すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭

文字の大きさ
58 / 66

58. 母さんと姉ちゃんに話すの回

しおりを挟む

 ダイ達実行委員が幹事を務めた打ち上げはカラオケで、文化祭以前よりクラスに馴染めた事で楽しく過ごす事が出来た。あまり親しくなかったクラスメイトともじっくり話してみれば、全く印象が違ったりする。それは向こうも同じようで、俺の事を「いつもアンニュイな雰囲気でどこか近寄りがたい存在」だと思っていたらしい。

(なるほど、それでダイが気を使っていつも休み時間に話しかけにきてくれてたのか)

 こういう時も自分の鈍さが疎ましくなったが、ダイに話せば「別に俺が好きでしてただけ」と言って笑うだけなので、今度アイツの好きな牛丼でも奢ってやろう。

(あとは、帰ってから姉ちゃんに賢太郎の事を話さないと……)

 どういう風に言われるのか予想がつかず、ジュリエットを演じた時よりもよほど緊張する。住み慣れたアパートの廊下で一呼吸おく。玄関扉がいやに重く感じたが、勇気を出して一歩踏み出した。

「ただいま」

 リビングには姉ちゃんと、既に仕事から帰った母さんがいた。俺が打ち上げに参加していつもより帰るのが遅くなったからだ。二人ともソファーに座ってお茶を飲んでいる。

「おかえりー」
「おかえり。凛子から聞いたけどジュリエット、よく出来てたってね」
「うん、まぁね」

 早く話せと言いたげな姉ちゃんの視線を痛いくらいにビシビシ感じて、とりあえず三人掛けソファーに座る姉ちゃんの隣に腰を下ろす。母さんは姉ちゃんと俺のおかしな雰囲気に何かを感じ取ったのか、口元の笑みが消えていた。

「あのさ……」
「何? 何があるの?」
「うん、話があって……」

 姉ちゃんの方をチラリと見ると、顎をツンと上に向けて「早く続きを話せ」としゃくる。母さんは何だか不安そうな顔つきになって前のめりに座り直した。

「実は……、えーっと、あのー」
「光、さっさと話しなさいよ。大丈夫だから」

 急かすようにそう言う姉ちゃんに背中を押されて、俺は思い切って一息に伝えたい事を言い切った。

「実は俺、賢太郎と付き合ってて! それで変だと思われるかも知れないけど、男同士の恋人同士で! それを黙っておくのも変だなと思って二人には言っておきたくて!」

 もう半分ヤケクソで言い放つ。母さんの顔を見るのが怖くて、ずっとテーブルの上の湯呑みの柄を見つめていた。途中でハッと息を呑んだのは分かったけど、以降母さんは答えない。その代わり、姉ちゃんが口を開いた。

「母さん、光がこうやって言いにくい事を勇気を出して言ってくれた訳だし。特に私たちもそういうことに偏見は無いわよね? そうでしょ?」
「……凛子」
「久しぶりにあれ、見せて。母さんの、あれ。私も持って来るから」

 ヒッと母さんが小さく悲鳴を上げて肩を揺らした。姉ちゃんと母さんの話してる事は全く俺には見えなくて、少しの間コソコソと押し問答をしている。そして何やら二人が立ち上がってリビングから去った後、俺は意味も分からずポツンとソファーに残された。

「何なんだよ……一体」

 やがてリビングに帰って来た二人は年季の入った段ボールを抱えていた。

「それ、何?」
「いい? アンタが勇気を出してくれたから、私も母さんもアンタに秘密を話してあげる。母さん、いいよね?」

 母さんは姉ちゃんに言われるがまま、項垂れたようにして頷いた。そして二人が開いた段ボールの中身は……。

「美少年漫画……耽美……やおい……BL……オメガ……?」
「きゃあー……ッ!」

 俺が段ボールの中で目についた文字を読み上げると、顔を覆い隠していた母さんは突然悲鳴を上げた。びくりと大きく身体を揺らしてそちらを見ると、耳まで赤くして震える母さんが姉ちゃんに抱き抱えられている。

「いい? 光。私と母さんは生粋の腐女子なの」
「ふ、ふじょし?」
「つまり、ボーイズラブが好きなのよ。男同士の恋愛ね」
「へ……?」

 どうやら俺は、とても恵まれた環境で生まれたらしい。

「それにしてもねぇ、まさかアンタがそうなるとは思いもよらなかったけど。でも、ねぇ母さん?」
「まぁ……、変な女に引っ掛かるよりはいいわ。嫁姑問題なんて嫌だし」
「なるほど! それはそうね!」

 どこか吹っ切れた様子の二人は、俺の前で散々腐女子について語り、挙句には俺と賢太郎がどっちの役割なのかみたいな事も聞いてきた。普通、親なら顔を顰めそうなもんだけど、何故か母さんは「変な女に引っ掛かるよりはマシ」を連呼していた。

「つまり、俺と賢太郎の事を反対はしないと?」
「しないわよ。アンタがそれで幸せならね」
「母さんも?」

 大体良い返事が貰えそうだと思いながらも、やはり怖くてそろそろと母さんの方を見る。

「しないわ。光が幸せなら。それに、私から賢太郎くんとお母さんに……謝らないとね」
「母さん……」

 そう言って涙ぐんだ母さんを見たら、俺は急に目の前が滲んでボロボロと涙が零れ落ち、遠慮なく頬を濡らした。

「それでね、光。面白いんだけど、母さんが腐女子になったキッカケって父さんの浮気なのよ。父さんがチャラチャラした女に引っ掛かったから、ムカつくヒロインの出てこないBLにハマったんだって」

 思わぬ家族の秘密を知る事になったが、これで俺は後ろめたさを感じる事なく賢太郎と一緒にいられる。そう思うと心が随分と軽くなった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき
BL
 凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。  二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。  それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。 「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」  人前でそんな発言をして爽やかに笑う。  発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。

処理中です...