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29. 貴方とともに生きてみたい

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「そうねぇ、それではお父様とお母様は?ご存命なの?ご家族はいらっしゃるの?」
「俺は孤児だから親はいない。血の繋がった兄弟はいないが、兄貴のような存在はいるな。あとは父親代わりの人も。この髪と眼を見て母親は俺を不吉な子だと棄てたらしい。まるで化け物の髪と血の色をした眼だと。」

 私はルーファスの髪と瞳は美しいと感じたけれど、産みの母からそのように思われるなんて悲し過ぎるわ。

「エレノア、何泣いてんだよ。お前が泣くなよ。」

 この人はこんなに私に優しいのに。
 私の涙が止まらなくて最初の質問から躓いてしまいました。

「それで、どうして貴方は殺し屋をすることになったの?」
「俺がまだ幼くて孤児院でいる時に、さっき言った父親代わりの人、親父が俺のことを拾ってくれて。俺の他にも何人か一緒に連れて帰ってくれたんだ。そこで訓練を受けて、仲間たちもそれぞれ活動してる。」
「仕事が辛くはないの?」

 そう尋ねると、眉を下げて困ったような顔で軽く口元は微笑みながら彼は答えたのです。

「辛いことはなかったけど。親父が人使いが荒いし厳しい人だからな。死にかけたことも何度もあるし、それでもいいかなと思うことも多かったから、投げやりに生きてきた感じもするな。」

 ルーファスは全て何でもないことのように語るけれど。
 私にとっては未知の世界であり、とても悲しいことに思えたのです。

「それでも、アンタに会えたことは俺にとって人生で初めて良かったと思える依頼だったな。あのババアドロシーに感謝しないとな。」

 そう言ってつり目がちな紅い瞳を細めたルーファスは、私の一番好きな表情をしていました。

「そういえば、ドロシー嬢はどうなったのかしら?あの日すでにジョシュア様に正体がバレたようだったわ。」
「ああ、アイツは今プライヤー伯爵に学院で男漁りしてたことがバレて伯爵邸で監禁されてるよ。」
「か、監禁?」
「あの伯爵、結構裏では有名な加虐性変態性欲者サディストでしかも狂人だからな。監禁されてキツいお仕置きを据えられているだろう。」

 お仕置きの内容は私には想像もできませんが、きっと恐ろしいことなのでしょう。

「俺が二人を消してやっても良かったけどな。それするとエレノアが嫌がるから。」
「そうね、貴方には私のためにそのようなことをして欲しくはないわ。」
「そう言うと思ったから手出ししてない。」

 少しいじけたようにそういうルーファスは普段より幼く見えたのです。

「そういえば、ルーファスっていくつなの?」
「さあ?二十くらいじゃないか?捨て子だからハッキリしないけど、そう言われたことがあるから多分そうなんだろ。」
「そうなの。それじゃあ私より三つ年上なのね。貴方のこと少しずつ知れて嬉しいわ。」

 私が微笑むと、ルーファスはそっと労るように私を抱きしめたのです。

「口づけ、していいか?」

 そう尋ねるルーファスの頬はいつかのように朱に染まっています。

「そんなこと聞かなくていいのに。」
「いや、お前みたいな女に簡単に口づけしちゃ駄目だと思って……。」
「前は簡単にしてたわよ。」
「あれは……、最初の時はアンタが騒ごうとしたからだし、二回目は……。確かにその場の雰囲気でしたけど、別に簡単にした訳じゃない。」

 初対面の夜の口づけは何とも思ってなさそうだったのに、一緒にいる時間が長くなった今の方が恥ずかしそうにするルーファスは不思議ね。

「じゃあ何で今はしたいの?」
「何でって……。今エレノアのことが愛しく感じたから。」

 そう言って私たちは三回目の口づけを交わしました。
 あまり私の名前を呼ばない彼が『エレノア』と呼んでくれたことと、『愛しい』と言ってくれたことで私も胸がいっぱいで苦しいような、でもとても幸せを感じたのです。

 角度を変えて何度も唇を啄んでいるうちに、ルーファスの熱い吐息と柔らかな舌が私の口内を撫で、初めての深くて甘い口づけを彼の首に両手を回して受け止めました。

「んッ……ルーファス……ッ。」
「エレノア……。」
「愛してるの。どんな質素な暮らしでもいいから、貴方と生きていきたい。」

 大好きな家族のことも、シアーラのこともとても大切だけど、それでも私はやっぱりこの人と生きていきたい。

「本当にいいのか?俺は孤児で、エレノアは侯爵令嬢だ。家に帰ったらもっと良い婚約者もお前の父親なら探し出すだろう。お前のことを妻にしたい奴なんて掃いて捨てるほどいるぞ。」
「ルーファスがいい。初めて会った時から、貴方のことが好きなの。この美しい銀髪も、宝石のように煌めく紅い瞳も大好きよ。」

 ルーファスは私をギュッと強く抱きしめて、そしてその時彼は心なしか震えているような気がした。

 
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