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21. ポーレットお嬢様のマリオネット
しおりを挟む「ローラン、お主はあの女に殺されたのか。リュシエンヌは知らないのだろう?」
狂った笑いが止まらないポーレットと、じっと黙るダイアナ、そして愕然としている伯爵を静かに見つめるローランに、ファブリスが声をかける。
「はい。お優しいリュシエンヌお嬢様にそのようなこと話せるわけがありません。まさか義妹が人殺しなどと……」
「ローラン可哀想。僕だったらもっと早くアイツを祟り殺しちゃってたかも」
「エミール、ローランの全てはリュシエンヌの為にしてきたことだ。義理とはいえ、妹や母親が死ねばきっとリュシエンヌは悲しんだだろう」
「その通りでございます。しかし、もはやポーレットお嬢様はリュシエンヌお嬢様の未来にとって害悪にしかならないのです。私を殺したことがどこからか露呈すればこの伯爵家の醜聞となりますから」
ローラン、ファブリス、そしてエミールは醜く歪んだ顔で笑い続けるポーレットを見た。
「「「全てはリュシエンヌの幸せの為に」」」
幽霊三人は頷きあって、笑うポーレットの腕を掴み、背中を押し、足を引っ張った。
「なっ……! 何? 何なの! 足が勝手に……! 助けて! お父様……っ! お母様!」
幽霊たちに押され、引っ張られ、掴まれてポーレットはサロンを出てどんどんと通路を進んでゆく。
「ポーレット! どこへ行く!」
突然のことに呆気に取られていた一同だったが、我に返った伯爵とダイアナはポーレットを追いかけた。
そして、泣き叫び暴れようとするポーレットはローランを突き落とした階段の手前まで来ると恐慌状態となった。
「いや……っ! やだ! やめて!」
やっと伯爵とダイアナがポーレットの傍まで追いついた時、ポーレットは勢いよく階段を転げ落ちて行った。
「ポーレット!」
その時伯爵は咄嗟に手を伸ばしたが、ポーレットは物凄い勢いで階段から足を踏み外したのだった。
「キャーッ!」
ダイアナの悲鳴が上がり、伯爵は急ぎ階段の下を見下ろした。
狂ったように笑っていたポーレットは、今では醜く歪んだ顔をしている。
身体は壊れたマリオネットのようにあらぬ方向に折れ曲がり、鼻と耳からは暗赤色の血が流れ出ていた。
それはまさに、家令のローランが転落した時と同じ姿勢であった。
伯爵とダイアナが支え合いながらゆっくりと階段を降りてポーレットに近寄ると、ポーレットの傍には一枚の紙切れが落ちていた。
そこには伯爵にとっては長年見慣れた家令ローランの筆跡で、『全てはリュシエンヌお嬢様の幸せの為に』と書かれていたのだ。
「貴方、これ……」
「ローランの字だ」
「ヒイ……ッ!」
青褪め震えるダイアナをよそに、伯爵はローランを思いその瞳に涙を浮かべた。
義理とはいえ娘が一人目の前で亡くなったというのに、その悲しみよりも家族同然であったローランの無念な気持ちが流れ込んでくるようで、流れ落ちる涙は止まらなかった。
「ローラン、あのおばさんはどうするの? ついでに殺しちゃう?」
「奥様にはしっかりと反省いただいて、この伯爵家の家政を執り仕切っていただかなければ、旦那様も仕事に集中できませんしリュシエンヌお嬢様も安心して嫁ぐことができません」
「成る程な。ローランも随分とよく考えておったのだな。それではあの女には今一度更生の機会を与えてやるとするか」
そう言って三人の幽霊たちは教会へ向かったリュシエンヌとミカエルを追って邸を出て行った。
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