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幕間 東郷貴彦とエリカの密談
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犯人がわかったところで、昼間から働き通しだった侑吾を事務所から帰らせる。
「明日は1日休みにするから、ゆっくり休め」
「はい、ありがとうございます、東郷さん」
「ああ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
侑吾の髪の毛をぐしゃぐしゃと混ぜて、ぽんと背中を押す。おやすみ、とゆっくり寝ろよ、の気持ちを込めた背中ぽんに、侑吾はどこか嬉しそうに部屋へと戻っていった。
そんな二人の後ろ姿を見たエリカは、心の中で(甘いわね……)と呟いた。
東郷とは長い付き合いになるけれど、あんなに優しい顔をするところなんて、ほとんど見た事がなかった。前職の時は、その仕事柄、常に厳しい顔をしていたのもあるけれど、それ以上に東郷が心を許せる相手がほとんどいなかったのだ。
(アタシや木佐ちゃんは、それなりに気安く接するけれど、それでも基本的に無表情だものねぇ。むしろ、嫌そうな顔をたくさん見ている気がするわ。ホント、失礼しちゃう!)
まぁ、気安く接すのは気心が知れている赤司だとは思うけれど、これほど態度が違ってくると焼き餅や嫉妬などを通り越して、呆れてしまう。
だが。
(……でもあの貴ちゃんがあんな優しい顔を出来るようになるんだから、人生ってホントわかんないわよね。ま、確かに侑吾ちゃんは素直で頑張り屋さんで可愛いから、気持ちはわかるけどね)
東郷は、前職を辞める時に人間不信になっていた。だからこそ、エリカや木佐のような付き合いの長い相手以外には、分厚い壁越しにしか付き合いをしてこなかったのだ。
それが、侑吾に対しては全く違う。
甘やかすし、すぐに頭を撫でるし、何より態度が違う。本人も、侑吾に対する独占欲は自覚しているようだが、どこまで自分の気持ちを自覚しているのだろうか。
(侑吾ちゃんには年上の方が合うのは間違いないだろうから、侑吾ちゃんの気持ちさえ決まっちゃえば思い切り背中を押しちゃうんだけどなぁ)
エリカがそんな風に考えている間に、侑吾が部屋に戻るのを見送ってきた東郷は、エリカの正面に座り、訝しげにエリカに視線を向けた。
「……お前、また何か変な事考えてないだろうな」
「ま! 失礼しちゃうわね! あまりの甘さに塩でも舐めようかしらって思ってただけよ」
「…………相変わらず意味わかんねぇな、太郎は」
「だから本名で呼ぶんじゃないわよ、この野郎!」
「「…………」」
思わず二人で暫し睨み合った後、同時に「はぁ」とため息を吐く。
「……まぁ、今はそれどころじゃねぇしな。それで? お前、どうするつもりだ?」
東郷の指摘に、エリカは「……はぁ」と大きなため息をもう一つ吐いた。
「正直、ショックすぎてね……頭が働かないわ。マコトに話をするのはもちろんするけれど、その後どうしたらいいのか悩んでるのよね」
「とりあえずは、さっき決めた通り、事実を確認して、今の彼氏との関係を聞くんだろ?」
「もちろんよ。問題はその後よね……。自分が窃盗犯だと認めたマコトが、このままうちの店で働くとは思えないけど、そのまま辞めさせたら駄目な気もするし……」
「ふむ……」
エリカの悩みに、東郷は頷いたまま考える。マコトは、エリカとの付き合いも古いし、そう簡単に切れる相手ではない事はわかっている。そこには、オーナーと従業員というだけでなく、友人としての情があるからだ。お互い、色々と苦労してきた同士だからこそ、共に慰め励まし合ってきた関係だ。それを考えると、そう簡単に割り切れるはずがなかった。
「だからこそ、アタシはマコトにちゃんと話を聞きたいの。あの子が無闇に窃盗なんてする子じゃないことは、アタシが一番わかってるもの。あの子が今までどれだけのダメンズに振り回されてきたかもね」
「ああ、そうだな」
「あの子は責任感が強いから、自分が犯人だってバレたと知ったらすぐに店を辞めると言いそうだけど、その前にちゃんと話を聞くわ。……それから、これからの事を考える」
「それでいいと思うぜ」
東郷の言葉に、エリカは気の抜けた、ふにゃりとした笑みを浮かべて、ソファの背もたれにぐったりと頭を預けて嘆息する。
「マコトにも、侑吾ちゃんみたいないい子が現れてくれたらいいんだけど……」
「侑吾はダメだ」
「わかってるわよ。アンタ、いつもどんな顔で侑吾ちゃんを見てるか気付いてないの? 独占欲丸出しの獣の顔してんだからね」
「……む」
エリカの指摘に、む、と唇を尖らせて顎の辺りを手で揉む東郷の姿に、エリカはふふっと小さく吹き出す。
侑吾への独占欲は自覚していても、自分の表情なんて気にしていなかったのだろう。そんな東郷の姿に、エリカは子供のように笑ったのだった。
「明日は1日休みにするから、ゆっくり休め」
「はい、ありがとうございます、東郷さん」
「ああ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
侑吾の髪の毛をぐしゃぐしゃと混ぜて、ぽんと背中を押す。おやすみ、とゆっくり寝ろよ、の気持ちを込めた背中ぽんに、侑吾はどこか嬉しそうに部屋へと戻っていった。
そんな二人の後ろ姿を見たエリカは、心の中で(甘いわね……)と呟いた。
東郷とは長い付き合いになるけれど、あんなに優しい顔をするところなんて、ほとんど見た事がなかった。前職の時は、その仕事柄、常に厳しい顔をしていたのもあるけれど、それ以上に東郷が心を許せる相手がほとんどいなかったのだ。
(アタシや木佐ちゃんは、それなりに気安く接するけれど、それでも基本的に無表情だものねぇ。むしろ、嫌そうな顔をたくさん見ている気がするわ。ホント、失礼しちゃう!)
まぁ、気安く接すのは気心が知れている赤司だとは思うけれど、これほど態度が違ってくると焼き餅や嫉妬などを通り越して、呆れてしまう。
だが。
(……でもあの貴ちゃんがあんな優しい顔を出来るようになるんだから、人生ってホントわかんないわよね。ま、確かに侑吾ちゃんは素直で頑張り屋さんで可愛いから、気持ちはわかるけどね)
東郷は、前職を辞める時に人間不信になっていた。だからこそ、エリカや木佐のような付き合いの長い相手以外には、分厚い壁越しにしか付き合いをしてこなかったのだ。
それが、侑吾に対しては全く違う。
甘やかすし、すぐに頭を撫でるし、何より態度が違う。本人も、侑吾に対する独占欲は自覚しているようだが、どこまで自分の気持ちを自覚しているのだろうか。
(侑吾ちゃんには年上の方が合うのは間違いないだろうから、侑吾ちゃんの気持ちさえ決まっちゃえば思い切り背中を押しちゃうんだけどなぁ)
エリカがそんな風に考えている間に、侑吾が部屋に戻るのを見送ってきた東郷は、エリカの正面に座り、訝しげにエリカに視線を向けた。
「……お前、また何か変な事考えてないだろうな」
「ま! 失礼しちゃうわね! あまりの甘さに塩でも舐めようかしらって思ってただけよ」
「…………相変わらず意味わかんねぇな、太郎は」
「だから本名で呼ぶんじゃないわよ、この野郎!」
「「…………」」
思わず二人で暫し睨み合った後、同時に「はぁ」とため息を吐く。
「……まぁ、今はそれどころじゃねぇしな。それで? お前、どうするつもりだ?」
東郷の指摘に、エリカは「……はぁ」と大きなため息をもう一つ吐いた。
「正直、ショックすぎてね……頭が働かないわ。マコトに話をするのはもちろんするけれど、その後どうしたらいいのか悩んでるのよね」
「とりあえずは、さっき決めた通り、事実を確認して、今の彼氏との関係を聞くんだろ?」
「もちろんよ。問題はその後よね……。自分が窃盗犯だと認めたマコトが、このままうちの店で働くとは思えないけど、そのまま辞めさせたら駄目な気もするし……」
「ふむ……」
エリカの悩みに、東郷は頷いたまま考える。マコトは、エリカとの付き合いも古いし、そう簡単に切れる相手ではない事はわかっている。そこには、オーナーと従業員というだけでなく、友人としての情があるからだ。お互い、色々と苦労してきた同士だからこそ、共に慰め励まし合ってきた関係だ。それを考えると、そう簡単に割り切れるはずがなかった。
「だからこそ、アタシはマコトにちゃんと話を聞きたいの。あの子が無闇に窃盗なんてする子じゃないことは、アタシが一番わかってるもの。あの子が今までどれだけのダメンズに振り回されてきたかもね」
「ああ、そうだな」
「あの子は責任感が強いから、自分が犯人だってバレたと知ったらすぐに店を辞めると言いそうだけど、その前にちゃんと話を聞くわ。……それから、これからの事を考える」
「それでいいと思うぜ」
東郷の言葉に、エリカは気の抜けた、ふにゃりとした笑みを浮かべて、ソファの背もたれにぐったりと頭を預けて嘆息する。
「マコトにも、侑吾ちゃんみたいないい子が現れてくれたらいいんだけど……」
「侑吾はダメだ」
「わかってるわよ。アンタ、いつもどんな顔で侑吾ちゃんを見てるか気付いてないの? 独占欲丸出しの獣の顔してんだからね」
「……む」
エリカの指摘に、む、と唇を尖らせて顎の辺りを手で揉む東郷の姿に、エリカはふふっと小さく吹き出す。
侑吾への独占欲は自覚していても、自分の表情なんて気にしていなかったのだろう。そんな東郷の姿に、エリカは子供のように笑ったのだった。
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