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13. 治癒魔法
しおりを挟む翌日、まずは疫病流行の始まりの街であるカビルという街へと馬車で向かった。
カビルは古くからの商都で、大小様々な商店があったり商人が多く行き交う場所でもあるそうだ。
「とりあえず教会へ向かう。そこに疫病にかかった者たちが集まっているそうだ。」
私たち三人は賑やかな街中を馬車で通り抜け、中心街から少し離れた疫病の患者が集まっているという教会へと向かった。
「ようこそいらっしゃいました。偉大なる魔法使いアレクサンドル様。」
教会前には長いワンピースのような服の上にマントを重ねたような服装の四十代くらいに見える男性がいて、私たちを出迎えてくれた。
「しばらくこちらで疫病の治療にあたらせてもらう。こちらはジャンとユリナ。これから教会には何かと世話になると思うがよろしく頼む。」
「私は司祭のティエリー・ド・ラヒムと申します。このように疫病が流行り本当に困っているところへ魔法使いアレクサンドル様をお迎えできて僥倖です。ジャン様、ユリナ様もどうかよろしくお願いします。」
リーフグリーンの髪色にオリーブのような綺麗な色の瞳を持ったティエリー司祭は、早速教会に併設された診療所のようなところへと案内してくれた。
診療所は石造りの建物で、薄暗く窓も閉め切った空間で患者の横になったベッドがたくさん並んでいた。
そこに入り切れない人々は屋外のテントのような場所で座ったりごろ寝して過ごしていた。
「疫病にかかった者の症状は?」
「ひどい嘔吐と下痢を繰り返し、多くの者は腹痛を訴えております。その内衰弱していき、幼子や老人は亡くなっています。」
「そうか。ではベッドに寝ている重症の者から治癒をしていく。」
ティエリー司祭に案内されながら、アレクはベッドに横になっている患者の傍へと近寄る。
患者は随分衰弱していて痩せ細り、口元もカラカラに乾いているように見えた。
「このようになると、嘔吐も下痢もなく食事も摂れないまま亡くなってしまうことが多いのです。」
ティエリー司祭は私たちの方へ向かって、そのように説明した。
「治癒。」
アレクが意識が朦朧としている感情の額へと手を翳し詠唱する。
すると患者の表情がスウッと安らかになり、血色の悪かった肌はピンクがかった健康な顔色に変化した。
「すごい……。」
「アレクサンドル様は疫病が流行ったり、戦争で怪我人が出たりした時にもこうやって魔法で治してくれたんだよ。」
ジャンは以前に治療を行った時のことを回想して、尊敬の眼差しをアレクへと向けている。
次々と治癒をかけていき、ベッドに横になっていた患者たちは次第に減っていく。
代わりに屋外のテントや露天にいた患者たちが次々に入ってくる。
「もう百人はゆうに超えたよね?アレク大丈夫かな?」
「そうだなあ。そろそろ今日は終わりにした方がいいかも。明日もあるしね。」
アレクの顔色が少しずつ翳ってきている気がして、一緒にベッドを整えたり患者を誘導していたジャンに声をかけた。
ジャンも同意してアレクと司祭がいるところへと向かっていく。
「アレクサンドル様、そろそろ今日の治療は終了にしましょう。今日は重症の者たちが多かったですから。また明日続きを行う事を外の者には伝えてきますから。」
「おお、そうですね。アレクサンドル様のおかげで随分と疫病に冒された者が助かりました。お疲れでしょうから、続きは明日にでもいたしましょう。」
「……分かった。すまんがよろしく頼む。」
アレクは思いの外すんなりと了承して室内に残っている患者の治療だけは終わらせ、あとの治療は明日へと持ち越すことにした。
「アレク、大丈夫?今日はしっかり休んで。」
「ああ。悪いな。お前たちも疲れただろう。」
「私とジャンは大丈夫!ね?ジャン。」
「まあ僕はちょっと疲れましたけど……。」
ジャンは自分に正直だから疲れたら疲れたって言うけど、アレクは普段本心が分からないというか疲れも見せないから余計に心配だった。
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