すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭

文字の大きさ
52 / 66

52. ジュリエット抜擢の回

しおりを挟む

 夏休みはあっという間に終わって、その間に賢太郎とデイキャンプや登山は何度も行った。だけど、はじめての泊まりキャンプの時に話していたコテージの話に関しては、夏休みはどこも予約でいっぱいで時期をずらすことにした。お陰で俺はまだあの日買ったアレを使うことなく過ごしている。

「文化祭かぁ……」

 夏休みが明けてすぐ、休み時間に自分の席でボーッと呟いているとニヤニヤと相変わらず犬みたいな笑みを浮かべたダイが近寄ってくる。夏休み中の俺と賢太郎の事に関しては詳しく話してないけれど、変なところが鋭いこの親友は何か察しているのかも知れない。

「ヒカルー! 今日から放課後は文化祭の準備だぞぉ」
「知ってる。ダイは実行委員だから大変だな」
「俺、こういうのは好きだからさ! 体育祭とか面倒だけどな。体育祭と言えば……ククッ」

 思い出し笑いをするダイが何を考えているのかは大体想像がついた。夏休みより前にあった体育祭、もちろん俺は運動音痴だからとにかく目立たぬようにとやり過ごすつもりだった。それなのに唯一出場した個人種目、障害物リレーで派手に転んで鼻血を垂らし、挙句にその鼻血の量に驚いて失神したんだ。

「ダイ、鼻血のこと思い出したんだろ」
「ぷっ、く……ッ、ははは……ッ!」

 ダイは少しの間肩を震わせていたが、堪え切れなくなったのか吹き出すと、その後は遠慮なく笑い出した。ダイの笑い上戸はいつもの事だから、周囲のクラスメイトも気にしていない。

「お前な、アレは完全に消し去りたい過去なんだから掘り返すなよ」
「だってさ……っ、鼻血思いっきり吹き出してたもんな! そんで、お前がぶっ倒れてあのゴリラ教師が抱えて走って!」

 ゲラゲラ笑うダイは、自分の言った事でまた記憶が蘇ったのかずっと笑いが止まらない。ちょっとだけ拗ねた風にすると、やっと落ち着いて声を落として話しかけてきた。

「あの時、賢太郎の顔も相当ヤバかったぞー。青い顔して今にもクラスの席から飛び出して来そうだった」
「そうなのか?」

 顔を擦り剥いて悲惨な目に遭ったその日は、あまり触れてほしく無くて自分からその話を振らなかったし、賢太郎も「大丈夫か?」と放課後に聞いただけで終わったのに。

(そんなに心配してくれてたのか)

「愛されてるね、ヒカルちゃん」
「ば……ッ、馬鹿っ! そういうこと言うな!」
「だって本当じゃん。そんなヒカルちゃん、体育祭は活躍出来なかったので、文化祭は活躍してもらいます」

 さっきまで耳のすぐそばで話して、それでも賢太郎の話をする時は声を落としていたダイ。急に普通の声の大きさになったと思ったら、突然とんでもない事を宣言した。

「文化祭実行委員とクラス全員で投票した結果! 文化祭の劇、ヒロイン役は宗岡光に決定しました!」
「は……?」
「だーかーら、ヒロインのジュリエット役がヒカルになったの!」

 その瞬間、休み時間なのにほとんどのクラスメイトが教室に揃っていた理由が分かった。全員が立ち上がって拍手をして、ある男子なんてノートに「ドッキリ大成功!」なんて書いてある。これはきっとダイが考えたサプライズだ。

「嘘だろ……。女子もいるじゃん。何で俺が……」
「あのですね、女子たちも全員一致でヒカルに投票しました。ヒカルが体育祭でゴリラにお姫様抱っこをされているのを見ていたから、みんな心が決まったそうです」

 そう言ってポンポンと俺の両肩を叩くダイは、その表情から完全に楽しんでいるのが分かる。それに、周囲の女子たちもワラワラと近寄ってきて次々に話しかけてくる。中にはそれまであんまり話したことがなかった子たちも多い。

「ねぇ宗岡くん! 宗岡くんこそ、ジュリエットに相応しいよ!」
「あの鼻血、まるで血を吐いたヒロインみたいで素敵だった。お姫様抱っこされて、連れていかれる姿なんてもう……」
「元々綺麗な顔をしてるんだから、必ずやどこのクラスにも負けない美女に仕上げるから!」

 ガクガクと上半身を掴まれて揺らされながら、「このクラスの女子ってこんなに話すんだ」と初めて知った。今まで遠巻きに見られているのは知っていたけど、俺があんまり鈍臭いから疎まれているのだと思っていた。

「このクラスに、喀血かっけつの美女がいて本当に良かったよねぇ!」

(喀血の美女……)

 俺はクラスでもどちらかと言えば目立たない存在で、特に女子からは遠巻きにされ嫌われているのかと思っていた。しかしダイから聞いたところによると、それは盛大な勘違いだったようだ。女子たちは体育祭以降俺の事を『喀血の美女』として密かに見守り、活動内容は不明だが『応援する会』まで発足されていたらしい。

「無自覚って本当罪だよな」

 休み時間が終わりを告げると、ダイはそう言って自分の席に戻って行った。何だか微妙に解せないが、とにかく俺は大変な役を任されたらしい。

 


 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき
BL
 凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。  二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。  それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。 「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」  人前でそんな発言をして爽やかに笑う。  発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。

処理中です...