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変わり者の彼女と行く1泊2日旅行。
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夏の砂浜。潮騒の音だけが聞こえる。キレイな青色の海が広がる中……
僕、仲田裕和はビーチパラソルを砂浜に強く差し込み、ビニルシートを敷いていた。
「こんなに綺麗な海なのに、誰も泳いでないなんて……本当に穴場なんだ……」
学生の夏休み。塾に缶詰になるほどでもなく、時間を余す事になっていたボクに、旅行の提案をしてくれたのが
ボクの彼女である藤沢愛依さんだった。
彼女は遠方から寮暮らしで学校に通っており、夏休みの間は実家に帰省するとのこと。
なので、一緒に愛依さんの家に遊びに来ないか、とお誘いが来たのだ。
「お待たせしマシタ~!」
だが……愛依さんは、『変わり者』だ。普段の姿だってとっても可愛らしいのに、こうして──
金髪碧眼の、アメスクギャルにわざわざ『変身』してやってくるのだから。
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねるたびに、彼女の大きな膨らみが、たゆん♡ たゆん♡ と揺れる。
「久しぶり、愛依さん。元気そうでよかった」
「Nnnn...実家は退屈でシタ~。今日、ヒロに会えるのが待ち遠しくって……」
確かにそうかも知れない。帰省して2週もすれば、家族がいる風景にも慣れてしまうだろう。
そういう意味では、8月頭という今日この時期に愛依さんに会えたのはいいタイミングだったかもしれない。
「それじゃ、一緒に泳ぐ?」
「Wait! 泳ぐ前に大事な事をしないとNoです!」
英語教師のような、和英ごちゃ混ぜの言葉でアメスクギャルの愛依さんはボクを静止する。
そして、敷いてあったビニルシートにゴロンと寝転んで。
「女性のUVケアは大切ネ! 背中なんて濡れないから……ヒロに塗って欲しい、デス♡♡♡」
脚をぱたぱたとさせて。たわわに実った乳房を砂浜に沈め、愛依さんはニコニコと笑顔でローションを渡してきた。
「大事だけど、愛依さんはどんな風にでも変身できるんじゃ……」
「野暮なことは『キンク』デース! それとも……ワタシの身体に触れるの、イヤです……?」
輝いていた愛依さんの青い瞳に、僅かに影が差す。慌ててボクは首を横に振った。
「そ、そうじゃなくって~……男に簡単に身を預けるのが不安じゃないかなぁ~って……」
「────ヒロくんなら、いいよ♡ どこを触られたって、嬉しいから♡」
ああもう。こういうところが可愛くて仕方がない。ローションを手に取り、両手で広げ。
うつ伏せになっている彼女の右腕から触れてゆく。手と手が絡み合い、一瞬だけ恋人繋ぎになって。
そして、首元を含む背中部分に日焼け止めを塗り終わった。
「ありがとうございマス! それじゃ……」
コロン、とアメスク愛依さんは半回転し、おヘソと、その両胸を張るように身体を少し持ち上げ。
「もう半分も、お願いします、ネ♡♡」
──いいさ。どうせ、誰も見ていないんだ。添え膳喰わぬはなんとやら。
一瞬は躊躇ったけど、それが愛依さんの望みだって言うなら……彼氏としていいトコ見せなきゃ。
「ひゃんっ♡♡♡ えへへ……この格好、どうデスか♡♡♡ ヒロの好みか、分からなかったデスケド……♡♡」
「……とってもエッチで可愛い♡♡♡」
「ん、ぅぅう♡♡♡ おっぱい揉みながら、そんなコト言わないでくださイっ♡♡♡ 余計に感じちゃうデスっ♡♡♡」
名目上は日焼け止めを塗るだけの話。だけど、ボクたちの様子を第三者が見ていたら、
ただビーチでイヤらしいことに興じている2人にしか見えないだろう。
でも、こんな風に、愛依さんから誘うようにエッチな事に流されてしまうのも慣れてしまっていて。
「ん、んぅう゛っ♡♡♡ ヒロっ♡♡♡ ヒロくんっ♡♡♡ アタシ、もう火照ってしまいまシタっ♡♡♡」
むずむずと、細い足をボクの身体に絡めさせて。ボクたちのは抱きつくように、おっぱいを攻めながらも
近づいた顔のままキスをする。
「れろっ♡♡ あむぅっ♡♡♡ ちゅぅぅ……♡♡♡♡」
何度も愛し合ったせいで、どうすればお互いが気持ちよくなれるのか分ってしまっていて。
片手でおっぱいを揉みながら、アメスクの下着をくちゅくちゅと指先で弄る。
ビクン、と愛依さんの身体が震えた。
「あひゅっ♡♡♡ ぁあアアッ♡♡♡♡ んぅぅぅぅゔっ♡♡♡♡」
ぷしっ、と水音がシた後。ボクの手のひらに彼女の興奮が伝わってきた。
「……エヘヘ、海に入る前から濡れちゃいまシタ、ネ♡♡♡♡」
今更、はにかむように。顔を赤らめて愛依さんは笑った。
──────────────────────────────
ちゃんと泳ぐための衣装に着替えてくる、と言って。愛依さんは一度近くの更衣室に戻っていった。
あのままでも良いような気がしたが……愛依さんが着替えたいというのならそれをわざわざ止める理由もない。
「……お待たせ、ヒロくん♪」
「いや、のんびり待たせていただきました、よ……?」
いつも通りの、黒髪美少女である愛依さんが戻ってきた。シンプルに黒色の、三角ビキニ。
…………?
「どうしたの、ヒロくん。不思議そうな顔してるけど……」
「い、いや……何でも無いよ」
何故だろうか。姿形は間違いなく愛依さんだけど……妙な違和感を覚える。
「ほら、行こっ♪」
「わ、わかったよ」
彼女に連れられる形で海に入る。またも違和感。ちょうどこの海は浅い浜辺が続いており、急に流される心配もない。
心配もない──はずなのだが。
「きゃぁぁぁっ♡♡♡ 水着が流されちゃったぁ♡♡♡♡」
……愛依さんの黒ビキニは、海の向こうへと流されていった。
多分遠くを旅して、マイクロプラスチックになる運命を辿るのだろう。
愛依さんのキレイなおっぱいを隠すものはなにもない。
「その……えぇと……」
「で、でも! ここにはヒロくんしかいないし、なんならキミの手で隠してくれたら──」
直感は、ある種の確信へと至った。
「…………愛依さん……じゃ、ないですよね、貴方」
ちょうどその瞬間。
「え……えええええ!? ちょっと兄さん!! 何やってるの!?」
背後から、『本物の愛依さん』の声がした。白色のワンピース風のビキニで、全身を覆っている。
『兄さん』と呼ばれた方の愛依さんは。
「あっはははは! 『変わり者』の愛依に彼氏が出来たって聞いてさ、どんな面シてるか見たかったんだよ」
愛依さんの身体で、愛依さんらしからぬ発言。そしてその直後、ボクの肩を両手でがっしりと握り。
「お前、合格な♪」
「も、もうぅ……! 私の姿にならないでって言ってるじゃない……!」
ニコニコと朗らかに笑う『偽物の愛依』さんと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした『本物の愛依さん』が居た。
──────────────────────────────
「という訳でさァ。この彼氏クンはすぐに本物の愛依を見分けたんだよ。不思議なモンだよな、小中学と一緒だった妹の演技するのなんて簡単だと思ったんだが……」
『それは凄いわね! 愛依の言った通り、運命の相手なのかも!』
海でのデートを切り上げて。急遽、愛依さんの実家に来るように『愛依さんの兄さん』から声を掛けられた。
彼の名前は『藤沢誠一』。愛依さんと対照的に、根っから明るい人物のようだ。なのだが……
両親にその様子を語るのも、愛依さんの姿で話すのだから、何だか頭が混乱する。
「愛依の彼氏にぴったりだね!」
「愛依の伴侶にぴったりだね!」
その、ご両親に挨拶に来たのだが。その姿は──最近人気沸騰中のジュニアデュオアイドル『雨と虹』の2人。
双子かと見まごう、雨衣と虹湖。白と黒のアイドル衣装に身を包んだ彼女たちがそこにいる。
一方──テレビの生放送では、同じ彼女たちが歌のパフォーマンスを披露していた。
「頭痛くなりそう…………」
「ご、ごめんねぇ、ヒロくん……」
「そうだ! ヒロお兄さんは、どっちが愛依の父親で、どっちが母親か分かるかな~?」
…………そんな事言われても。
「いえ……全く判断材料がわからないので、本当に分からないです……」
「カン! ヤマカンでいいから言ってみて!」
「……じゃぁ、白色の雨衣さんがお母様、黒色の虹湖さんがお父様と予測します」
「ざんね~ん! 逆でした~! ……となると、どうやって愛依ちゃんを見分けてるのかな? 2人とも、こっちに来て!」
少女たちに引っ張られるように、本物の愛依さんと愛依さんが部屋の外に連れて行かれる。
バタバタと足音がした後、彼女たちは──なんと、4人の愛依さんとして戻ってきた。
「さぁ、本物の愛依は誰でしょうか! ヒントは──」
「右から二番目。後の内訳は……分からないです」
ぱぁっと目を輝かせた本物の愛依さんと、驚いた顔をする3人。
「ええぇ!? 何で分かるの!?」
「……なんとなく、ですかね」
判断材料が全く無いわけではない。まず基本的に愛依さんは元の姿で居ることに少し恥ずかしさを覚えている。
とはいえ、『出題してきた愛依』さんとは別に、偽の2人はその事を知っていて、恥ずかしがる演技はしていた。
なので……後は本当に勘だった。
「も、もう恥ずかしいからやめて~……自分と同じ顔が3つもあるぅ~……」
ぷしゅぅ、と顔を真っ赤にした愛依さんの弱々しい声に、3人の愛依さんの笑い声が重なる。
認識を改めた。愛依さんは変わり者だが──藤沢一家はそれに輪をかけて『変わり者』だった。
──────────────────────────────
なんと。ホテルは事前に予約していたのだが、藤沢一家のご厚意により客間に泊まらせて頂くことになった。
まだ学生であるボクが泊まっていいのかとご両親に尋ねはしたのだが。
「ん~……いいんじゃない?」
と、少女の晴れやかな笑顔で言われたのだから、強く拒絶は出来なかった。
そして夜も更けた頃。藤沢家はこの近辺では広く畑を所有している大地主で、農家として働いていることを教えてもらった。
そうなると、都会と夜の様相は変わってくる。窓の外には真っ暗な闇だけが広がり、聞こえるのはカエルのゲコゲコ言う声だけ。
「思ったより騒がしい、カエルの合唱……」
合唱と言うより、もはや騒音に近い。バイオリンをギコギコと、わざとうるさく弾いたときのような鳴き声。
お陰で……彼女の実家に泊まるという緊張感とは別に、眠ることが出来なかった。
────ふすまの開く音がした。寝たまま振り返ると。
パジャマに着替えていた、愛依さんが居た。
「え、えへへ……起きてた?」
「その……自然の豊かさをダイレクトに感じてて」
「そうだよね……実家から出て、寮で暮らしてたときは。こんなに夜ってきらびやかで、静かなんだっておもった」
愛依さんがふすまを開く。虫よけの網戸の向こうでは、白い満月がこちらを見下ろしていた。
愛依さんがソコに座ったので、眠気が一切来ていないボクも、そのとなりに座ることにした。
「でも、来てくれて良かった。私の両親も……というより、家系が全員こんな風に変身できちゃうの」
「愛依さんが変身できるのに慣れてたのもあったけど……こうも色んな人が姿形を自在に変えられると、家族同士でも混乱しない?」
「そこは……ヒロくんの言う『勘』かな。なんとなく、同族だと分かるの」
そう言うと、少し愛依さんはため息をついた。
「もう……お兄ちゃんったら、デートの邪魔なんてしてくるなんて……」
「びっくりしたよ、愛依さんの姿なのに何か変だな、って思って」
「でも。ヒロくんはちゃんと見分けてくれた、ね♡♡」
はにかむように、愛依さんは笑顔になる。そして、焦れったいような雰囲気を纏わせて。
「ねぇ……昼のデートの続き、もう一回……したくない?」
彼女の方から、恥ずかしそうだけど期待している瞳で。愛依さんは、そんなコトバをこぼす。
「その気持ちは、確かにある。愛依さんと色んな所を旅行したいし、色んな場所で過ごしたい」
だけど。
「それは愛依さんと過ごしたいのであって、貴方じゃないです……義父様」
沈黙。そして──ニヤリと愛依さんの口元が歪む。
「君に父親と呼ばれるつもりは無い──今はまだ、な。……どうして分かったのかい?」
「ボクが愛依さんとお付き合いさせていただいて、気付いたことがあります……学校でも、愛依さんは本当の姿から少しズラした姿で登校している。
それに、ボクの前で本当の姿を見せるときは……とても恥ずかしがる。
あくまで仮定ですが……『変わり者』の皆さんにとって、本当の自分の姿を見せるのは……例えがおかしいとは思いますが、服を着ないまま外で歩いているようなものなのかもしれない、そう思いました。
だから、藤沢家の皆さんは未だにボクに本当の姿を見せてはくれていない。まだ、今日会ったばかりの人間ですから」
「…………ふむ」
「愛依さんが自分の姿を現すときは、本当に恥ずかしがって真っ赤になってます、今でも。だから……一切の緊張もなしに、夜這いを掛けること自体が愛依さんらしくない」
……少し、言葉が悪すぎたかもしれない。だが、愛依さんの姿をした、彼女の父親は。
「いやはや。愛依からは君の話を聞いているよ。本当にあの子を大事に思ってくれているようだ──今ので引っかかたら、即刻追い出すつもりだったが……気が変わったよ」
「愛依さんの姿のままで語られると、少し頭が混乱するのでご勘弁を──」
すると。ドダドタ、と何かが落ちる音。びっくりして、その方向のふすまを開けると……すっ転んだ愛依さんが居た。
……いや。これは愛依さんではなく、兄の誠一さんだ。
「……何してるんですか」
「あー……えぇと。お前が妹の彼氏に相応しいか、再試験?」
「なんで考えることが同じなんですか、あなた達……」
直後、別の方向の襖が開き。ガバっ、と愛依さんが抱きついてきた。
「嬉しい……ちゃんと見分けてくれたんだ!」
「……お義母様もですよね?」
抱きついた偽の愛依さんから、ゆっくりとを腕を振りほどく。
……本物は、発火しそうなほど顔を赤くして、お義母さんの後ろでしゃがんでいた。
「ほ、本人も見てたんですか……どうして……?」
「う、うぅぅ……だって家族にヒロくんの話をしたら、『絶対試してやる』って3人とも乗り気になっちゃって……恥ずかしいのにぃ……」
頭がくらくらして、ボクは畳にしゃがみ込む。
「で、でもっ……み、見つけてくれて……ぁ、ありがとっ……♡♡♡♡」
囁くようなか細い声で、本物の愛依さんは。ぎこちないけど、微笑んでくれた。
何となく……愛依さんが変身する時にからかい上手な理由が分かった気がした。
これ多分、遺伝性だ。
──────────────────────────────
「それじゃ、行ってきマース!」
昨日の金髪ギャルと同じ姿、ホットパンツに白Tシャツ。愛依さんは変身して、実家を出る。
ちなみに朝起きたとき、全員が全員、また違う姿をしていた。頭がパンクしそうなので止めて欲しい。
「失礼します。昨日はありがとうございました。一宿一飯のお礼も出来ず、すみません」
「ええよええよ、楽しんできんしゃい!」
関西の女性タレントの姿をした……愛依さんの父だろうか。全員上機嫌で、デートの続きを了承してくれた。
古いタイプの、トタン屋根で作ったバス停社屋の中で日除けして、二人で話し込む。
「昨日はごめんなサイ……私の家族はいっつもあんな調子デ……」
「あはは……でも、お会いできて良かった。みんないい人だったね……『変わり者』ではあるけど」
「……私は、すごく不安だった」
愛依さん自身の、彼女の声に戻る。
「試してやる、なんて息巻いてる家族に、もしもヒロくんが惑わされたりしたらって思うと……」
「…………」
「だから、本当に私のことを見てくれる君がいて……すっごく、嬉しかった」
「……大好きな彼女のことを、見間違えたら。そりゃ、彼氏に相応しくないし」
「ヒロくんが初めて。『変わり者』の私達を、本当に『視て』くれるのは」
バスが来るまでの時間。唇を重ね、身体を抱きしめ合って。
……やっぱり、ボクは愛依さんが好きなんだなと、そう想った。
■■■
それから──愛依さんの『変わり身』の速さは凄まじいものだった。
バスでは『大人1人、子供1人』の料金で乗り、ボクの膝の上に座りながら。
「一緒にい~っぱい遊ぼうね、お兄ちゃん……♡♡ ひぅっ♡♡♡」
「そ、そう……だねっ……っっ」
他に乗客が居ないワンマンバス。席の後ろの方に座ったボクたちが……まさか、繋がっているなんて運転手に伝わるまい。
子供用ワンピースに身を包んだ彼女は、小さな体躯でボクの肉棒を受け止めていて。
ガタン、と道の舗装がされていない時のバスの衝撃に、思わずお互いに呼吸が漏れる。
「ん、ぅくっ」
「ぁんっ♡♡ えへへ♡♡♡」
■
それこそ、昨日の分を取り戻すかのように。実家から離れた、街の中心街。
スーツ姿のOLに扮した愛依さんに誘われる形で、喫茶店のランチに連れられる。
「ここのケーキがすっごく美味しいの。ほら、あーんして」
「…………や、やっぱりちょっと恥ずかしい……」
「いいの。はい、あーん」
年の差デレデレカップル感を出すのはボクとしても対処方法が分からない。
どうしようもなく、愛依さんの言う通りに目を閉じ、口を開く。
──やわらかい、温かい感触。目を開けると、すぐ近くに愛依さんの顔があった。
「えへへ~♡♡ 本日の初キス、貰っちゃった♡♡♡」
■
「それっ! ヒロくん、もっとジャンプ!」
「い、いや、もう、キツイ!」
同い年ぐらいの元気な茶髪っ娘になって、駅近くのアミューズメントパークに入る。
バラエティ番組みたいに、いろいろな遊具があるアクション系の遊園地で。
今は、ぐるぐる回る柱に出っ張った棒があるので、それを避けながらしゃがんだり、ジャンプするゲームをしている。
「よっ、よいっと! あともう少し!」
「うっわっ、バランス崩して、むぎゅっ」
顔面にクッション付きの棒がぶち当たり、バランスを崩したボクはクッションの床にすっ転ぶ。
「わわっ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……あれ、愛依さんが2人に見える……」
「大丈夫じゃない!!」
少し休憩したら、すぐに戻った。
■
「どう、かな……似合う?」
「綺麗だと、おもう」
「……えへへ♡♡」
黒髪のポニーテールに、水色の浴衣。夏の花火大会は人が沢山いて、ごった返していた。
離れないよう、手を握る。いつの間にか、指の隙間同士を重ねる、恋人繋ぎになっていて。
「……ふぅ、やっと座れる場所に出てきた……」
「あ、開始のアナウンス!」
ヒューン、と花火が音を立てて暗闇を昇り。ドン、と大きな音を立てて光を散らす。
どんどんと花火の規模は大きくなり、連続して光と音が炸裂する。
「綺麗……」
思わず、愛依さんが呟く。だけど、ボクは。
隣に座って楽しそうにしている愛依さんの事が気になって。
花火よりも、そちらを気にしてしまっていた。
■
「いざ征かん、全ての理想郷へ──」
2人でよく視ているアニメの主題歌。劇中キャラがそのOPを歌うということで──
今の愛依さんは、声は声優さん、姿はアニメのキャラそのものになってオープニングを熱唱していた。
紫のドレスを着た、宇宙を飛び翔けるヒロインそのもの。
(ここまで行くと本物だなぁ……)
圧倒されたボクはというと、テンポ通りにタンバリンを鳴らすことしかできない。
そして歌が終わり──
「え、えぇ!? 88点!? 本人歌唱とほとんど似せたのに!!」
「機械は機械的に採点するだけだからね……」
個人的には100点だった。
■
そして、併設されているゲームセンターのプリクラ機に入る。
正直、愛依さんは盛らなくても十分可愛い。代わりにボクの目が大きくなっていた。ちょっと怖い。
今日変身した、4人分の写真をそれぞれ撮って。
「えへへ、思い出がまた増えた♡♡」
愛依さんは、続く言葉に。
「この中で、一番好きな写真はどれかな?」
……答えは、決まっていた。
「どれも綺麗で可愛いと思う。でも一番好きな人は、この中には、無いよ」
■
愛依さんと一緒に夜通し遊んでも良い。彼女は両親にそう許可されていることを知って──ボクは止まるホテルを急遽キャンセル。
ホテルの従業員の人には申し訳ないが……
「う、うぅぅ……ま、また来ちゃった……」
愛依さんの、本当の姿。黒髪ストレートがいつも艶やかで、目は恥ずかしさで少し涙ぐんでいる。
「や、やっぱり恥ずかしいよぉ……」
「でも……ボクにとって一番大好きなのは、『愛依さん』だから、さ」
「む、むぅぅ……♡♡♡ どこでそんな口説き文句を覚えたのぉ……♡♡♡ ヒロくんのどすけべ、へんたいっ……♡♡♡」
ぽかぽかと、抱き合いながら握りこぶしを軽く当ててくる愛依さん。
「その、さ……順番飛ばしにご両親とお話しちゃったけど……」
涙目の愛依さんが、ボクの方を見る。
「絶対幸せにするから……一緒に、居てくれる?」
「…………、~~~~っ♡♡♡♡ ど、どこでそんな口説き文句を覚えたのっ♡♡♡ も~~っ♡♡♡」
抱きしめた愛依さんの鼓動が聞こえる。トク、トクと素早く鼓動がしていて。
「……わ、私、もっ……大好きなんだからっ……♡♡♡♡ もっと好きになるようなこと言わないでよぅ♡♡♡♡」
わちゃわちゃと、ラブホテルのベッドにて。ボクたちは交わる。
「ん、んぅぅ……♡♡♡ ヒロくんっ、ヒロくんっ♡♡♡♡」
「痛くない?」
「ち、違うのっ……♡♡ 嬉しくて、ぞくぞくってして……♡♡♡♡」
対面で抱きしめ合いながら、腰をふる。身体が抱きしめ合っているように、交わっている部分も、ボクを離すまいとぎゅぅぅ、と締め付けてくる。
「もっと、ヒロくんの……欲しいっ……♡♡♡♡」
「う、うん……」
より膣奥に、彼女の身体に入り込む。呼吸は荒くなったが、蕩けた表情で愛依さんが見つめてくると。
──ボクも、耐えきれなくて。
「うごく、よっ……」
「うんっ……♡♡ きて……っ♡♡♡♡」
ぱちゅん、ぱちゅんと。ボクと愛依さんがぶつかり合い、身体を重ねる音。
どちらからだろうか。顔を近づけて。お互いの口の中を貪るように。
「ちゅぅぅっ♡♡♡ あむぅっ♡♡♡♡ ぺろ、ぺろっ♡♡♡♡」
前後不覚。ボクが愛依さんを犯しているのに、愛依さんに犯されているかのような錯覚。
だけど──気持ちは繋がっていると信じたい。
「ヒロ、くんっ♡♡♡♡ きもち、いぃっ♡♡♡♡ すきぃ♡♡♡ らいひゅきっ♡♡♡♡」
彼女の膣内で、ボク自身のモノが熱り立つのを感じる。
「だす、よっ……♡♡♡ うけ、とめてっ……♡♡♡」
「うん♡♡♡ ひろくんの、ぜんぶ……くださいっ♡♡♡♡」
そして──2人分の、絶頂の声が響く。
「ん、ぅううゔっ──」
「ぁ、ぁあ゛っ♡♡♡♡ ひゃぁぁぁっ~~♡♡♡♡♡」
……手を繋いだまま。僕たちはベッドに倒れる。
「ずっと、ずっと……いっしょ、だよ♡♡♡」
ボクの『変わり者』の彼女は。幸せそうに、そう言った。
僕、仲田裕和はビーチパラソルを砂浜に強く差し込み、ビニルシートを敷いていた。
「こんなに綺麗な海なのに、誰も泳いでないなんて……本当に穴場なんだ……」
学生の夏休み。塾に缶詰になるほどでもなく、時間を余す事になっていたボクに、旅行の提案をしてくれたのが
ボクの彼女である藤沢愛依さんだった。
彼女は遠方から寮暮らしで学校に通っており、夏休みの間は実家に帰省するとのこと。
なので、一緒に愛依さんの家に遊びに来ないか、とお誘いが来たのだ。
「お待たせしマシタ~!」
だが……愛依さんは、『変わり者』だ。普段の姿だってとっても可愛らしいのに、こうして──
金髪碧眼の、アメスクギャルにわざわざ『変身』してやってくるのだから。
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねるたびに、彼女の大きな膨らみが、たゆん♡ たゆん♡ と揺れる。
「久しぶり、愛依さん。元気そうでよかった」
「Nnnn...実家は退屈でシタ~。今日、ヒロに会えるのが待ち遠しくって……」
確かにそうかも知れない。帰省して2週もすれば、家族がいる風景にも慣れてしまうだろう。
そういう意味では、8月頭という今日この時期に愛依さんに会えたのはいいタイミングだったかもしれない。
「それじゃ、一緒に泳ぐ?」
「Wait! 泳ぐ前に大事な事をしないとNoです!」
英語教師のような、和英ごちゃ混ぜの言葉でアメスクギャルの愛依さんはボクを静止する。
そして、敷いてあったビニルシートにゴロンと寝転んで。
「女性のUVケアは大切ネ! 背中なんて濡れないから……ヒロに塗って欲しい、デス♡♡♡」
脚をぱたぱたとさせて。たわわに実った乳房を砂浜に沈め、愛依さんはニコニコと笑顔でローションを渡してきた。
「大事だけど、愛依さんはどんな風にでも変身できるんじゃ……」
「野暮なことは『キンク』デース! それとも……ワタシの身体に触れるの、イヤです……?」
輝いていた愛依さんの青い瞳に、僅かに影が差す。慌ててボクは首を横に振った。
「そ、そうじゃなくって~……男に簡単に身を預けるのが不安じゃないかなぁ~って……」
「────ヒロくんなら、いいよ♡ どこを触られたって、嬉しいから♡」
ああもう。こういうところが可愛くて仕方がない。ローションを手に取り、両手で広げ。
うつ伏せになっている彼女の右腕から触れてゆく。手と手が絡み合い、一瞬だけ恋人繋ぎになって。
そして、首元を含む背中部分に日焼け止めを塗り終わった。
「ありがとうございマス! それじゃ……」
コロン、とアメスク愛依さんは半回転し、おヘソと、その両胸を張るように身体を少し持ち上げ。
「もう半分も、お願いします、ネ♡♡」
──いいさ。どうせ、誰も見ていないんだ。添え膳喰わぬはなんとやら。
一瞬は躊躇ったけど、それが愛依さんの望みだって言うなら……彼氏としていいトコ見せなきゃ。
「ひゃんっ♡♡♡ えへへ……この格好、どうデスか♡♡♡ ヒロの好みか、分からなかったデスケド……♡♡」
「……とってもエッチで可愛い♡♡♡」
「ん、ぅぅう♡♡♡ おっぱい揉みながら、そんなコト言わないでくださイっ♡♡♡ 余計に感じちゃうデスっ♡♡♡」
名目上は日焼け止めを塗るだけの話。だけど、ボクたちの様子を第三者が見ていたら、
ただビーチでイヤらしいことに興じている2人にしか見えないだろう。
でも、こんな風に、愛依さんから誘うようにエッチな事に流されてしまうのも慣れてしまっていて。
「ん、んぅう゛っ♡♡♡ ヒロっ♡♡♡ ヒロくんっ♡♡♡ アタシ、もう火照ってしまいまシタっ♡♡♡」
むずむずと、細い足をボクの身体に絡めさせて。ボクたちのは抱きつくように、おっぱいを攻めながらも
近づいた顔のままキスをする。
「れろっ♡♡ あむぅっ♡♡♡ ちゅぅぅ……♡♡♡♡」
何度も愛し合ったせいで、どうすればお互いが気持ちよくなれるのか分ってしまっていて。
片手でおっぱいを揉みながら、アメスクの下着をくちゅくちゅと指先で弄る。
ビクン、と愛依さんの身体が震えた。
「あひゅっ♡♡♡ ぁあアアッ♡♡♡♡ んぅぅぅぅゔっ♡♡♡♡」
ぷしっ、と水音がシた後。ボクの手のひらに彼女の興奮が伝わってきた。
「……エヘヘ、海に入る前から濡れちゃいまシタ、ネ♡♡♡♡」
今更、はにかむように。顔を赤らめて愛依さんは笑った。
──────────────────────────────
ちゃんと泳ぐための衣装に着替えてくる、と言って。愛依さんは一度近くの更衣室に戻っていった。
あのままでも良いような気がしたが……愛依さんが着替えたいというのならそれをわざわざ止める理由もない。
「……お待たせ、ヒロくん♪」
「いや、のんびり待たせていただきました、よ……?」
いつも通りの、黒髪美少女である愛依さんが戻ってきた。シンプルに黒色の、三角ビキニ。
…………?
「どうしたの、ヒロくん。不思議そうな顔してるけど……」
「い、いや……何でも無いよ」
何故だろうか。姿形は間違いなく愛依さんだけど……妙な違和感を覚える。
「ほら、行こっ♪」
「わ、わかったよ」
彼女に連れられる形で海に入る。またも違和感。ちょうどこの海は浅い浜辺が続いており、急に流される心配もない。
心配もない──はずなのだが。
「きゃぁぁぁっ♡♡♡ 水着が流されちゃったぁ♡♡♡♡」
……愛依さんの黒ビキニは、海の向こうへと流されていった。
多分遠くを旅して、マイクロプラスチックになる運命を辿るのだろう。
愛依さんのキレイなおっぱいを隠すものはなにもない。
「その……えぇと……」
「で、でも! ここにはヒロくんしかいないし、なんならキミの手で隠してくれたら──」
直感は、ある種の確信へと至った。
「…………愛依さん……じゃ、ないですよね、貴方」
ちょうどその瞬間。
「え……えええええ!? ちょっと兄さん!! 何やってるの!?」
背後から、『本物の愛依さん』の声がした。白色のワンピース風のビキニで、全身を覆っている。
『兄さん』と呼ばれた方の愛依さんは。
「あっはははは! 『変わり者』の愛依に彼氏が出来たって聞いてさ、どんな面シてるか見たかったんだよ」
愛依さんの身体で、愛依さんらしからぬ発言。そしてその直後、ボクの肩を両手でがっしりと握り。
「お前、合格な♪」
「も、もうぅ……! 私の姿にならないでって言ってるじゃない……!」
ニコニコと朗らかに笑う『偽物の愛依』さんと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした『本物の愛依さん』が居た。
──────────────────────────────
「という訳でさァ。この彼氏クンはすぐに本物の愛依を見分けたんだよ。不思議なモンだよな、小中学と一緒だった妹の演技するのなんて簡単だと思ったんだが……」
『それは凄いわね! 愛依の言った通り、運命の相手なのかも!』
海でのデートを切り上げて。急遽、愛依さんの実家に来るように『愛依さんの兄さん』から声を掛けられた。
彼の名前は『藤沢誠一』。愛依さんと対照的に、根っから明るい人物のようだ。なのだが……
両親にその様子を語るのも、愛依さんの姿で話すのだから、何だか頭が混乱する。
「愛依の彼氏にぴったりだね!」
「愛依の伴侶にぴったりだね!」
その、ご両親に挨拶に来たのだが。その姿は──最近人気沸騰中のジュニアデュオアイドル『雨と虹』の2人。
双子かと見まごう、雨衣と虹湖。白と黒のアイドル衣装に身を包んだ彼女たちがそこにいる。
一方──テレビの生放送では、同じ彼女たちが歌のパフォーマンスを披露していた。
「頭痛くなりそう…………」
「ご、ごめんねぇ、ヒロくん……」
「そうだ! ヒロお兄さんは、どっちが愛依の父親で、どっちが母親か分かるかな~?」
…………そんな事言われても。
「いえ……全く判断材料がわからないので、本当に分からないです……」
「カン! ヤマカンでいいから言ってみて!」
「……じゃぁ、白色の雨衣さんがお母様、黒色の虹湖さんがお父様と予測します」
「ざんね~ん! 逆でした~! ……となると、どうやって愛依ちゃんを見分けてるのかな? 2人とも、こっちに来て!」
少女たちに引っ張られるように、本物の愛依さんと愛依さんが部屋の外に連れて行かれる。
バタバタと足音がした後、彼女たちは──なんと、4人の愛依さんとして戻ってきた。
「さぁ、本物の愛依は誰でしょうか! ヒントは──」
「右から二番目。後の内訳は……分からないです」
ぱぁっと目を輝かせた本物の愛依さんと、驚いた顔をする3人。
「ええぇ!? 何で分かるの!?」
「……なんとなく、ですかね」
判断材料が全く無いわけではない。まず基本的に愛依さんは元の姿で居ることに少し恥ずかしさを覚えている。
とはいえ、『出題してきた愛依』さんとは別に、偽の2人はその事を知っていて、恥ずかしがる演技はしていた。
なので……後は本当に勘だった。
「も、もう恥ずかしいからやめて~……自分と同じ顔が3つもあるぅ~……」
ぷしゅぅ、と顔を真っ赤にした愛依さんの弱々しい声に、3人の愛依さんの笑い声が重なる。
認識を改めた。愛依さんは変わり者だが──藤沢一家はそれに輪をかけて『変わり者』だった。
──────────────────────────────
なんと。ホテルは事前に予約していたのだが、藤沢一家のご厚意により客間に泊まらせて頂くことになった。
まだ学生であるボクが泊まっていいのかとご両親に尋ねはしたのだが。
「ん~……いいんじゃない?」
と、少女の晴れやかな笑顔で言われたのだから、強く拒絶は出来なかった。
そして夜も更けた頃。藤沢家はこの近辺では広く畑を所有している大地主で、農家として働いていることを教えてもらった。
そうなると、都会と夜の様相は変わってくる。窓の外には真っ暗な闇だけが広がり、聞こえるのはカエルのゲコゲコ言う声だけ。
「思ったより騒がしい、カエルの合唱……」
合唱と言うより、もはや騒音に近い。バイオリンをギコギコと、わざとうるさく弾いたときのような鳴き声。
お陰で……彼女の実家に泊まるという緊張感とは別に、眠ることが出来なかった。
────ふすまの開く音がした。寝たまま振り返ると。
パジャマに着替えていた、愛依さんが居た。
「え、えへへ……起きてた?」
「その……自然の豊かさをダイレクトに感じてて」
「そうだよね……実家から出て、寮で暮らしてたときは。こんなに夜ってきらびやかで、静かなんだっておもった」
愛依さんがふすまを開く。虫よけの網戸の向こうでは、白い満月がこちらを見下ろしていた。
愛依さんがソコに座ったので、眠気が一切来ていないボクも、そのとなりに座ることにした。
「でも、来てくれて良かった。私の両親も……というより、家系が全員こんな風に変身できちゃうの」
「愛依さんが変身できるのに慣れてたのもあったけど……こうも色んな人が姿形を自在に変えられると、家族同士でも混乱しない?」
「そこは……ヒロくんの言う『勘』かな。なんとなく、同族だと分かるの」
そう言うと、少し愛依さんはため息をついた。
「もう……お兄ちゃんったら、デートの邪魔なんてしてくるなんて……」
「びっくりしたよ、愛依さんの姿なのに何か変だな、って思って」
「でも。ヒロくんはちゃんと見分けてくれた、ね♡♡」
はにかむように、愛依さんは笑顔になる。そして、焦れったいような雰囲気を纏わせて。
「ねぇ……昼のデートの続き、もう一回……したくない?」
彼女の方から、恥ずかしそうだけど期待している瞳で。愛依さんは、そんなコトバをこぼす。
「その気持ちは、確かにある。愛依さんと色んな所を旅行したいし、色んな場所で過ごしたい」
だけど。
「それは愛依さんと過ごしたいのであって、貴方じゃないです……義父様」
沈黙。そして──ニヤリと愛依さんの口元が歪む。
「君に父親と呼ばれるつもりは無い──今はまだ、な。……どうして分かったのかい?」
「ボクが愛依さんとお付き合いさせていただいて、気付いたことがあります……学校でも、愛依さんは本当の姿から少しズラした姿で登校している。
それに、ボクの前で本当の姿を見せるときは……とても恥ずかしがる。
あくまで仮定ですが……『変わり者』の皆さんにとって、本当の自分の姿を見せるのは……例えがおかしいとは思いますが、服を着ないまま外で歩いているようなものなのかもしれない、そう思いました。
だから、藤沢家の皆さんは未だにボクに本当の姿を見せてはくれていない。まだ、今日会ったばかりの人間ですから」
「…………ふむ」
「愛依さんが自分の姿を現すときは、本当に恥ずかしがって真っ赤になってます、今でも。だから……一切の緊張もなしに、夜這いを掛けること自体が愛依さんらしくない」
……少し、言葉が悪すぎたかもしれない。だが、愛依さんの姿をした、彼女の父親は。
「いやはや。愛依からは君の話を聞いているよ。本当にあの子を大事に思ってくれているようだ──今ので引っかかたら、即刻追い出すつもりだったが……気が変わったよ」
「愛依さんの姿のままで語られると、少し頭が混乱するのでご勘弁を──」
すると。ドダドタ、と何かが落ちる音。びっくりして、その方向のふすまを開けると……すっ転んだ愛依さんが居た。
……いや。これは愛依さんではなく、兄の誠一さんだ。
「……何してるんですか」
「あー……えぇと。お前が妹の彼氏に相応しいか、再試験?」
「なんで考えることが同じなんですか、あなた達……」
直後、別の方向の襖が開き。ガバっ、と愛依さんが抱きついてきた。
「嬉しい……ちゃんと見分けてくれたんだ!」
「……お義母様もですよね?」
抱きついた偽の愛依さんから、ゆっくりとを腕を振りほどく。
……本物は、発火しそうなほど顔を赤くして、お義母さんの後ろでしゃがんでいた。
「ほ、本人も見てたんですか……どうして……?」
「う、うぅぅ……だって家族にヒロくんの話をしたら、『絶対試してやる』って3人とも乗り気になっちゃって……恥ずかしいのにぃ……」
頭がくらくらして、ボクは畳にしゃがみ込む。
「で、でもっ……み、見つけてくれて……ぁ、ありがとっ……♡♡♡♡」
囁くようなか細い声で、本物の愛依さんは。ぎこちないけど、微笑んでくれた。
何となく……愛依さんが変身する時にからかい上手な理由が分かった気がした。
これ多分、遺伝性だ。
──────────────────────────────
「それじゃ、行ってきマース!」
昨日の金髪ギャルと同じ姿、ホットパンツに白Tシャツ。愛依さんは変身して、実家を出る。
ちなみに朝起きたとき、全員が全員、また違う姿をしていた。頭がパンクしそうなので止めて欲しい。
「失礼します。昨日はありがとうございました。一宿一飯のお礼も出来ず、すみません」
「ええよええよ、楽しんできんしゃい!」
関西の女性タレントの姿をした……愛依さんの父だろうか。全員上機嫌で、デートの続きを了承してくれた。
古いタイプの、トタン屋根で作ったバス停社屋の中で日除けして、二人で話し込む。
「昨日はごめんなサイ……私の家族はいっつもあんな調子デ……」
「あはは……でも、お会いできて良かった。みんないい人だったね……『変わり者』ではあるけど」
「……私は、すごく不安だった」
愛依さん自身の、彼女の声に戻る。
「試してやる、なんて息巻いてる家族に、もしもヒロくんが惑わされたりしたらって思うと……」
「…………」
「だから、本当に私のことを見てくれる君がいて……すっごく、嬉しかった」
「……大好きな彼女のことを、見間違えたら。そりゃ、彼氏に相応しくないし」
「ヒロくんが初めて。『変わり者』の私達を、本当に『視て』くれるのは」
バスが来るまでの時間。唇を重ね、身体を抱きしめ合って。
……やっぱり、ボクは愛依さんが好きなんだなと、そう想った。
■■■
それから──愛依さんの『変わり身』の速さは凄まじいものだった。
バスでは『大人1人、子供1人』の料金で乗り、ボクの膝の上に座りながら。
「一緒にい~っぱい遊ぼうね、お兄ちゃん……♡♡ ひぅっ♡♡♡」
「そ、そう……だねっ……っっ」
他に乗客が居ないワンマンバス。席の後ろの方に座ったボクたちが……まさか、繋がっているなんて運転手に伝わるまい。
子供用ワンピースに身を包んだ彼女は、小さな体躯でボクの肉棒を受け止めていて。
ガタン、と道の舗装がされていない時のバスの衝撃に、思わずお互いに呼吸が漏れる。
「ん、ぅくっ」
「ぁんっ♡♡ えへへ♡♡♡」
■
それこそ、昨日の分を取り戻すかのように。実家から離れた、街の中心街。
スーツ姿のOLに扮した愛依さんに誘われる形で、喫茶店のランチに連れられる。
「ここのケーキがすっごく美味しいの。ほら、あーんして」
「…………や、やっぱりちょっと恥ずかしい……」
「いいの。はい、あーん」
年の差デレデレカップル感を出すのはボクとしても対処方法が分からない。
どうしようもなく、愛依さんの言う通りに目を閉じ、口を開く。
──やわらかい、温かい感触。目を開けると、すぐ近くに愛依さんの顔があった。
「えへへ~♡♡ 本日の初キス、貰っちゃった♡♡♡」
■
「それっ! ヒロくん、もっとジャンプ!」
「い、いや、もう、キツイ!」
同い年ぐらいの元気な茶髪っ娘になって、駅近くのアミューズメントパークに入る。
バラエティ番組みたいに、いろいろな遊具があるアクション系の遊園地で。
今は、ぐるぐる回る柱に出っ張った棒があるので、それを避けながらしゃがんだり、ジャンプするゲームをしている。
「よっ、よいっと! あともう少し!」
「うっわっ、バランス崩して、むぎゅっ」
顔面にクッション付きの棒がぶち当たり、バランスを崩したボクはクッションの床にすっ転ぶ。
「わわっ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……あれ、愛依さんが2人に見える……」
「大丈夫じゃない!!」
少し休憩したら、すぐに戻った。
■
「どう、かな……似合う?」
「綺麗だと、おもう」
「……えへへ♡♡」
黒髪のポニーテールに、水色の浴衣。夏の花火大会は人が沢山いて、ごった返していた。
離れないよう、手を握る。いつの間にか、指の隙間同士を重ねる、恋人繋ぎになっていて。
「……ふぅ、やっと座れる場所に出てきた……」
「あ、開始のアナウンス!」
ヒューン、と花火が音を立てて暗闇を昇り。ドン、と大きな音を立てて光を散らす。
どんどんと花火の規模は大きくなり、連続して光と音が炸裂する。
「綺麗……」
思わず、愛依さんが呟く。だけど、ボクは。
隣に座って楽しそうにしている愛依さんの事が気になって。
花火よりも、そちらを気にしてしまっていた。
■
「いざ征かん、全ての理想郷へ──」
2人でよく視ているアニメの主題歌。劇中キャラがそのOPを歌うということで──
今の愛依さんは、声は声優さん、姿はアニメのキャラそのものになってオープニングを熱唱していた。
紫のドレスを着た、宇宙を飛び翔けるヒロインそのもの。
(ここまで行くと本物だなぁ……)
圧倒されたボクはというと、テンポ通りにタンバリンを鳴らすことしかできない。
そして歌が終わり──
「え、えぇ!? 88点!? 本人歌唱とほとんど似せたのに!!」
「機械は機械的に採点するだけだからね……」
個人的には100点だった。
■
そして、併設されているゲームセンターのプリクラ機に入る。
正直、愛依さんは盛らなくても十分可愛い。代わりにボクの目が大きくなっていた。ちょっと怖い。
今日変身した、4人分の写真をそれぞれ撮って。
「えへへ、思い出がまた増えた♡♡」
愛依さんは、続く言葉に。
「この中で、一番好きな写真はどれかな?」
……答えは、決まっていた。
「どれも綺麗で可愛いと思う。でも一番好きな人は、この中には、無いよ」
■
愛依さんと一緒に夜通し遊んでも良い。彼女は両親にそう許可されていることを知って──ボクは止まるホテルを急遽キャンセル。
ホテルの従業員の人には申し訳ないが……
「う、うぅぅ……ま、また来ちゃった……」
愛依さんの、本当の姿。黒髪ストレートがいつも艶やかで、目は恥ずかしさで少し涙ぐんでいる。
「や、やっぱり恥ずかしいよぉ……」
「でも……ボクにとって一番大好きなのは、『愛依さん』だから、さ」
「む、むぅぅ……♡♡♡ どこでそんな口説き文句を覚えたのぉ……♡♡♡ ヒロくんのどすけべ、へんたいっ……♡♡♡」
ぽかぽかと、抱き合いながら握りこぶしを軽く当ててくる愛依さん。
「その、さ……順番飛ばしにご両親とお話しちゃったけど……」
涙目の愛依さんが、ボクの方を見る。
「絶対幸せにするから……一緒に、居てくれる?」
「…………、~~~~っ♡♡♡♡ ど、どこでそんな口説き文句を覚えたのっ♡♡♡ も~~っ♡♡♡」
抱きしめた愛依さんの鼓動が聞こえる。トク、トクと素早く鼓動がしていて。
「……わ、私、もっ……大好きなんだからっ……♡♡♡♡ もっと好きになるようなこと言わないでよぅ♡♡♡♡」
わちゃわちゃと、ラブホテルのベッドにて。ボクたちは交わる。
「ん、んぅぅ……♡♡♡ ヒロくんっ、ヒロくんっ♡♡♡♡」
「痛くない?」
「ち、違うのっ……♡♡ 嬉しくて、ぞくぞくってして……♡♡♡♡」
対面で抱きしめ合いながら、腰をふる。身体が抱きしめ合っているように、交わっている部分も、ボクを離すまいとぎゅぅぅ、と締め付けてくる。
「もっと、ヒロくんの……欲しいっ……♡♡♡♡」
「う、うん……」
より膣奥に、彼女の身体に入り込む。呼吸は荒くなったが、蕩けた表情で愛依さんが見つめてくると。
──ボクも、耐えきれなくて。
「うごく、よっ……」
「うんっ……♡♡ きて……っ♡♡♡♡」
ぱちゅん、ぱちゅんと。ボクと愛依さんがぶつかり合い、身体を重ねる音。
どちらからだろうか。顔を近づけて。お互いの口の中を貪るように。
「ちゅぅぅっ♡♡♡ あむぅっ♡♡♡♡ ぺろ、ぺろっ♡♡♡♡」
前後不覚。ボクが愛依さんを犯しているのに、愛依さんに犯されているかのような錯覚。
だけど──気持ちは繋がっていると信じたい。
「ヒロ、くんっ♡♡♡♡ きもち、いぃっ♡♡♡♡ すきぃ♡♡♡ らいひゅきっ♡♡♡♡」
彼女の膣内で、ボク自身のモノが熱り立つのを感じる。
「だす、よっ……♡♡♡ うけ、とめてっ……♡♡♡」
「うん♡♡♡ ひろくんの、ぜんぶ……くださいっ♡♡♡♡」
そして──2人分の、絶頂の声が響く。
「ん、ぅううゔっ──」
「ぁ、ぁあ゛っ♡♡♡♡ ひゃぁぁぁっ~~♡♡♡♡♡」
……手を繋いだまま。僕たちはベッドに倒れる。
「ずっと、ずっと……いっしょ、だよ♡♡♡」
ボクの『変わり者』の彼女は。幸せそうに、そう言った。
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