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42. 久しぶりにお会いしました

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「ルーファスさまぁ。見てみてー。」
「何だ?」
「お花のかんむり作ったから、ルーファスさまとエレノア先生にあげるね。」
「可愛らしいな。エレノアも喜ぶだろ。」

 アルウィン伯爵となったルーファスは、領地や配下の者たちの管理を行うことに日々忙しくしていました。

 その合間には伯爵領内にある孤児院へと顔を出し、子どもたちを慰問していました。
 これはルーファスと私が特に力を入れている公務なのです。
 子どもたちに等しく教育の機会を設けることができれば、良い仕事にも就けるということで、小さな子どもには私が簡単な読み書きから教えているのです。

「エレノア先生、こっちきてー。」
「アリシア、ちょっと待ってね。」

 アリシアというのは孤児院で私とルーファスにとても懐いてくれている女の子です。

 私の右足は完全には治らず、疲れたりすると少しだけ引きずるような感じになってしまいました。
 普通に歩くには不便はないのですが、長距離を歩いたり早く走ったりすることはできないのです。

 孤児院の周りにはデコボコとした石が多く、私は転倒しないよう慎重にルーファスとアリシアのいる庭園の方へと歩いて行きました。

 足元を見ながら歩いていると、いつの間にかルーファスにふわっと縦抱きにされてしまったのです。

「ルーファス。このくらい歩けるわよ。」
「転んだら大変だろ。またあの口うるさい兄貴に怒られるぞ。」
「うわぁ!エレノア先生まるでお姫さまみたいね。ルーファスさまが王子さまみたい!」

 アリシアが、ルーファスに縦抱きにされる私を見て興奮したように囃し立てます。

「エレノアは、本当にお姫さまだからな。少なくともあの親父殿と兄貴たちにとっては、な。」
「あら?それじゃあ貴方は王子様じゃなくて、お姫様を攫った悪者ね。」

 思わず二人して笑って、ルーファスの腰回りにくっつくアリシアの可愛らしい頭を優しく撫でてあげました。

「えー?ルーファスさま、ワルモノなの?」
「ふふっ……アリシアは本当に可愛いわね。アリシア、赤ちゃんが生まれたらアリシアがお姉さんがわりになってね。」
「うん!まかせて!」

 季節があと二つほど巡れば私とルーファスに赤ちゃんが生まれてくるのです。
 それでお父様もお兄様方も、ルーファスも私に今まで以上に過保護になってしまって、出かける度にルーファスには危ないからと抱かれてしまうのです。

「あまり歩かないのも良くないとお母様が言っていたわよ。」
「それは分かるが、ここは道が悪いから仕方ない。」
「それならこの辺りの道を綺麗にしないとね、領主様。子どもたちも怪我をしては危ないもの。」
「そうだな、そうしよう。」

 領主の仕事など自分には務まらないと言っていたルーファスでしたけれど、伯爵になって一年が過ぎた頃には空き時間にこの孤児院へと顔を出せるほどに執務には慣れてきたようです。

 

「エレノア、調子はどうなの?」

 久しぶりに実家であるアルウィン侯爵家へと参りましたら、お母様が私の体調を気にかけてくれます。

「悪阻はきついのだけれど、何とか食べようとは頑張っているわ。先日は領民の方から悪阻の時でもたべやすいようにと果物の差し入れがあったのよ。」
「そうなの。それはありがたいわね。」

 私とお母様がサロンでお話をしている最中には、庭園の方からルーファスとエドガーお兄様が剣を交える音が聞こえてきています。

「エドガーも飽きないわね。もうエレノアはルーファスに嫁いだのだから戦いを挑む意味が分からないわ。」
「お兄様も、ルーファスと剣を交えることが楽しみでもあるんでしょう。なかなか騎士団長のお兄様と互角にやりあえる方はいないとお父様もおっしゃっていたから。」
「本当に男って馬鹿ね。」

 相変わらずおっとりした口調ですのにお母様は辛辣です。

「エレノア、来ていたのか。体調はどうだ?」
「ディーンお兄様。大丈夫、順調ですわ。お兄様は少しお痩せになったのでは?」
「まあね、ルーファスが領主の仕事をするようになってからルーファスがしていた分を父上から私が頼まれることも増えたからな。アイツも人遣いの荒い父上には苦労していたんだろう。」
「あら、そうなのですか。ディーンお兄様も次期宰相と謳われるほど優秀ですから、お父様も頼りにしていらっしゃるのよ。」

 そうこう話している間に、サロンへルーファスとエドガーお兄様が戻ってきました。

「エレノア!俺はルーファスに二度も勝ったぞ!だからこの兄様を抱きしめておくれ!」
「エドガーお兄様、苦しいですわ。」
「「エドガー、やめろ。」」

 エドガーお兄様がギュウギュウと抱きしめてくるので、苦しくてもがいていますとディーンお兄様とルーファスが絶対零度の低い声で制止の声をあげています。

「おい!ルーファス!俺はお前より年上だぞ!お兄様と呼べ!」
「そんなだからシュヴァリエ王国の騎士団長殿は女に興味がなくて、あるのは剣と妹だけだといわれるんですよ。」

 エドガーお兄様とルーファスは揃えば言い合いばかりしていますが、それでもお二人は本当は仲が良いのだと思います。

「お父様はまだお帰りにならないのかしら……。」
「そうねぇ、もうすぐ帰ると思うけれど。」

 お母様と二人で話している時に、サロンの扉が開いてお父様がお帰りになられました。

「エレノア!おかえり!久しぶりじゃないか。もう二週間も会っていなかっただろう?私は寂しかったぞ。今日も陛下にさっさと判を押せとせっついて、やっと帰って来れたんだ。」
「お父様、お疲れ様でございます。」

 皆の集まったサロンはとても賑やかになり、その後の晩餐もエドガーお兄様を中心にとても和やかに過ごしたのです。





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