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54. 意外なところでの回
しおりを挟む結局、本当に賢太郎とはまともに会う事もなく文化祭の当日を迎えた。記憶を取り戻してからというもの、こんなに長く会わない事は無かったから勿論寂しかったけど、代わりに劇の練習に本気で打ち込んだ。
「お、凛子ちゃーん」
ダイが廊下に向かってそう呼んだから振り向くと、そこには今日は仕事で来れない母さんに代わって文化祭を見に来た姉ちゃんがいた。姉ちゃんは確かに四捨五入すれば二十歳だけど、とっくに社会人なのに大学生になりたてみたいな格好をしている。
「姉ちゃん……何で今日そんな若づくりした格好なんだよ」
「馬鹿! 弟の高校の文化祭なんだから、せめて女子大生くらいに見られたいじゃない」
「いつもはパンツなのにスカート履いてるし……」
午後からの発表に向けて最終確認をしていたクラスメイト達は、突然現れた俺にそっくりな姉ちゃんの存在に心なしかざわついている。
「凛子ちゃんはスカート姿も似合ってて可愛いよなぁ!」
「ねー! そうよねー、ダイくん」
ダイと姉ちゃんは仲がいいから、そんな事を言いながら文化祭の冊子を一緒に広げている。これからどこをまわろうかと計画しているようだ。
「姉ちゃん、とりあえず廊下で待ってて。まだ最終確認終わってないから」
「はいはーい」
俺が姉ちゃんにあと少しだけ廊下で待つよう伝えると、衣装やセリフの最終確認に戻る。するとクラスメイトの女子達が次々と近づいて来たと思ったら、皆一様に姉ちゃんの事を尋ねてきた。
「宗岡くん、あれって宗岡くんのお姉さん? すっごく似てるんだね」
「めちゃくちゃ美人だし、女版の宗岡くんだー。ダイとも仲良いんだ?」
最後の方はちょっと面倒臭くなりながらも一人一人にきちんと答えて、なんとか当日の最終確認を終えた。今から午後までは自由時間だ。
他のクラスは売店で販売をしたり、カフェを開いたり、お化け屋敷やゲームを提供したりしている。確かに文化祭らしいそういった出し物もいい。だけどそれらに比べると圧倒的に自由時間が多くなる事を理由に、うちのクラスは演劇に決めたらしい。
「じゃ、早速まわろうぜー」
「ダイくんの親御さんは来ないの?」
「あー、今日は二人とも仕事。凛子ちゃんみたいな姉ちゃんがいたら良かったのになぁ」
そんな事を言い合いながら、姉ちゃんとダイは冊子を元に行きたいブースを決めてズンズン進んで行く。後ろから見てると俺よりよほどダイの方が仲の良い姉弟みたいだ。
「やめとけ。姉ちゃんって家では本当ズボラだし、それにめちゃくちゃ暴君で怖いから」
そう言って前を歩く二人の間に無理矢理入り込んだ。決してヤキモチを妬いた訳じゃない。
「馬鹿! 外でそんな事言わないでよ、光!」
「ほらな、こえぇだろ?」
そう言って笑うと、俺の背中を叩きながらダイもあの人懐っこい犬みたいな顔で笑う。
「ははっ! 凛子ちゃんの怒った顔、ヒカルそっくりだなー!」
「ちょっと、やめてよー。確かに昔はよく似てたけど、今はさすがに光も男っぽいでしょー?」
「まあ、そう言われたら昔のヒカルちゃんの頃の方が似てたかな?」
「あー……。あの頃はごめんね、光。あんまり弟のアンタが可愛くてさー」
一瞬、姉ちゃんの顔が引き攣った気がしたけどすぐに笑顔になって何とも軽い調子で俺に謝った。わざとそうしてるように見えたから、俺もわざと明るい調子で答えた。この話は今まで、宗岡家ではタブーみたいなもので誰も触れようとしなかったから。むしろこのタイミングで良かったのかも知れない。
「あの頃は姉ちゃんより可愛かった自信があるよ」
「なによー!」
「別に謝ってくれなくていいから。みんなから似合ってるって言われてたしな!」
姉ちゃんがその事について謝ってきたのは勿論初めてで、まさかこのタイミングでとは思ったけど案外自分も気にしてないんだなぁと思った。でも姉ちゃんの胸の中にずっとあったつっかえみたいな物は取れたのか、俺の答えにスッキリした顔で頷いていた。
(ダイに感謝だな。相変わらず、意図しなくても自然といい方向に向けてくれるんだから敵わないな)
「さっ、はじめはどこから行く?」
思いがけず長年のタブーが破られた俺と姉ちゃん、そしてダイは生徒と保護者が多く行き交う文化祭のメインブースに飛び込んでいった。
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