれることは我らも嬉しいのだ」
ファブリスは王族の威厳を持ってリュシエンヌへ話しかけた。
「リュシエンヌ、私も可愛らしい貴女のことは気に入ってるの。あんな屑よりもミカエルと貴女はお似合いよ。ああ……この美しいブルーの瞳と白金のブロンド、見た目だけでなく性格まで良いなんて最高ね」
マリアはリュシエンヌのプラチナブロンドにスッと手を入れながら妖艶な眼差しを向けた。
「ローラン、皆さん素敵な仲間で良かったわね」
「はい、お嬢様。皆さまとお嬢様がお話できるようになり、私も嬉しゅうございます」
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