すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭

文字の大きさ
21 / 66

21. 賢太郎の家へはじめての呼ばれたの回

しおりを挟む

 賢太郎の家は学校からすぐ近くの住宅街にある一戸建てだった。
 生まれてこの方ずっとアパート暮らしの俺にとっては一戸建ての家は憧れで、敷地に入るなり思わずキョロキョロと見回してしまう。
 広々とした、とは言えなくともちゃんと木々が植わった庭があって、そこには色とりどりの綺麗な花が植えてある。

「ヒカル、何か珍しいものでもあるのか?」
「いや、庭付きの家っていいなぁって。俺んち、ずっとアパートなんだよ。だから木とか花がある庭があるなんて羨ましいなって」
「……全然羨ましくなんかないよ。こんな家、引っ越さなくても俺はアパートでも良かったんだけどな」
「え……?」

 急に隣を歩く賢太郎の顔に翳りが差した気がして、俺は思わず前に回り込んで覗き込んだ。

「何かあった?」
「いや、悪い。何でもない。ほら、入れよ」

 玄関の扉を開けた賢太郎の顔はいつもの通りに戻っていて、俺はそれ以上話を聞く事ができなかった。

 家の中に足を踏み入れると木が多く使われた内装が落ち着いた雰囲気で、花柄の玄関マットやアンティークのようなおもむきのある小物がセンス良く飾られている。
 まるで雑誌から飛び出してきたようなおしゃれなインテリアはとても可愛らしくて、黙ってると無表情で怖いイメージの賢太郎とはミスマッチだ。

「なんか、センスのいいインテリア雑誌に出てくるような家だな」
「母親の趣味だ。こういう家に憧れてたらしい」
「へぇー」

 至る所にドライフラワーや生花が飾られている。庭が綺麗に手入れされていることも考えると、きっと賢太郎の家族は植物が好きなんだろう。

 どこを向いてもやはり洒落たリビングに通されると、そこには釣り道具も飾られている。
 戸棚の上の写真立てには両親と一緒にキャンプをしているような賢太郎の姿もあった。

「釣り、誰がするの?」
「ああ、メインは父親だけど俺も少しだけ。両親ともにキャンプとか好きでさ。昔からよく連れてかれた」

 リビングに接したキッチンから戻った賢太郎は、ペットボトルのスポーツドリンクを俺に手渡しながら写真立てに目をやった。

「そうなんだ。いいなぁ、また教えて欲しいな。俺、釣りとかした事ないんだよ」
「そうだな。二人だけの部活、どうせなら釣りもやるか」
「あっ! そうだ、その部活なんだけどさ……」

 実は、俺と賢太郎二人だけの部活に名前をつけようと思って考えていた。
 色々と候補はあったけど、とある名前に決めた。

「俺、色々考えて昨日名前だけは決めたんだ。言ってもいいか?」
「へぇ! 何て名前? まさか山岳部じゃないんだろ?」
「当たり前だろ! あんまり思い出したくないし、山岳部はもういいよ!」

 期待した顔でじっと見つめられると、自分が昨日割と真剣に悩んで命名した名前が少しだけ恥ずかしくなる。俺的にはしっくり来たんだけど。

「何? じゃあヒカルと俺だけの部活は何部になった?」
「……遠足部えんそくぶ

 そう、俺と賢太郎二人だけの部活の名前は『遠足部えんそくぶ』に決めた。俺は小さい頃から遠足って行事が大好きで、運動は苦手な癖に遠足でちょっと遠くまで歩く時には張り切って頑張ってたのを覚えてるから。

「え、やっぱり嫌だった? 遠足部。俺、昔から遠足の時だけは皆についてしっかり歩けてたんだよな。みんなで弁当食べたり、いつもと違う場所で遊んだりして楽しくてさ。でもやっぱり子どもっぽいかな?」

 えらく反応の薄い賢太郎に、心配になった俺は尋ねる。

(やっぱり遠足部はナシなのか?)

 俺の言葉を聞いてから、ボーッと何かを考えている様子の賢太郎はハッとしてその顔に笑顔を貼り付けた。気を遣っている感じの笑顔だって、鈍感な俺でも気付く。

「遠足部っていかにもヒカルっぽいな! いいんじゃないか。遠足部!」
「本気で思ってるのか? 嫌なら言えよ」
「嫌じゃないよ。遠足部っていうと、色々出来て楽しそうだし」

――……の時、一緒に……よう! 絶対ね!

 少し様子のおかしな賢太郎を見ているうちに、またぼんやりとした声が頭の隅をよぎった。
 しかし、毎回ストッパーのように襲ってくる軽い頭痛と胸の違和感と共に、その記憶は自分の意志で慌ててどこかへ仕舞う。
 前世の無くした記憶の一部なのか、俺は近頃こんな事がある度にとてつもない恐怖を感じていた。
 何か分からないけれど思い出すのが怖いし、深く考えたくも無いという不快感。
 
「それで、今から賢太郎の家で何をするんだ?」

 全身を包む違和感を振り払うように、俺は努めて明るく賢太郎に問いかけた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき
BL
 凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。  二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。  それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。 「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」  人前でそんな発言をして爽やかに笑う。  発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。

処理中です...