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「……え? ほ、本当ですか!?」
「ああ。キッチリ話は付けたし、もう二度と侑吾の名前は使わないように誓約書も交わしてきたから安心していいぞ」
「…………――良かった……!」
東郷さんの言葉を聞いて、ほっとして足の力が抜けたらしく、その場で床に座り込む。
毎日、モップをかけて掃除をしているとは言え、土足で歩く床の上に座り込むなんて良くない事はわかっているけれど、今はそれよりもほっとした事が大きくてそれどころではなかった。
良かった……! 本当に良かった!!
今、僕の心を占めるのは、それだけだった。
安堵した感情のまま、知らないうちに頬を流れる涙もそのままに、僕は床に座り込んでいた。
「侑吾、ちゃんと経緯を話したいんだが、立ち上がれるか?」
「…………ごめんなさい、無理です……。足に力が入らなくて……」
「ああ、わかった。任せろ」
(任せろ? それって一体どういう意味?)
東郷さんの言葉に首を傾げたのは一瞬だった。
「――ひゃっ!?」
東郷さんは、僕の前にしゃがんでそのまま僕の背中と膝に腕を回して、そのまま抱き上げたのだ。
(えええぇぇぇぇぇ!?!? こ、これって所謂お姫様抱っこというやつでは……!?!?)
子供の頃読んだ物語で、そういう場面があったのは薄ら覚えている。
そして、小学校の頃にも、女の子達が何かの本を読みながら「お姫様抱っこ素敵~!」と騒いでいた事も知っている。
だから、お姫様抱っこというやつは、女の子が憧れる抱っこなのだろうと思っていたのだが。
(まさか、男の僕が経験する事になるなんて、恥ずか死ねる……!!!)
思わず顔を両手で覆って小さく呻く。
だけど、東郷さんは知らん顔で、抱き上げた僕の体をそっとソファに下ろしてから、そのまま隣に腰を下ろした。
まさかのお姫様抱っこの経験に、顔が真っ赤になってしまった僕は、火照った顔を冷まそうと手でパタパタと仰ぐ。
ある程度まで治まった事を感じた僕は、ようやく隣に座る東郷さんに向き直った。
「少しは落ち着いたか?」
「た、多分」
「まぁいいか。じゃあ簡単に説明するぞ」
そう言って東郷さんが教えてくれたのは、今回の契約は父が勝手に僕の名前を保証人に使った証拠を見せて、僕が無関係である事を突きつけてきた事、その結果父に借金は残ったものの、僕には関係なくなった事、そして今後父が僕の名前を勝手に使わないように誓約書を書かせてきたという事だった。
「ま、細かい説明は省くが、とりあえずこれからは父親の事は心配しなくてもいいって事は間違いない。何かあっても俺が何とかしてやるから」
「――あ、ありがとうございます……!」
そうして、東郷さんから差し出された誓約書を見て、僕は安堵の涙を流した。
その誓約書には、確かに父のサインがされており、『今後一切小野寺侑吾の名前を勝手に使用する事を禁ずる』との記載がされていた。その文字が、ずっと父親に縛られていた僕の心をすっと軽くしてくれた気がした。
「この誓約書はお前が保管しとけ」
「え、いいんですか?」
「ああ。だが、ちゃんと大事に保管しろよ?」
「もちろんです! 本当にありがとうございます!!」
もう二度と父親が僕に関わらない為の誓約書を、まるでラブレターのように大事に胸に抱き込む。
色気のない誓約書にラブレターみたいだなんて変な例えだけど、僕にとってはそれくらい大事なんだ。
そんな僕を優しい目で見守ってくれていた東郷さんが、僕の頭をわざと乱暴にくしゃくしゃと撫でる。
「ちょ、東郷さん!? 髪の毛がぐしゃぐしゃになるんですけど!?」
「おお、鳥の巣みたいで可愛いぞ」
「ぜんぜん可愛くないですっ!」
母親譲りなのか、細くて柔らかめの髪質なので、ぐしゃぐしゃにされると髪の毛が絡まって色々大変なのだ。
だけど、東郷さんの手が優しいから本気で怒る事も出来ない僕は、ぷくっと頬を膨らませるだけ。
そんな僕を見て笑う東郷さんの笑顔に釣られるように笑った僕は、ようやく重かった足枷が消えた気がしたのだった。
* * * * * * * *
読んで下さってありがとうございます!
「ああ。キッチリ話は付けたし、もう二度と侑吾の名前は使わないように誓約書も交わしてきたから安心していいぞ」
「…………――良かった……!」
東郷さんの言葉を聞いて、ほっとして足の力が抜けたらしく、その場で床に座り込む。
毎日、モップをかけて掃除をしているとは言え、土足で歩く床の上に座り込むなんて良くない事はわかっているけれど、今はそれよりもほっとした事が大きくてそれどころではなかった。
良かった……! 本当に良かった!!
今、僕の心を占めるのは、それだけだった。
安堵した感情のまま、知らないうちに頬を流れる涙もそのままに、僕は床に座り込んでいた。
「侑吾、ちゃんと経緯を話したいんだが、立ち上がれるか?」
「…………ごめんなさい、無理です……。足に力が入らなくて……」
「ああ、わかった。任せろ」
(任せろ? それって一体どういう意味?)
東郷さんの言葉に首を傾げたのは一瞬だった。
「――ひゃっ!?」
東郷さんは、僕の前にしゃがんでそのまま僕の背中と膝に腕を回して、そのまま抱き上げたのだ。
(えええぇぇぇぇぇ!?!? こ、これって所謂お姫様抱っこというやつでは……!?!?)
子供の頃読んだ物語で、そういう場面があったのは薄ら覚えている。
そして、小学校の頃にも、女の子達が何かの本を読みながら「お姫様抱っこ素敵~!」と騒いでいた事も知っている。
だから、お姫様抱っこというやつは、女の子が憧れる抱っこなのだろうと思っていたのだが。
(まさか、男の僕が経験する事になるなんて、恥ずか死ねる……!!!)
思わず顔を両手で覆って小さく呻く。
だけど、東郷さんは知らん顔で、抱き上げた僕の体をそっとソファに下ろしてから、そのまま隣に腰を下ろした。
まさかのお姫様抱っこの経験に、顔が真っ赤になってしまった僕は、火照った顔を冷まそうと手でパタパタと仰ぐ。
ある程度まで治まった事を感じた僕は、ようやく隣に座る東郷さんに向き直った。
「少しは落ち着いたか?」
「た、多分」
「まぁいいか。じゃあ簡単に説明するぞ」
そう言って東郷さんが教えてくれたのは、今回の契約は父が勝手に僕の名前を保証人に使った証拠を見せて、僕が無関係である事を突きつけてきた事、その結果父に借金は残ったものの、僕には関係なくなった事、そして今後父が僕の名前を勝手に使わないように誓約書を書かせてきたという事だった。
「ま、細かい説明は省くが、とりあえずこれからは父親の事は心配しなくてもいいって事は間違いない。何かあっても俺が何とかしてやるから」
「――あ、ありがとうございます……!」
そうして、東郷さんから差し出された誓約書を見て、僕は安堵の涙を流した。
その誓約書には、確かに父のサインがされており、『今後一切小野寺侑吾の名前を勝手に使用する事を禁ずる』との記載がされていた。その文字が、ずっと父親に縛られていた僕の心をすっと軽くしてくれた気がした。
「この誓約書はお前が保管しとけ」
「え、いいんですか?」
「ああ。だが、ちゃんと大事に保管しろよ?」
「もちろんです! 本当にありがとうございます!!」
もう二度と父親が僕に関わらない為の誓約書を、まるでラブレターのように大事に胸に抱き込む。
色気のない誓約書にラブレターみたいだなんて変な例えだけど、僕にとってはそれくらい大事なんだ。
そんな僕を優しい目で見守ってくれていた東郷さんが、僕の頭をわざと乱暴にくしゃくしゃと撫でる。
「ちょ、東郷さん!? 髪の毛がぐしゃぐしゃになるんですけど!?」
「おお、鳥の巣みたいで可愛いぞ」
「ぜんぜん可愛くないですっ!」
母親譲りなのか、細くて柔らかめの髪質なので、ぐしゃぐしゃにされると髪の毛が絡まって色々大変なのだ。
だけど、東郷さんの手が優しいから本気で怒る事も出来ない僕は、ぷくっと頬を膨らませるだけ。
そんな僕を見て笑う東郷さんの笑顔に釣られるように笑った僕は、ようやく重かった足枷が消えた気がしたのだった。
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読んで下さってありがとうございます!
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