小さな幸せの見つけかた

なつこ

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幕間 SIDE:東郷貴彦

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(全く……変わったヤツだったな、侑吾は)

 遅い夕食として、侑吾と二人で近所のラーメン屋で腹を満たした東郷貴彦は、事務所の奥にある自室で、ソファに座って煙草を吸っていた。


 東郷が小野寺侑吾を見つけたのは、ただの偶然だった。東郷が事務所を構える雑居ビルは、新宿にほど近く、夜になればケバケバしいネオンが光り、若者や酔っ払いが多く増える。雑多で騒がしい街だが、東郷はこの街をそれなりに気に入っている。
 仕事を終え、さて夕飯でも食べに行くかと椅子から立ち上がり、何気なく窓の下を見れば、ふらふらとした足取りで歩く少年を見つけたのだ。

(……何か、怪しいな、あいつ)

 こういう時の自分の直感は、信用するようにしている。酔っ払っている様子はないのに、歩く様子に生気がない。まるで死に神に取り憑かれたような足取りは、かなり怪しい。

(……あいつ、ヤバいな。やるかもな)

 この場合の「ヤバイ」は自殺しそうなヤバさだ。旅行バッグのようなものを持っているようで、身なりは綺麗そうだが、もしかしたら家出少年かもしれない。

(面倒な事にならなきゃいいが)

 ぶっちゃけ、知り合いでも何でもない相手が死のうがどうしようが東郷にはどうでもいい。ただ、もしこの雑居ビルで自殺しようとするなら別問題だ。そんな事をされた日には、このビル自体の評判が悪くなるし、下手すると土地の値段にも影響しかねない。

(おいおい、頼むぜマジで)

 まさかと思いつつも、妙に気になってしまい、暫く窓の下を見つめる。すると、東郷の期待を裏切って彼はこの雑居ビルへと入ってきた。
 もしかしたら、このビルに入っている店に来る為かもしれない。そんな淡い期待を抱いたのは一瞬で、東郷の直感は「あいつを放っておくとマズイ」に全フリだった。

「……チッ」

 急いで事務所を出て階段を確認すると、コツコツと階段を上がる音が聞こえる。音だけで動向をうかがっていると、小さくキィとドアを開ける音がした。

(――まさか、マジで屋上に上がっちまったか?)

 急いで階段を駆け上がり、屋上へと向かう。早足で駆け上がり、屋上へのドアを開けた先にいたのは、間違いなく先ほど窓の下で見かけた少年だった。
 ケバケバしいネオンの中、夜の灯りに照らされた少年の顔は、酷く儚げでとても淋しげだった。自殺願望者のように、遺書を用意している様子も見られず、東郷はもしかして彼が自殺しようと見えたのは、己の勘違いなのかと思ったほどだ。
 だが。

「――――っ!!」

 夜景を見つめていたはずの少年の体が、ゆっくりと前に傾く。あと少し身を乗り出してしまうと落ちてしまう寸前で、東郷は少年の腕を掴み思い切り引き寄せた。

「――おいっ! 何やってんだ!!」

 上半身のほとんどを宙に投げ出した体を引き寄せて、反射的に抱き留めた。想像以上に細い体に、僅かに目を見張った後、すぐに腕の中少年に怒鳴りつけた。

「こんな所で自殺なんかされたら迷惑なんだよ。死ぬなら人の迷惑にならない所で死ね」

 苛立ちと共に投げつけた言葉に返ってきたのは。

「…………え、と……じ、自殺をしようとしたんですかね? 僕」
「………………大丈夫か? お前」

 想像の斜め上の返事に、苛立っていた東郷の気持ちが凪いでいく。見れば、先ほどのような儚さは消え、戸惑いしか見えなかった。身なりも清潔だし、訳ありなのは持っている荷物の多さで気付いたが、ここまで来ると知らぬ顔をする事も出来ず、自ら事務所へと連れて行った。

(……全く、らしくねぇな)

 事務所で少年――侑吾の話を聞いて、放っておけなくなったのだ。庇護欲を感じた訳ではないと思いたいが、このまま夜の街に放り出す事は出来ないと思ってしまったのだ。
 東郷は、ゲイよりのバイだ。その事を、隠していなかったせいで、東郷は職を追われた事があり、その後はそれを公表はしていない。けれど、新宿2丁目にほど近いこの場所は、そんな東郷を受け入れてくれた。ビル自体は、母方の祖母が生前贈与でくれたものだが、そのお陰で気兼ねなく仕事が出来るのはありがたいと思っている。
 だからこそ、仕事以外で人と関わらないようにしていたのに、何故だか侑吾を放っておけなかったのだ。
 結構悲惨な人生を歩んでいる割に、天然で明るい性格をしているせいなのか、はたまた日本人離れした容姿に惹かれたのかは、自分でもわからなかった。

 ただ、このまま侑吾を手放したくない、傍においておきたい――そんな下心があったのは事実だった。

(何なんだろうな、これはマジで)

 自分で自分の気持ちがわからないなんて初めての事だ。だが、ラーメンを奢った時、無邪気な笑顔で嬉しそうに食べていた侑吾の顔は、何かいいなと思った。

(俺の傍で笑わせたい、なんて――我ながら青少年かよ)

 出会ったばかりで、人となりがまだ全然わからないのに、もう既に手放す事など考えられない。そんな自分に呆れつつ、東郷は吸っていた煙草を灰皿に押しつけ、シャワーを浴びる為に風呂場に向かったのだった。
 


***********
少しずつBでLな感じになっていく予定です。
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