31 / 66
31. 記憶が戻ったらの回
しおりを挟む「あ! おにぃちゃん寝ちゃってるー!」
笑い声と共にそう話す小さな女の子の声で、ハッと意識が鮮明になる。賢太郎の肩に寄り掛かったままでいた事にどこかホッとして、慌てて姿勢を正す。
「おにぃちゃん、疲れたの? 山、下りられる?」
いつの間にか目の前に立っている女の子と、その後ろで笑いながらこちらを見つめる男の子に、俺は笑顔で答える。
「大丈夫。ちょっと寝たら元気出たよ。ありがとうね」
「良かったねー! じゃ、バイバーイ!」
俺と賢太郎が揃って「バイバイ」と手を振りながら言うと、子どもたちと男性は元気に下りの登山道へと戻って行った。その後ろ姿を見つめながら、これから賢太郎にどうやって接したら良いのか考えていた。
今までとんでもない勘違いをしていた。まだ全てを思い出した訳ではないけれど、きっと本当の事を言えない賢太郎を随分と困らせていたんだろう。
その後の事は考え事に集中し過ぎてほとんど覚えてない。どうやって下山したのかも分からず、気付いたら自宅の最寄り駅まで帰っていた。
「なぁ、ヒカル。黙ってばっかでどうかしたのか? 腹減ったとか?」
「うん……」
まだ午後になったばかりの時間で、このまま帰ってもきっと事態は悪くなるばかりのような気がする。ギュッと拳を握って息を大きく吸った。
「賢太郎、大事な話があるんだ。悪いけど、今から俺んち来て」
そう言ってから、賢太郎の手首を掴んで自宅アパートの方へと歩く。母さんは仕事に行って今なら誰も居ない。それに家ならこれから話す事を誰かに聞かれる心配も無い。もし俺が話の途中で体調を崩しても大丈夫だと考えた。
俺の硬い声音に何かを感じ取ったのか、賢太郎は言葉を発する事なく素直についてくる。本当は脚の長い賢太郎の方が、前を歩く俺に速度を合わせてるんだろうけど。何にも言わずについてきてくれる。そんな事さえもいちいち胸の柔らかいところを刺激した。
「はい、ここに座っててよ」
「どうしたんだよ?」
「ちょっと待ってて」
誰も居ない自宅アパートに到着してから、まずは賢太郎を自分の部屋に案内する。連れてくる予定じゃなかったから多少散らかってるけどこの際仕方ない。ラグの敷かれた床に座ってもらって、自分は姉ちゃんの使ってた部屋へと向かう。
「この辺り……」
家を出てしばらく経つ姉ちゃんの部屋では、大体の物は一人暮らしの部屋に持って行ったけど、本棚とそこに仕舞われた姉ちゃんの愛読書はそのまま保管されている。
本棚の下から二番目、左の方にある桃色の背表紙の漫画を久しぶりに手に取った。
俺はその漫画を持って自分の部屋へと戻り、訳の分からない顔で大人しく座っている賢太郎の目の前に差し出した。
「賢太郎、今までごめんな」
突然の言動についていけないのか、怪訝そうな顔付きをした賢太郎はその漫画を見るなり、サッと顔色を変えた。紙みたいに真っ白な顔色は今にも倒れそうだなと思って、自分より賢太郎の身体が心配になる。
「俺って馬鹿みたいだよなぁ。いくら思い込みが激しいからってさ……。ダイに話したら笑われそうだよ」
「ヒカル……、思い出したのか」
「思い出したよ、賢太郎。お前がカイルで、俺はシャルロッテ。俺達は確かにあの頃好き同士で、夫婦になってずっと一緒にいようって約束したよな?」
そんな俺の言葉に賢太郎が一瞬だけ息を呑んで、それから今にも血が滲み出そうな程に唇を噛む。いつの間にか握り込まれた賢太郎の拳は震えていた。
「保育園に通ってた頃、俺と賢太郎は本当に仲良しでいつも保育園の裏庭にある秘密基地で遊んでた」
あの頃の記憶を今思い返してみれば、それぞれが色々と大変だったと分かる。当時は分からなかった大人の事情だって、今ならはっきりと理解できた。
――同じ保育園に通う賢太郎と俺は、ある遊びに夢中になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉
小池 月
BL
☆ファッティ高校生男子<酒井俊>×几帳面しっかり者高校男子<風見凛太朗>のダイエットBL☆
晴青高校二年五組の風見凛太朗は、初めて任された学級委員の仕事を責任を持ってこなすために日々頑張っている。
そんなある日、ホームルームで「若者のメタボ」を注意喚起するプリントが配られた。するとクラス内に「これって酒井の事じゃん」と嘲笑が起きる。
クラスで一番のメタボ男子(ファッティ男子)である酒井俊は気にした風でもないが、これがイジメに発展するのではないかと心配する凛太朗は、彼のダイエットを手伝う決意をする。だが、どうやら酒井が太っているのには事情がありーー。
高校生活の貴重なひと時の中に、自分を変える出会いがある。輝く高校青春BL☆
青春BLカップ参加作品です!ぜひお読みくださいませ(^^♪
お気に入り登録・感想・イイネ・投票(BETボタンをポチ)などの応援をいただけると大変嬉しいです。
9/7番外編完結しました☆
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~
槿 資紀
BL
人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。
ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる