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38. 伯爵夫人になれと言うのですか
しおりを挟む「エレノア、お前今日は随分と足に負担かけたんだからもう休め。」
「分かったわ。ごめんなさい。」
部屋まで送ってくれて、寝台に私を下ろした後にルーファスは少しだけ厳しい表情で言うのでした。
「また近いうちに私を迎えに来てくれるわよね?」
きっとこれからは一緒にいられるのだと思ってはいても、不安な気持ちが拭えなかったのです。
ルーファスはガーネットのような瞳を細めて唇に弧を描きました。
「ああ、必ず。だから無理はするな。」
「分かったわ。待ってるから、必ずよ。」
そう言うと私の頬をスッと撫でてからルーファスは部屋を出て行きました。
その後一週間が過ぎてもルーファスは邸に現れず、お父様やディーンお兄様もその間は邸に帰らずに王城に泊まり込んでお勤めをなさっているようです。
『国王陛下がショックの余り腑抜けになっている』とまたまた不敬罪に問われそうな言い方をなさったお母様でしたが、お父様とディーンお兄様がその後処理に追われていることを根に持ってらっしゃるのかもしれません。
エドガーお兄様は、あれからも変わりなく私に優しく接してくださいます。
「エレノア、足の具合はどうだ?医者からもらった貼り薬は使っているのか?あまり無理はしたらいけないぞ。」
「はい、エドガーお兄様。ありがとうございます。」
今日のエドガーお兄様はなんだかモゾモゾとしていて、いつもと雰囲気が違っているのです。
「それと、アイツのことだが……。」
「アイツ?」
「父上の子飼いのアイツだ。」
「ああ、ルーファス?」
「そうだ。アイツはエレノアのことを大事にしてくれそうな奴らしいからな。俺もアイツには一目置くことにした。だからエレノアは心配しなくてもいいぞ。」
エドガーお兄様は、私がルーファスとお兄様が喧嘩をなさったと思って気を病んでいると考えたのでしょう。
やはりとてもお優しいお兄様です。
「はい。私はお兄様がとても優しくて大好きです。ありがとうございます。」
そう伝えると、エドガーお兄様はまた私を抱きしめたのです。
「ああ!やっぱりエレノアはこの国で一番可愛い!そうだよな?ジョゼフ!」
近くに控えていた家令のジョゼフにいつも通り話しかけるエドガーお兄様。
「はい、エレノアお嬢様はこのシュバリエ王国一の美貌と優しさを兼ね備えた素晴らしい御令嬢でございます。」
そして、いつも通りに答えるジョゼフ。
「二人とも、ありがとう。私は皆に大切にされてとても幸せね。」
その日の晩餐には久しぶりにお父様やディーンお兄様も王城から帰り、家族全員が揃ったのです。
「エレノア、今日は話があるんだ。良いかな?」
神妙な面持ちのお父様に、私は何故か胸がドキドキしたのです。
あれから、ルーファスも姿を見せないし。
もしかしたら、私のことは飽きてしまったのかしら。
殿方は飽きっぽいと言うし、こんな傷物の令嬢など嫌になったのかもしれない。
「エレノア、落ち着いて聞きなさい。エレノアの結婚が決まったんだ。」
「え?」
私の結婚とは?
唐突過ぎて意味が分からないのですが。
まず、お相手は?ルーファスではないの?
「あの、お父様。お相手はどのようなお方ですか?何故急に?ルーファスは?」
胸がざわついて、動悸がして、手のひらに汗が滲み出てきました。
そして、まだ痛む右足が震えてくるのです。
「相手は伯爵になるんだが。エレノア、お前は侯爵令嬢から伯爵夫人になるということだ。」
伯爵?それではルーファスではないの?
あの日、ルーファスが物言いたげな雰囲気のままで私の目の前から消えてそれから姿を現さないことは何かこの事と関係があるのかしら。
「お父様……。何故、急に?ルーファスはどうなったのですか?」
不安が膨らんで思わず瞳に涙が浮かんできたのです。
ルーファスは、一体どうなってしまったの?
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