リセット

如月ゆすら

文字の大きさ
表紙へ
86 / 252
5.5巻

5.5-3

しおりを挟む
 課題に一通り目を通したヒューイは、ふいに席を立つと、本棚から赤みがかった革装丁の本を取り出した。それをアマリーに差し出して言う。

「これは、薬草茶の本でね。まずはこの辺りから覚えていくといい。実際に薬草を採ってきて、お茶にして飲んでみるのもいいしね」

 アマリーはヒューイから本を受け取ると、早速ページを開いてみた。
 それは気軽に楽しめるハーブティーを扱った本で、彼女も知っているようなものをはじめ、様々なお茶が効能と共に記してあった。

「薬は、量や配合次第では毒になることもあるんだ。材料となる草花も、部位によって毒にも薬にもなったりするからね。だからこそ、正しい使い方をきちんと学ぶ必要がある」

 彼の説明に、アマリーはコクコクとうなずく。
 確かに花や葉は毒でありながら、根だけは薬になるといった薬草が存在する。それを図鑑などで知ったアマリーは、薬草というものの奥深さを改めて感じていた。

「だけど、薬草茶にはそこまで大きな問題になる薬草を使わないから、薬草を学ぶにはちょうどいい。花屋にあるものを加工してみるのもいいし、ハーブティーを扱う店なんかでも手に入るんじゃないかな。自分でも試してみたら、効能だけではなく、味や香りなんかの特徴もわかるから。それを後で文章にまとめてみるのも勉強になる」
「はい」

 ひたすら薬草の知識を詰め込み、それを加工する方法を実践する――そんな授業をぼんやりと考えていたアマリーだったが、意外にも楽しみながら学ぶ方法を教えてもらい、良い意味で裏切られた。

(最初はすごく不機嫌そうだったし、身なりもだらしない感じで、大丈夫かしらなんて思ったけど……なんだか放課後が楽しみになりそう!)

 若干失礼な感想を持ちながら、アマリーの顔はワクワクとした気持ちのままほころぶのだった。


     †


「先生、これは二十グラムでいいんですよね?」
「そうそう。あとこちらの煮詰めたものと混ぜて、しばらく置いておけば完成だ」

 アマリーが問いかけると、ヒューイは自分の作業をしつつ、次の指示を出した。それを聞いた彼女は、迷うことなく言われた通りの作業をこなす。
 アマリーが放課後にヒューイのところに通いだしてから、三ヶ月が経った。
 最近では講義の後に、彼の研究作業を手伝うことが増えた。
 ちなみに、彼女が『ヒューイの研究所』と呼んでいるこの家は、数代前の学院長が趣味で建てた宿舎らしい。
 当時のレングランド学院長は、学院で用意された王都にある宿舎や、学院の寮が好みに合わず、自身の特権によって、この場所に農家風の家を建設したという。
 その学院長が引退してからは、希望する教師が使用していた。しかし設備が古く不便なことから不評で、しばらくの間、空き家となっていたのだ。
 それをヒューイが、自分でリフォームすることを条件に借り受け、今に至る。

「よし、完成」

 翠色みどりいろの液体が入ったびんを机の上に置き、アマリーは満足げに腰に両手を当てた。ヒューイに報告しようと振り向くと、彼は何やら真剣な顔で作業をしている。アマリーはそれを好奇心を隠せぬ様子で見ながら声をかけた。

「ヒューイ先生、それは?」
「魔物避けの薬だよ。魔生物学の研究所から頼まれたんだ。近々行う魔物の駆除に必要になるんだそうだ」
「魔物避け、ですか」
「ああ。すべての魔物に有効というわけではないが、獣から変化したと思われる魔物にはよく効くんだ。獣避けの薬を強化する形で作っているから、そのせいかもしれないが」

 アマリーはヒューイの説明に熱心にあいづちを打ちながら、彼が持つ赤紫あかむらさきの瓶を眺めた。

(薬草学って本当に奥深いわ。人をいやすだけじゃなくて、人の生活をより良くするための薬というのもあるんだもの)

 学べば学ぶほど、興味が尽きない。
 もともと勉強がさほど好きではないアマリーだ、単調な授業であれば、すぐに飽きていただろう。
 だからこそ自主性を重んじ、かといって突き放すでもなく適切な指導をしてくれるヒューイは、アマリーにとって理想的な教師といえた。もっとも――

「うわぁっ!」

 ガシャンッ、というガラスの割れる音で我に返ったアマリーは、目の前の光景に深々とため息をついた。
 何をどうやったのか。ヒューイの足元にはガラスの欠片かけらや、粉にした薬草などが、あちこちに散らばっている。彼は青ざめた顔で、散乱したガラスから一歩身を引く。頭上に突き出した手に魔物避けの薬びんを握ったままだ。


「……先生」
「う……」
「何をやってるんですか」

 呆れたようにつぶやいたアマリーに、ヒューイは言葉を詰まらせる。

「いや、机の上に色々乗っていたから、どけようと……」
「それで何故、このさんじょうに?」
「……何故だろうね」

 アマリーが半目でヒューイを見ると、彼は乾いた笑みを浮かべながら頬をいた。

「はぁ……仕方ありませんね。片付けますから、どいて下さい。あ、その瓶は渡してもらっていいですか。先生が持ってるとそれまで壊しそう」
「う……、すみません」

 ヒューイは情けない顔で謝ると、そそくさとその場を離れ、部屋の隅に置かれていた椅子に腰掛ける。その姿は、まるで叱られた子供のようだ。

(もう、本当に研究以外はどこか抜けてるんだから……)

 心の中で文句を言いながら、アマリーはテキパキと割れたガラスを片付け、その周辺と、ついでに机の上を掃除した。
 大貴族の令嬢とは思えない手際の良さで仕事を終えると、彼女は部屋の隅で小さくなっているヒューイを見る。

「はい、終わりましたよ」
「ありがとう、助かったよ」

 ホッとしたような笑顔で、ヒューイが礼を言う。アマリーはそれに首だけ振って応えると、机上の魔物避けの薬が入ったびんふたをした。

「これは無事でよかったですね」
「そうだな。結構貴重な材料が入ってるから、無駄にしてたら大変だったよ。助かった」
「というか、先生が使う道具には、すべて〈強化〉の魔法でもかけておくべきですよね」
「そ、そこまではしなくていいと思うが」

 ヒューイが否定すると、アマリーはわざとらしく肩をすくめる。

「自分が破壊魔だっていう自覚がないんですか? ここ三ヶ月で、どれだけの器材や瓶が壊れたことか……おかげでわたし、掃除がとても得意になりましたよ」

 アマリーはそう言いながら、その時の大変さを思い出すように遠い目をした。


 あれは、放課後、ヒューイの研究所に通うことになってからすぐのこと。
 まず最初に彼女がしたのは、勉強ではなく各部屋の掃除だった。
 初日に通された書斎は、ヒューイの書類仕事用の部屋だったため、机の上が雑然としている程度で済んでいた。が、他の部屋は、入った途端アマリーが硬直するほど荒れ果てていたのだ。
 壁や床のあちこちに、何か得体のしれないものがこぼれて出来た染みや跡。物は散乱し、くすりだんや机の引き出しはどれもきちんと閉められておらず、泥棒が入った後のような有様だった。

「は、はは……」

 あまりにも衝撃的な光景に、アマリーは思わずった笑い声をあげてしまったほどだ。そんな状態の彼女を見ても、ヒューイは悪びれることなく、軽い調子で笑っている。

「悪いね。忙しくて掃除に手が回らないんだ」
(忙しくて手が回らないなんてなまやさしい状況じゃないでしょ、これ!)

 アマリーは心の中で盛大に突っ込むと、おもむろに制服の袖をまくった。

「とりあえず、今日はここの掃除をしますね! それで一日終わってしまいますが、明日も来ますので講義はその時でお願いします!」

 有無を言わせぬ彼女の迫力に、逆らうのは得策ではないと思ったのだろう。ヒューイは「わ、わかった」とおびえた表情で了承した。
 返事に満足すると、アマリーは気合いを入れて部屋の掃除に取り掛かる。
 そして、ようやく掃除を終え、アマリーが道具を片づけるため他の部屋のドアを開けると――目の前にはさきほどの書斎と同じくらい荒れ果てた部屋。それをの当たりにした彼女は、がくぜんとした。
 しかも片づけたそばから、すぐにヒューイが物を壊したり散らかしたりと、さらに仕事を増やすのだ。
 結局アマリーは、三日連続で通い詰め、すべての部屋の掃除を終わらせた。もちろん、その間、講義はおあずけだったのだ。


(ヒューイ先生って、研究者としても教師としても優秀な方だと思うけど、どうして生活能力だけはないのかしら……)

 アマリーは苦笑するヒューイを横目に思う。

(でもこんな大きな欠点があるからこそ、こちらも気負わずにいられるのかもしれない)

 最初は呆れていたアマリーだが、最近ではヒューイのこういった抜けている部分がなんだか可愛らしいとまで思えてきた。先生であり、十も年齢が上の男性なのに、だ。

(やけに長女気質を刺激されるっていうか……わたしってば、根っからの世話焼きだったのね)

 自分の新たな側面を自覚したアマリーは、以後、彼の世話を焼くのがすっかり板についてしまったのだった。


     †


 そうして時は過ぎ――
 アマリーがヒューイに教えをうてから、一年の歳月が流れた。

「アマリーさん、悪いがこれを選別するのを手伝ってほしい」

 ヒューイが出先から戻るなり、いつものように研究室で手伝いをしているアマリーに言った。
 彼女がヒューイの指す方に目を向けると、買い込んできたのか、それともどこかで採取してきたのか、たくさんの種類の草花が入った大きなかごが置かれていた。

「どうしたんですか、これ」
「先週行った校外学習の成果だよ」
「校外学習の?」

 目を丸くするアマリーに微笑み、ヒューイは籠の中から中身を取り出す。
 校外学習はその名の通り、学院の外で行われる授業だ。薬草を採取したり、棲息せいそくする動物を観察したりと場所によって課題は異なる。今年は薬草採取がテーマだったため、アマリーもはりきって参加したのだった。

「教師が確認して毒草や取り扱いが危険なものを除いたら、教材や研究所で使用するんだ」
「なるほど、これは確認後に寄付されたものなんですね……そういえば、校外学習で集めた薬草がどうなるかだなんて気にしたことなかったです」
「まぁ、そうだろうね。大体はよくある薬草だから、教材などの消耗品として使われることが多いよ。ただし、まれに希少な薬草も手に入るから、校外学習といえど、なかなかあなどれないんだ」

「へぇ」と感心しながら、アマリーはヒューイに近づいて籠の横にしゃがみこむ。そして、薬草の仕分けを手伝いだした。
 迷うことなく、しかも正確に仕分けていくアマリーを見て、ヒューイは口元を緩める。
 アマリーが後期の薬草学の講座を受けられるまで――そう期間限定で決められた放課後の勉強会は、結局のところ一年近く経ってもまだ続けられていた。
 それは、勉強会をやめたくないため、終了の話題を出さないでいるアマリーのせいかもしれない。しかも最近では、一日おきという取り決めもなくなり、アマリーは時間の許す限り研究室に通うようになっていた。
 それだけ一緒に過ごしていれば、それなりに打ち解けてくるというもの。
 半年近くの間ヒューイから「リヒトルーチェじょう」と呼ばれていたアマリーだが、「アマリーシェ嬢」を経て、最近ようやく「アマリーさん」へと進化した。
 そして彼女は、いつの間にかヒューイの手伝いどころか、助手と言えるほどの力を身に付けていた。
 彼から特に褒められたことはないが、なかなか役に立てていると思うのは、決してアマリーの自惚うぬぼれではないはずだ。もっとも、お掃除要員なのは相変わらずだが。

「アマリーさんが手伝ってくれるようになって、仕事がやりやすくなったよ」

 ふとした拍子にヒューイが言ってくれる言葉に、アマリーは心から嬉しくなる。

「先生の教え方が良いからですよ」
「そうかな? 僕はあまり人付き合いが良い方ではないし、くちだから、誰かに教えることに関しては、まったく自信がないんだよ」

 自嘲じちょうするようなヒューイの言葉にかぶりを振り、アマリーは以前から不思議に思っていたことをいてみた。

「――ヒューイ先生は、伯爵位をお持ちですよね? それなのに、どうしてレングランド学院で非常勤講師をしているんですか?」

 伯爵という身分がありながら、一研究員として研究に没頭するなど、普通に考えればありえない。
 彼女の疑問に、ヒューイはしばし躊躇ためらった後、ゆっくりと話し出した。

「幼い頃から薬草学に興味があってね。幸いにもその才もあったみたいで、国の役に立つ研究成果をあげることが出来たんだ。ほら、前に作った魔物避けの薬とか。あれで多少なりとも被害が減った実績もあって、それで国から予算がもらえることになった。領地は現役を退しりぞいた父が見ていてくれるし……僕はまぁ、研究すること自体が仕官しているととらえてもらっているから、伯爵家を継いだ今でも研究に専念出来ているんだ」
「それってすごいことですよね」

 アマリーは感心したようにつぶやく。
 レングランド学院で研究を続けている時点で、研究者としては十分認められているといえる。その中でも国から予算をもらえる研究者は、一流どころか超一流と言ってもいいくらいだ。
 アマリーがそう賞賛すると、当の本人は天を仰いで苦笑いを浮かべる。

「さぁ、どうだろうね。僕は研究が好きだからやっているだけだし。それにさっきも言ったけど、人に教えることには自信がないから、出来れば教壇きょうだんに立ちたくないんだ。だけど、研究者としても若者の育成はしなくちゃいけないと思うからね」
「うーん、でもわたしはヒューイ先生に教えてもらえて、すごく勉強が楽しいです。だから、そんなにご自身をすることはないと思いますけど」
「そっか……うん、アマリーさん、ありがとう」

 てらいのないアマリーの言葉に、ヒューイは一瞬面食らったようだが、すぐに満面の笑みを浮かべた。

「――ッ!」

 アマリーは、見たこともないヒューイの全開の笑顔に動揺してしまい、咄嗟とっさに立ち上がろうとした。

「あっ……」
「危ない!」

 急に立ち上がったせいで、バランスを崩したアマリーの身体が後ろに傾く。

(この後ろって、確か薬品がしまってあるガラス棚よね……まずいわ、怪我しちゃうかも)

 アマリーは倒れ込みながらも、のんにそんなことを考える。
 すると次の瞬間、思いがけず力強い腕に抱きとめられた。

(えっ……?)

 大きな手で肩と腰を支えられ、次いで全身がすっぽりとぬくもりに覆われる。
 アマリーは混乱した頭で、なんとかこの状況を把握した。

(ヒューイ先生に抱きしめられている!?)

 理解した途端、未だかつて経験したことがないほど激しい羞恥しゅうちが彼女を襲う。

「ああああのっ! も、もう、大丈夫ですから!」

 アマリーは顔を真っ赤にして、彼との間に挟まれた両腕で押し、密着していた身体を離した。そしてヒューイの顔を見上げると、ハッと顔を強張こわばらせる。
 眉間にしわを寄せ、奥歯を噛み締めてもんの表情を浮かべるヒューイ。いつもは彼の若葉わかばいろの瞳を覆っている分厚い眼鏡が不自然にずれている。
 彼の肩越しに見えるのは、大きなガラス棚だ。二人分の体重を乗せてぶつかったためか、はめ込まれたガラスはほとんど砕け散ってしまっている。扉の木枠には、とがったガラスが残るのみだ。

「ヒューイ先生!」

 アマリーは慌ててヒューイから離れる。そして、床に散らばったガラスの破片に気をつけながら、彼の後方をのぞき込んだ。
 棚に残ったガラスの鋭い切っ先に血が付着しているのを見て、彼女は大きく息を呑む。

「先生、血が……!」

 思わず声をあげたアマリーを、ヒューイは穏やかな声でなだめた。

「少しかすっただけだと思うから、大丈夫だよ」
「でも……」
「君の方は怪我はないかい?」

 ヒューイはそう言うと、心配そうにアマリーの顔をのぞき込む。
 アマリーの目の前には、眼鏡のレンズ越しではない、あざやかな若葉色の瞳。彼女は、またしても顔に熱が集まるのを感じながら、ゆっくりうなずいた。

「わ、わたしは大丈夫です」
「そうか……君が無事でよかった」

 ヒューイもホッとしたのだろう。アマリーの言葉を聞いて、にっこりと微笑んだ。その笑顔にアマリーは思わず目を伏せる。

(な、なんでわたし、先生を直視できないのー!)

 顔に熱が集まり、心臓がドクンドクンと激しく鼓動を打つ。自分を必死に落ち着かせようと、アマリーは下を向いたまま、何度も深呼吸を繰り返した。

「本当に大丈夫かい?」

 上から落ちてくる心配そうな声に、アマリーはようやく意を決して彼の顔をまっすぐ見る。

「ほ、本当に大丈夫ですよ。それより先生の方が怪我を……」
「これくらいなら、僕の魔法でも治せるから気にしなくていいよ。それにしても、助けようとして被害を拡大してしまった気がするな……」

 少しばかり落ち込んだ様子で告げるヒューイに、アマリーはブンブンと大きく首を横に振る。

「そんなことありません! 先生のおかげでわたしは怪我一つなかったんですっ」
「ははっ。ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になるよ」
「本当です。怪我がなかったのは先生のおかげです!」

 必死に訴えるアマリーに、ヒューイは目を細めて彼女の頭を軽く撫でる。

「君を守れてよかったよ」

 何気なくつぶやかれた言葉に深い意味はないのかもしれない。だが、アマリーには、その言葉が宝物のように胸に染みこんでいった。


     †


「……そんな感じ、です」

 顔を真っ赤にしてヒューイとの思い出を語り終えたアマリーは、最後はおどけた調子でそう言った。
 そんな彼女に、「くっ……可愛すぎですわ、アマリー様!」などと思いながらも、表面上は至極真面目な表情でエレイナはうなずく。

「なるほど、あのエストランザ様がまさか……」
「『あの』って何よ、『あの』って」

 エレイナの言外の含みに気づき、アマリーは不満そうな顔で抗議する。

「いえ、失礼ですが、あの方にそのようなびんな動きが出来るとは、少しばかり意外でしたので。その、普段はおっとりというか、ぼんやりというか……」
「エレイナ、それはちょっと失礼よ。それにそういう世話が焼けるところも良いのよ」
「というか世話が焼けるから、恋に落ちたのですか?」

 正直、アマリーの好みは謎だ、と思いつつエレイナは尋ねる。

「そんなことは……それだけじゃないし……」

 エレイナの質問に、アマリーは答えながらも目を泳がせた。

「でもそれは、男性としてどうなのでしょうか……」

 エレイナが思わずつぶやくと、アマリーは慌ててヒューイをようする。

「せ、先生の良いところはそれだけじゃないわよ!」
「他にもあるのですか?」
「そりゃ、普段のどこか抜けてるところとかなんかも、可愛くてほっとけないとは思うけど、研究に没頭している時はかっこいいっていうか、なんていうか……」

 頬を染めて恥ずかしそうに言うアマリーを見て、エレイナはまたしても内心でもだえる。

(恥じらうアマリー様、なんて可憐なのかしら! ……というか、このお姿を見ていると、エストランザ様が非常にむかついてくるのは何故でしょう)

 ぐっと握り拳を固めたエレイナに気づくことなく、アマリーははにかみながら話し続ける。

「でもね、好きだなって自覚したのは、さっき話した……棚からかばってくれた時なの」

 そう言ってアマリーは、『あの時』を思って夢見るような表情になった。

「なるほど、いわゆるギャップというものですか。いつもは頼りなさそうなのに、危機が迫った時に男らしさを発揮すると、どんな男性でも格好よく見えるという」

 エレイナのあまりの言いように、アマリーはぷっと頬をふくらませる。

「なんでそんな言い方するのよ、エレイナ」
「すみません」

 あまり悪いとは思っていなさそうな口調で謝られ、アマリーはさらにふくれっつらになった。

(まぁ確かに、普段のヒューイ先生を知っている人なら、あの時の先生の行動なんて想像も出来ないでしょうけど……)

 そんな感想を抱く時点で、アマリーにもエレイナを責める資格はないのだが、彼女も『自分がけなすのは良いが、他人に言われると腹が立つ』という心理におちいっていたので仕方ない。

「それに……」

(あの時のヒューイ先生の格好良さは、わたしだけが知っていればいいんだもの)

「アマリー様?」

 途中で言葉をつぐんだアマリーを、エレイナが不思議そうに見てくる。それに気づきながらも、彼女は軽く笑ってした。

「とにかく、そんな感じなのよ!」

 どんな感じだと思いつつも、エレイナは賢明にもそれ以上何も言わず、コクリとうなずいた。しかし、ふと大事なことに気づいて口を開く。

「あの、アマリー様」
「なぁに?」
「失礼ですが、聞いているとアマリー様がおしたいしているだけ、ともとれるのですが……」
「え? わたしの片想いだから、それはそうね」

 エレイナの疑問にあっさり答えるアマリー。だが、それを聞いたエレイナはとても平静ではいられなかった。

「えぇぇぇぇ!?」

 常にない驚きの叫びをあげるエレイナに、アマリーは目を丸くする。

「ちょっと、どうしたのよエレイナ。落ち着いて」

 アマリーはエレイナを落ち着かせようと、両手を上下に振って制する。すると、エレイナは身を乗り出してその手をがっしりと掴んだ。


しおりを挟む
表紙へ
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。