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短編
試着室-(上)
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駆動音の響くエレベーターの中で、2人の男が立っていた。
出口の先には、コンクリート打ちっ放しの通路がずぅっと長く広がっている。脇にほんの僅かにある照明塔が、ぎりぎり床を照らしているだけ。空調用のものか、パイプが剥き出しになって通路を走っている。およそ、紳士服に洒脱な着こなしをしている2人が通るには不自然な道であった。
かつ、かつと足音が響き渡りながら反響する。この2人以外に周囲には誰もおらず、不思議なことに雨音も、空気の漏れる音などの雑音一つ聞こえなかった。
「しかし、毎回ここのお店にはお世話になっているが。毎回この通路を通るのは苦手だね。色々と面白い商品を扱っているのは今まで見せてもらったが、今日のは特別なんだろう?」
中年の男が、愚痴めいたことをこぼす。青年の方は、少し困ったような笑みを浮かべつつ答えた。
「申し訳ありません。当店の機密性を保持するためにはどうしてもアクセスしにくい形になっておりまして……」
「まぁ、君たちの今までの『商品』を見たら分かる。仮に公になればただ事では済まないからな。すまないな、客の案内は君にとっても大変だろう」
「いえいえ、お客様が悦ぶことが私たちにとって何よりの目的ですから」
あくまで営業スマイルを崩さない青年の態度に、顧客である男はそこそこ感心する。名札を見るに、「藤宮」と書かれていた。しかして、このような店で本当の名字を扱うことがあるだろうか。
「大鷹様、そろそろです。ご足労有難うございます」
ようやくたどり着いた金属製の重たいドア。易々と笑顔で藤宮が扉を引くと、ガタンと重い音を響かせて道が開けた。
「ああ、有難う藤宮君」
大鷹も、軽く礼交じりに入り込む。
部屋の中は、先ほどの不気味な廊下とはうって変わって明るい。汚れの無いタイルカーペットがモザイク模様に敷かれ、休憩用かソファーにウォーターサーバーも置いてある。さながら、ラウンジの様な仕組みになっている。だが、もとより大鷹はこれを利用するつもりでここに来たわけではなかった。手荷物を藤宮に預け、もう一人いた受付の先導に従ってさらに奥の部屋に入る。すりガラスのはめ込まれた木製ドアは、今度は手軽に開いた。
部屋の中は、先ほどのラウンジよりもさらに明るく感じられた。フローリングの床に、全体が鏡張りされた壁もある。ダンスレッスンのスタジオを思わせる部屋の隅には、試着室の様なボックスが布で仕切られていた。
もちろん、ここで極秘のレッスンを受けに来たわけでもない。その証拠に、この部屋の一角には異様な光景があった。
数体のマネキンが、色とりどりに着飾った衣装をまとっている。その事実だけを考えれば、ここは服のコーディネート展示室であるかのようだ。――――だが。大鷹には、それらがマネキンのように見えつつも、ひどく人間に精巧に似せてあるかのように見えた。まるで人間そのものであるかのように。中には、およそ普通の店では置かれていないような扇情的なものまで。
ショーウインドウの飾られているようなカジュアルな服装に加えて、スクール水着や際どい下着だけを着せたものも。中には、イヤらしく胸を見せつけたり、局部を食い込ませたりしたものまである。大鷹がよく見るに、マネキン自体にもかなりの個体差がある。身長や顔つきも明らかに違うし、体型も。これだけの種類のマネキンを、服にあつらえるために製造したのだろうかと一瞬思案するも、ここに来た理由を考え直して違うと確信する。確かに、これらは服に合わせて誂えれたのは確かだからだ。
「改めまして私どもの扱う商品についてご案内致します。当衣類専門店では、お客様を衣服を通して『生まれ変わったように』生き方を変えていくことを目的としております」
ここに並ぶのはほとんどが女性向けの衣類。客である大鷹がそれを直接着て生き方を変える、というわけでないことは2人とも理解している。
「ただ、私どもの扱う衣類の着心地というのは従来品よりも人を選ぶものが多いのです。体にきっかり合わせる分、拒否反応に近いものが出てしまうのも有りまして。試着して確認していただくのが最も手軽にお楽しみいただけるかと」
そう言うと、店員である藤宮はマネキンの一体から手早く衣類を外し始める。夏を意識したものか、麦わら帽子に向日葵のピンバッジのついたものも頭から外された。肩から全身を覆う純白のワンピースもそっと畳まれてゆく。
白のレースをあしらった淡い紫の下着も、テキパキと外しにかかった。ショーツだけは足元を通さなければならないために少々てこずっていたが。後には、真っ裸になった少女のマネキンがあった。単に服を展示するためのものではなく、丸みを帯びたおっぱいの先端にはほんのり赤みのある乳首があったり。ショーツの下に隠れていた所にはワレメがしっかりある。わざわざ作るのも面倒だったのか、下の毛は全くない。ぴっちりと閉じてはいるが、指を入れてしまえば開いてしまうのでは、と大鷹が思うほどに目の前のマネキンが人間そのもののように見えた。
藤宮は、一糸纏わぬ少女のマネキンの後ろに立つ。後頭部の髪の毛をかき分けるようにして、穴のような僅かな隙間に手を差し込む。そして、ぐいと力を込めて左右に開く。
対面していた大鷹は、光景を予測していたとはいえギョッとした。可愛らしい表情をしていた人形の表皮部分がだらりと垂れ下がり、さらさらとして輝いてすら見えた髪の毛は、今や顔の前方にダラリと落ちている。暗室ならば幽霊に出くわしたとすら思えるほどだ。
頭の部分だけではない。ハリを持っていた乳房の部分にも藤宮は手を掛けて外しだす。続けて腰、太もも、足先と。あとに残されたのは、本当に何も細工のない真っ白なマネキンと、藤宮によって畳まれた女物の服。そして、投げ捨てられた全身タイツのようになっている物体。
「脱がせる場面は初めて見るから、少々驚いた。来ている途中で説明を受けたんだが……」
大鷹が少し焦ったのか、唇をわずかに噛みながら呟く。
「大変申し訳ございません。少し、ラウンジで休憩などなされますでしょうか」
「いや、構わないよ。そのまま準備を続けてくれないか」
#####
『試着』するものを両手で広げつつ、大鷹は試着室に佇んでいた。通常のものより広めな試着室の中には、腰掛け椅子やハンガーの他にも着用の方法について書かれたポスターなども貼られていた。
『試着の際には、着心地の体感のために下着も外す事が推奨されています』
幸いなことに、姿見にはレースカーテンを敷いてあった。わざわざ自分の裸体を見る羽目にならずに済むことに大鷹は安堵する。品よく整えていたスーツを、仕事終わりに脱ぎ捨てるように気だるく適当にハンガーに引っ掛けた。
『着用は、通常の衣類と同様にお楽しみ頂けます。後頭部のチャックから伸びているジッパーは尾てい骨部分まで下げる事が可能です。不慣れな方は、足先からのご着用をお勧め致します』
ポスターの下には、着用の図式が描かれていた。見様見真似で、まずは目の前の全身タイツを垂らす。正面から見たら、流石に怖いかもしれないと思いつつ。ずい、と脚をその先端へと突っ込んだ。
元々、マネキンに合う程の大きさのタイツだ。成人男性である大鷹の脚は、明らかに元々のサイズよりも大きい。だから、当然足先まで突っ込む事は出来ない……筈だった。途中でつっかえることを予測していた大鷹の足先は、まるで彼専用に誂えたかのようにピッタリと入り込んでしまった。ほんの少しつんのめって、しかし足の先端は先程の少女のように細く、スラリと伸びている。
「っと……これは何だか不思議な気分だな……」
片脚だけが自分の、もう片方が少女の脚で長さのアンバランスが生じている。着ていないほうの足は長いままで、立つのにも少しばかり不安定である。早々に着てしまうことに決めた。ちょっと気になって、姿見のカーテンを開けてみる。
「なかなか鏡で見ると妙な気分になるな……」
上半身裸の自分自身に、下半身だけはキレイな女の子の足が生えている。なかなか奇妙な絵面で、少し見てしまった事を後悔する大鷹。さっさと着てしまおう、と両手を伸ばす。なおもだらりと垂れているのは、しぼんでいる胸の部分と、だらりと髪を伸ばした頭部分だけ。えいやっ、と頭部分を大鷹自身の頭に重ねると、一瞬ふらり、と立ち眩みのような感覚に襲われた。
「うぉ、っととっ」
慌てて壁際にあったクッションに座り込む。ふと、今自分の口から出た音が高すぎることに違和感を覚えた。続いて、先程まで自分の皮膚に張り付いていた前身タイツの感覚が無くなり少し肌寒く感じたのも。ふと、胸元には先ほどまでなかった大きなふくらみも見える。
「お……おお……!?」
転んだまま、あられもない姿で彼女は胸をおそるおそる掴んでみる。慌てて掴んだため、少々強めの『摘ままれる』感覚に襲われた。初めはペタペタと手の平で形に合わせるようにして、弾力のある感触と同時に触られる感覚を覚える。乳首の根本をゆっくりと力を入れすぎないようにつまんでみると、僅かな痛みと共にもっと弄りたいという感情を持ち始める。指先で軽くねじるようにすると、次第に気持ちよくなってくる。
全身の血流がドキドキと流れるのを感じるともに、股下にぬるりとした感触を覚える。見るに、その出元は普段の大鷹が持たない穴から湧き出しているようであった。この先を自分で触ってみたら、どうなるのだろうか。性的興奮と好奇心に支配されている彼女は、左手で胸を弄るのは止めずに右手の人差し指をゆっくりと彼女自身の肉壷に入れてゆく。
始めに感じたのは、体の内側に何かが差し込まれた異物感だった。ぬるぬるした感じを人差し指で掻き分けながら、それでも奥の方へと指を進める。徐々に、ぴっちりと閉じていたワレメの先がだんだんとふやけていくかのように右手の指が一本ずつ侵入してゆく。だんだんと、体全体がふんわりとした感覚に包まれてゆく。胸を揉んでいた左手も、その弄り方がぞんざいになる。鏡の向こう側には、顔を紅くしてとろんとふやけた表情の少女がだらしない格好で自慰をしている。大鷹自身がそうさせているのだ。そのことが、より彼女自身を興奮させる。
ふと、顔を上げてみると鏡張りの向こう側に少女が見えた。部屋の隅っこにあるクッションにあられもない姿で転びながら、胸元を触ってオナニーをしている。…………まぎれもなく、彼女を操っているのは大鷹自身だ。だからこそ、目前の少女をもっとよがらせたい。恥ずかしい格好を見てやりたい。イカせてやりたい。
指の根本まで入ってしまった先で、生暖かい粘液をかき混ぜながら進めてゆく。――「そこ」に触れた瞬間、一瞬大鷹の躰が跳ねた。
「ひうっ♡……!?」
目をぱちくりさせつつ、恐る恐るその近い所を触ろうとする。息が荒くなり、繊細だった攻めも乱れてゆく。口元もだらしなく緩み、クチュクチュと秘部からの水音だけが試着室に響いた。
「はぁ……はあーっ……♡」
痛みも異物感も、今の少女を止めることは出来ない。それ以上に、気持ちよさが勝っている。鏡の向こう側の少女も、誘うように淫美な表情を浮かべている。……もっとイキたい。もっとイカせたい。
トドメとばかりに、先程の急所をギュッと摘んだ。
「ひゃっ♡……ん゛っ~……!」
痛みはなく、全身に電気が走ったかのような衝撃。同時に全身の力が抜けてクッションに倒れ込む。股はガクガク震えてビショビショになり、吐息は高く小刻みになる。思わず左手のおっぱいも強く握ってしまい、同時に二箇所を責められる。
「ふぅっ♡……ふぅっ……!」
もう一度だ、と今度は両の指先に力を込める。
「――――っ……!?」
躰の力がコントロール出来ずに、ビクンと全身が跳ねてクッションに打ち付けられる。目の間の風景が一瞬ぼやけ、アソコから暖かい感じが吹き出す。自分がイッた、という理解が追いつくのは、体躯を仰向けにして十数秒経ってようやくのことだった。
少し顔を鏡に向けると、髪も乱れさせながら可愛らしい感じのする少女が、一糸纏わぬ姿で横たわっていた。しかし、股下の液体はてらてらと光っており口元からは涎も垂れている。事情を知らぬ人が見れば、誰かに襲われでもしたのかというほど。だが。
しばらく呼吸を整えた大鷹は、口元を拭ってまじまじと鏡を見つめる。対面し合う形になった少女。大鷹が笑いかけると、むこうの彼女もそうした。ちょっと口角が上がっただけの、ぎこちない笑顔だったが。今度は、大鷹自身も普段しないようなニカッとした笑いをしてみせる。彼自身も気恥ずかしさもあったのだろうか、鏡の少女は少しはにかんだような笑いを大鷹に向けた。思わず大鷹の表示世にニヤけた笑いが浮かぶものの、それでも少女の快活さは笑顔の歪みを打ち消してさえいた。
「お楽しみのところ失礼いたします」
今度は、衝撃で大鷹の体が跳ねた。試着室のレースカーテンの向かい側から、女性の声がする。他のスタッフだろうか。こんなところを見られたらまずい、なんとか静止しなければ。そう考えるも、既に向こうの手はカーテンを開きかけていた。
「す、すまな……!」
とっさに大鷹から、少女の声で謝罪が飛び出す。しかし、彼は目の間の光景を疑った。スタッフかと思いこんでいた女性は、少女の姿をしている今の大鷹よりも更に小柄であった。傍らには女性用の衣類を積んだ台車、さらには複数のアダルトグッズまで。
……もとより一番驚いたのは、目の間の彼女が女子制服を着ており、スカートの裾を両手でつまんで何故かたくし上げるようにしてショーツを見せている事だったが。カーテシーの真似事だろうか、とようやく考え、大鷹は声を発した。
「……君……は……?」
事態に理解が追いつかず、途切れ途切れの単語しか大鷹は口にできない。制服少女はアハハ、と笑って告げる。
「私です、当店販売員の藤宮です」
同姓のスタッフを疑うも、事情を知っているのはきっと彼しかいない。ということは。
「それも、この全身タイツのようなものなのかい?」
「驚かすつもりは無かったのです、失礼しました。試着時にどうしても体質と合わないお客様や、実際に動いてみると異常が発見されることが多いものですから」
「だからといって君まで着る必要は無いんじゃ無いかね……」
「『お客様目線』が我々のモットーですから。こういった試着段階で使い方のハウツーを把握して頂くことで、より衣類も長持ちするのです」
段々と目の前の少女の笑みが慇懃無礼なものに見えてきそうであった。
「それでは、実際の使用方法を体験していただきましょうか。私も手ほどき致します」
制服少女の皮を纏った藤宮が、いたずらっぽい笑顔でそう告げた。
出口の先には、コンクリート打ちっ放しの通路がずぅっと長く広がっている。脇にほんの僅かにある照明塔が、ぎりぎり床を照らしているだけ。空調用のものか、パイプが剥き出しになって通路を走っている。およそ、紳士服に洒脱な着こなしをしている2人が通るには不自然な道であった。
かつ、かつと足音が響き渡りながら反響する。この2人以外に周囲には誰もおらず、不思議なことに雨音も、空気の漏れる音などの雑音一つ聞こえなかった。
「しかし、毎回ここのお店にはお世話になっているが。毎回この通路を通るのは苦手だね。色々と面白い商品を扱っているのは今まで見せてもらったが、今日のは特別なんだろう?」
中年の男が、愚痴めいたことをこぼす。青年の方は、少し困ったような笑みを浮かべつつ答えた。
「申し訳ありません。当店の機密性を保持するためにはどうしてもアクセスしにくい形になっておりまして……」
「まぁ、君たちの今までの『商品』を見たら分かる。仮に公になればただ事では済まないからな。すまないな、客の案内は君にとっても大変だろう」
「いえいえ、お客様が悦ぶことが私たちにとって何よりの目的ですから」
あくまで営業スマイルを崩さない青年の態度に、顧客である男はそこそこ感心する。名札を見るに、「藤宮」と書かれていた。しかして、このような店で本当の名字を扱うことがあるだろうか。
「大鷹様、そろそろです。ご足労有難うございます」
ようやくたどり着いた金属製の重たいドア。易々と笑顔で藤宮が扉を引くと、ガタンと重い音を響かせて道が開けた。
「ああ、有難う藤宮君」
大鷹も、軽く礼交じりに入り込む。
部屋の中は、先ほどの不気味な廊下とはうって変わって明るい。汚れの無いタイルカーペットがモザイク模様に敷かれ、休憩用かソファーにウォーターサーバーも置いてある。さながら、ラウンジの様な仕組みになっている。だが、もとより大鷹はこれを利用するつもりでここに来たわけではなかった。手荷物を藤宮に預け、もう一人いた受付の先導に従ってさらに奥の部屋に入る。すりガラスのはめ込まれた木製ドアは、今度は手軽に開いた。
部屋の中は、先ほどのラウンジよりもさらに明るく感じられた。フローリングの床に、全体が鏡張りされた壁もある。ダンスレッスンのスタジオを思わせる部屋の隅には、試着室の様なボックスが布で仕切られていた。
もちろん、ここで極秘のレッスンを受けに来たわけでもない。その証拠に、この部屋の一角には異様な光景があった。
数体のマネキンが、色とりどりに着飾った衣装をまとっている。その事実だけを考えれば、ここは服のコーディネート展示室であるかのようだ。――――だが。大鷹には、それらがマネキンのように見えつつも、ひどく人間に精巧に似せてあるかのように見えた。まるで人間そのものであるかのように。中には、およそ普通の店では置かれていないような扇情的なものまで。
ショーウインドウの飾られているようなカジュアルな服装に加えて、スクール水着や際どい下着だけを着せたものも。中には、イヤらしく胸を見せつけたり、局部を食い込ませたりしたものまである。大鷹がよく見るに、マネキン自体にもかなりの個体差がある。身長や顔つきも明らかに違うし、体型も。これだけの種類のマネキンを、服にあつらえるために製造したのだろうかと一瞬思案するも、ここに来た理由を考え直して違うと確信する。確かに、これらは服に合わせて誂えれたのは確かだからだ。
「改めまして私どもの扱う商品についてご案内致します。当衣類専門店では、お客様を衣服を通して『生まれ変わったように』生き方を変えていくことを目的としております」
ここに並ぶのはほとんどが女性向けの衣類。客である大鷹がそれを直接着て生き方を変える、というわけでないことは2人とも理解している。
「ただ、私どもの扱う衣類の着心地というのは従来品よりも人を選ぶものが多いのです。体にきっかり合わせる分、拒否反応に近いものが出てしまうのも有りまして。試着して確認していただくのが最も手軽にお楽しみいただけるかと」
そう言うと、店員である藤宮はマネキンの一体から手早く衣類を外し始める。夏を意識したものか、麦わら帽子に向日葵のピンバッジのついたものも頭から外された。肩から全身を覆う純白のワンピースもそっと畳まれてゆく。
白のレースをあしらった淡い紫の下着も、テキパキと外しにかかった。ショーツだけは足元を通さなければならないために少々てこずっていたが。後には、真っ裸になった少女のマネキンがあった。単に服を展示するためのものではなく、丸みを帯びたおっぱいの先端にはほんのり赤みのある乳首があったり。ショーツの下に隠れていた所にはワレメがしっかりある。わざわざ作るのも面倒だったのか、下の毛は全くない。ぴっちりと閉じてはいるが、指を入れてしまえば開いてしまうのでは、と大鷹が思うほどに目の前のマネキンが人間そのもののように見えた。
藤宮は、一糸纏わぬ少女のマネキンの後ろに立つ。後頭部の髪の毛をかき分けるようにして、穴のような僅かな隙間に手を差し込む。そして、ぐいと力を込めて左右に開く。
対面していた大鷹は、光景を予測していたとはいえギョッとした。可愛らしい表情をしていた人形の表皮部分がだらりと垂れ下がり、さらさらとして輝いてすら見えた髪の毛は、今や顔の前方にダラリと落ちている。暗室ならば幽霊に出くわしたとすら思えるほどだ。
頭の部分だけではない。ハリを持っていた乳房の部分にも藤宮は手を掛けて外しだす。続けて腰、太もも、足先と。あとに残されたのは、本当に何も細工のない真っ白なマネキンと、藤宮によって畳まれた女物の服。そして、投げ捨てられた全身タイツのようになっている物体。
「脱がせる場面は初めて見るから、少々驚いた。来ている途中で説明を受けたんだが……」
大鷹が少し焦ったのか、唇をわずかに噛みながら呟く。
「大変申し訳ございません。少し、ラウンジで休憩などなされますでしょうか」
「いや、構わないよ。そのまま準備を続けてくれないか」
#####
『試着』するものを両手で広げつつ、大鷹は試着室に佇んでいた。通常のものより広めな試着室の中には、腰掛け椅子やハンガーの他にも着用の方法について書かれたポスターなども貼られていた。
『試着の際には、着心地の体感のために下着も外す事が推奨されています』
幸いなことに、姿見にはレースカーテンを敷いてあった。わざわざ自分の裸体を見る羽目にならずに済むことに大鷹は安堵する。品よく整えていたスーツを、仕事終わりに脱ぎ捨てるように気だるく適当にハンガーに引っ掛けた。
『着用は、通常の衣類と同様にお楽しみ頂けます。後頭部のチャックから伸びているジッパーは尾てい骨部分まで下げる事が可能です。不慣れな方は、足先からのご着用をお勧め致します』
ポスターの下には、着用の図式が描かれていた。見様見真似で、まずは目の前の全身タイツを垂らす。正面から見たら、流石に怖いかもしれないと思いつつ。ずい、と脚をその先端へと突っ込んだ。
元々、マネキンに合う程の大きさのタイツだ。成人男性である大鷹の脚は、明らかに元々のサイズよりも大きい。だから、当然足先まで突っ込む事は出来ない……筈だった。途中でつっかえることを予測していた大鷹の足先は、まるで彼専用に誂えたかのようにピッタリと入り込んでしまった。ほんの少しつんのめって、しかし足の先端は先程の少女のように細く、スラリと伸びている。
「っと……これは何だか不思議な気分だな……」
片脚だけが自分の、もう片方が少女の脚で長さのアンバランスが生じている。着ていないほうの足は長いままで、立つのにも少しばかり不安定である。早々に着てしまうことに決めた。ちょっと気になって、姿見のカーテンを開けてみる。
「なかなか鏡で見ると妙な気分になるな……」
上半身裸の自分自身に、下半身だけはキレイな女の子の足が生えている。なかなか奇妙な絵面で、少し見てしまった事を後悔する大鷹。さっさと着てしまおう、と両手を伸ばす。なおもだらりと垂れているのは、しぼんでいる胸の部分と、だらりと髪を伸ばした頭部分だけ。えいやっ、と頭部分を大鷹自身の頭に重ねると、一瞬ふらり、と立ち眩みのような感覚に襲われた。
「うぉ、っととっ」
慌てて壁際にあったクッションに座り込む。ふと、今自分の口から出た音が高すぎることに違和感を覚えた。続いて、先程まで自分の皮膚に張り付いていた前身タイツの感覚が無くなり少し肌寒く感じたのも。ふと、胸元には先ほどまでなかった大きなふくらみも見える。
「お……おお……!?」
転んだまま、あられもない姿で彼女は胸をおそるおそる掴んでみる。慌てて掴んだため、少々強めの『摘ままれる』感覚に襲われた。初めはペタペタと手の平で形に合わせるようにして、弾力のある感触と同時に触られる感覚を覚える。乳首の根本をゆっくりと力を入れすぎないようにつまんでみると、僅かな痛みと共にもっと弄りたいという感情を持ち始める。指先で軽くねじるようにすると、次第に気持ちよくなってくる。
全身の血流がドキドキと流れるのを感じるともに、股下にぬるりとした感触を覚える。見るに、その出元は普段の大鷹が持たない穴から湧き出しているようであった。この先を自分で触ってみたら、どうなるのだろうか。性的興奮と好奇心に支配されている彼女は、左手で胸を弄るのは止めずに右手の人差し指をゆっくりと彼女自身の肉壷に入れてゆく。
始めに感じたのは、体の内側に何かが差し込まれた異物感だった。ぬるぬるした感じを人差し指で掻き分けながら、それでも奥の方へと指を進める。徐々に、ぴっちりと閉じていたワレメの先がだんだんとふやけていくかのように右手の指が一本ずつ侵入してゆく。だんだんと、体全体がふんわりとした感覚に包まれてゆく。胸を揉んでいた左手も、その弄り方がぞんざいになる。鏡の向こう側には、顔を紅くしてとろんとふやけた表情の少女がだらしない格好で自慰をしている。大鷹自身がそうさせているのだ。そのことが、より彼女自身を興奮させる。
ふと、顔を上げてみると鏡張りの向こう側に少女が見えた。部屋の隅っこにあるクッションにあられもない姿で転びながら、胸元を触ってオナニーをしている。…………まぎれもなく、彼女を操っているのは大鷹自身だ。だからこそ、目前の少女をもっとよがらせたい。恥ずかしい格好を見てやりたい。イカせてやりたい。
指の根本まで入ってしまった先で、生暖かい粘液をかき混ぜながら進めてゆく。――「そこ」に触れた瞬間、一瞬大鷹の躰が跳ねた。
「ひうっ♡……!?」
目をぱちくりさせつつ、恐る恐るその近い所を触ろうとする。息が荒くなり、繊細だった攻めも乱れてゆく。口元もだらしなく緩み、クチュクチュと秘部からの水音だけが試着室に響いた。
「はぁ……はあーっ……♡」
痛みも異物感も、今の少女を止めることは出来ない。それ以上に、気持ちよさが勝っている。鏡の向こう側の少女も、誘うように淫美な表情を浮かべている。……もっとイキたい。もっとイカせたい。
トドメとばかりに、先程の急所をギュッと摘んだ。
「ひゃっ♡……ん゛っ~……!」
痛みはなく、全身に電気が走ったかのような衝撃。同時に全身の力が抜けてクッションに倒れ込む。股はガクガク震えてビショビショになり、吐息は高く小刻みになる。思わず左手のおっぱいも強く握ってしまい、同時に二箇所を責められる。
「ふぅっ♡……ふぅっ……!」
もう一度だ、と今度は両の指先に力を込める。
「――――っ……!?」
躰の力がコントロール出来ずに、ビクンと全身が跳ねてクッションに打ち付けられる。目の間の風景が一瞬ぼやけ、アソコから暖かい感じが吹き出す。自分がイッた、という理解が追いつくのは、体躯を仰向けにして十数秒経ってようやくのことだった。
少し顔を鏡に向けると、髪も乱れさせながら可愛らしい感じのする少女が、一糸纏わぬ姿で横たわっていた。しかし、股下の液体はてらてらと光っており口元からは涎も垂れている。事情を知らぬ人が見れば、誰かに襲われでもしたのかというほど。だが。
しばらく呼吸を整えた大鷹は、口元を拭ってまじまじと鏡を見つめる。対面し合う形になった少女。大鷹が笑いかけると、むこうの彼女もそうした。ちょっと口角が上がっただけの、ぎこちない笑顔だったが。今度は、大鷹自身も普段しないようなニカッとした笑いをしてみせる。彼自身も気恥ずかしさもあったのだろうか、鏡の少女は少しはにかんだような笑いを大鷹に向けた。思わず大鷹の表示世にニヤけた笑いが浮かぶものの、それでも少女の快活さは笑顔の歪みを打ち消してさえいた。
「お楽しみのところ失礼いたします」
今度は、衝撃で大鷹の体が跳ねた。試着室のレースカーテンの向かい側から、女性の声がする。他のスタッフだろうか。こんなところを見られたらまずい、なんとか静止しなければ。そう考えるも、既に向こうの手はカーテンを開きかけていた。
「す、すまな……!」
とっさに大鷹から、少女の声で謝罪が飛び出す。しかし、彼は目の間の光景を疑った。スタッフかと思いこんでいた女性は、少女の姿をしている今の大鷹よりも更に小柄であった。傍らには女性用の衣類を積んだ台車、さらには複数のアダルトグッズまで。
……もとより一番驚いたのは、目の間の彼女が女子制服を着ており、スカートの裾を両手でつまんで何故かたくし上げるようにしてショーツを見せている事だったが。カーテシーの真似事だろうか、とようやく考え、大鷹は声を発した。
「……君……は……?」
事態に理解が追いつかず、途切れ途切れの単語しか大鷹は口にできない。制服少女はアハハ、と笑って告げる。
「私です、当店販売員の藤宮です」
同姓のスタッフを疑うも、事情を知っているのはきっと彼しかいない。ということは。
「それも、この全身タイツのようなものなのかい?」
「驚かすつもりは無かったのです、失礼しました。試着時にどうしても体質と合わないお客様や、実際に動いてみると異常が発見されることが多いものですから」
「だからといって君まで着る必要は無いんじゃ無いかね……」
「『お客様目線』が我々のモットーですから。こういった試着段階で使い方のハウツーを把握して頂くことで、より衣類も長持ちするのです」
段々と目の前の少女の笑みが慇懃無礼なものに見えてきそうであった。
「それでは、実際の使用方法を体験していただきましょうか。私も手ほどき致します」
制服少女の皮を纏った藤宮が、いたずらっぽい笑顔でそう告げた。
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