23 / 31
19
しおりを挟む
僕が、東郷さんに恋をしている――?
エリカさんの言葉で頭が真っ白になってしまった僕だけど、あの後一人で考えてみた。仕事が終わった後の夜。ソファの上で、膝を抱えた状態で座って、うんうんとたくさん悩んで考えた。
考えて考えて考えて僕が出した答えは――人を好きになるってどういうことなんだろう? という事だった。
普通は、両親の姿を見て、そして両親から愛されて、人を愛するという事を覚えるのではないかと思う。もしくは、本を読んだりして覚えていくのかもしれない。
本は学校の図書室で読んでいたけど、小説なんてほとんど読んでこなかったし(実用的な料理の本とかばかりだった)両親からの愛情なんて言わずもがなだ。
だから、東郷さんへの気持ちが恋かどうかなんて、僕にはわからないんだ。東郷さんには感謝しているのは当然だし、人として好きだとは思う。でも、それが恋愛感情の好きかどうかが、僕にはわからない。
ここ数日、東郷さんは依頼人に呼び出されて事務所にいない。その間、一人になる僕を心配して、エリカさんが連日事務所に遊びに来てくれる。
エリカさんと他愛のない話をしていると、気が付くと恋愛話になっていて、僕は恋する気持ちがわからない事を素直に吐露してしまった。
「恋する気持ちねぇ。正直、アタシもちゃんとわかってるとは思ってないわ」
「……え、そうなんですか?」
「そうよ~。だって、人間って勘違いもするし、変な思い込みだってするじゃない? だから、これが正しい恋愛です! なんて言われても、わかんないのが当然よ」
「なるほど……」
そうか、エリカさんにも良くわからないんだ、と知って少し安心する。だって、エリカさんて人生経験豊富そうだから
。
「でもね、ああ、この人の傍にいると居心地いいわ、とか、この人の傍にいると何だかドキドキするっていうのは、自分の心がおしゃべりしている状態なんだから、それはちゃんと聞いてあげて欲しいの」
「心のおしゃべり……ですか?」
「そう。アタシ達の心ってね、案外おしゃべりなのよ。人間って脳で色々考える生き物だから、時々心とは反対の行動をしたりする事もあるの。でも、そういう時ね、ちゃんと自分の心が何と言っているのか聞いてあげれば、大丈夫なのよ」
「自分の心の声を聞く、ですか」
「そうよ。侑吾ちゃんはまず自分の心の声を聞いてあげたらいいと思うわ」
「……はい、ありがとうございます」
エリカさんからのアドバイスに、小さく肯いた。
「自分の心の声かぁ……」
エリカさんが帰って一人になった僕は、東郷さんが貯めたレシートをチェックしたのだけど、ふぅと息を吐いて椅子に凭れて天井を見上げた。
僕にだって心があるのはわかっている。だけど、ずっと生きて行くのに精一杯で、自分の心と向き合う事なんて、一度もしたことがなかった。
だって、昔の僕は、自分の心の声なんて聞いてしまったら、多分生きていけなかったと思うんだ。子供の頃は、親の愛情を求めていたはずだから。でも、それは与えられないって事もわかってしまったしね。
「うぅん、難しいなぁ……」
生きる事に余裕が出てきたのは、本当に最近だもんな。それまでは本当に必死だった。だから、東郷さんに出会えて、本当に幸せだなと思う。
……でも、その思いはきっと恋じゃない。
でも、東郷さんの傍にいたいという気持ちも、間違いなくある。でも、これって恋愛感情というより、思慕に近い気がするんだけどなぁ。
「……一番、自分の心の声がわかんないかも」
東郷さんは、好き。でも、エリカさんも好き。木佐さんだって良い人だから好きだ。その好きと、恋愛の好きって何が違うんだろう? やっぱり、僕にはよくわからない。
「……まぁ、いっか。とりあえず置いとこ」
これ以上考えても堂々巡りしかしない気がするので、よし、と小さな声で気合いを入れて、東郷さんが貯めたレシートのチェックを再開した。
その日の夜。
事務所に戻ってきた東郷さんに「話がある」と言われた僕は、事務所のソファに東郷さんと向かい合って座っていた。
いつも飄々としている東郷さんの表情が硬い気がする。
もしかして、僕をもう雇えないとかそんな話だったらどうしよう、と密かに悩んでいると、東郷さんが静かに話しを切り出した。
「正直、侑吾に話を聞かせるか、暫く迷っていたんだが、内緒にしておく事も出来ないと思って話をさせてもらうんだが」
「……はい、何ですか?」
「――侑吾の父親が、自分の借金をお前に肩代わりさせろと訴えてきた」
「…………え?」
東郷さんの口から出た言葉に、僕は頭の中が真っ白になって固まってしまった。
エリカさんの言葉で頭が真っ白になってしまった僕だけど、あの後一人で考えてみた。仕事が終わった後の夜。ソファの上で、膝を抱えた状態で座って、うんうんとたくさん悩んで考えた。
考えて考えて考えて僕が出した答えは――人を好きになるってどういうことなんだろう? という事だった。
普通は、両親の姿を見て、そして両親から愛されて、人を愛するという事を覚えるのではないかと思う。もしくは、本を読んだりして覚えていくのかもしれない。
本は学校の図書室で読んでいたけど、小説なんてほとんど読んでこなかったし(実用的な料理の本とかばかりだった)両親からの愛情なんて言わずもがなだ。
だから、東郷さんへの気持ちが恋かどうかなんて、僕にはわからないんだ。東郷さんには感謝しているのは当然だし、人として好きだとは思う。でも、それが恋愛感情の好きかどうかが、僕にはわからない。
ここ数日、東郷さんは依頼人に呼び出されて事務所にいない。その間、一人になる僕を心配して、エリカさんが連日事務所に遊びに来てくれる。
エリカさんと他愛のない話をしていると、気が付くと恋愛話になっていて、僕は恋する気持ちがわからない事を素直に吐露してしまった。
「恋する気持ちねぇ。正直、アタシもちゃんとわかってるとは思ってないわ」
「……え、そうなんですか?」
「そうよ~。だって、人間って勘違いもするし、変な思い込みだってするじゃない? だから、これが正しい恋愛です! なんて言われても、わかんないのが当然よ」
「なるほど……」
そうか、エリカさんにも良くわからないんだ、と知って少し安心する。だって、エリカさんて人生経験豊富そうだから
。
「でもね、ああ、この人の傍にいると居心地いいわ、とか、この人の傍にいると何だかドキドキするっていうのは、自分の心がおしゃべりしている状態なんだから、それはちゃんと聞いてあげて欲しいの」
「心のおしゃべり……ですか?」
「そう。アタシ達の心ってね、案外おしゃべりなのよ。人間って脳で色々考える生き物だから、時々心とは反対の行動をしたりする事もあるの。でも、そういう時ね、ちゃんと自分の心が何と言っているのか聞いてあげれば、大丈夫なのよ」
「自分の心の声を聞く、ですか」
「そうよ。侑吾ちゃんはまず自分の心の声を聞いてあげたらいいと思うわ」
「……はい、ありがとうございます」
エリカさんからのアドバイスに、小さく肯いた。
「自分の心の声かぁ……」
エリカさんが帰って一人になった僕は、東郷さんが貯めたレシートをチェックしたのだけど、ふぅと息を吐いて椅子に凭れて天井を見上げた。
僕にだって心があるのはわかっている。だけど、ずっと生きて行くのに精一杯で、自分の心と向き合う事なんて、一度もしたことがなかった。
だって、昔の僕は、自分の心の声なんて聞いてしまったら、多分生きていけなかったと思うんだ。子供の頃は、親の愛情を求めていたはずだから。でも、それは与えられないって事もわかってしまったしね。
「うぅん、難しいなぁ……」
生きる事に余裕が出てきたのは、本当に最近だもんな。それまでは本当に必死だった。だから、東郷さんに出会えて、本当に幸せだなと思う。
……でも、その思いはきっと恋じゃない。
でも、東郷さんの傍にいたいという気持ちも、間違いなくある。でも、これって恋愛感情というより、思慕に近い気がするんだけどなぁ。
「……一番、自分の心の声がわかんないかも」
東郷さんは、好き。でも、エリカさんも好き。木佐さんだって良い人だから好きだ。その好きと、恋愛の好きって何が違うんだろう? やっぱり、僕にはよくわからない。
「……まぁ、いっか。とりあえず置いとこ」
これ以上考えても堂々巡りしかしない気がするので、よし、と小さな声で気合いを入れて、東郷さんが貯めたレシートのチェックを再開した。
その日の夜。
事務所に戻ってきた東郷さんに「話がある」と言われた僕は、事務所のソファに東郷さんと向かい合って座っていた。
いつも飄々としている東郷さんの表情が硬い気がする。
もしかして、僕をもう雇えないとかそんな話だったらどうしよう、と密かに悩んでいると、東郷さんが静かに話しを切り出した。
「正直、侑吾に話を聞かせるか、暫く迷っていたんだが、内緒にしておく事も出来ないと思って話をさせてもらうんだが」
「……はい、何ですか?」
「――侑吾の父親が、自分の借金をお前に肩代わりさせろと訴えてきた」
「…………え?」
東郷さんの口から出た言葉に、僕は頭の中が真っ白になって固まってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる