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25話 「竜の謎の行動」
しおりを挟む今回の戦闘も竜がたくさん待ち構えていたが……
「???」
俺は違和感を感じていた。吠えたりして威嚇や挑発行為のようなものはしていることは確認できるのだが___。俺が距離を詰めると背中を向けて全速力で逃げる。
「何か策でもあるのか?こいつが作戦なんて立てなさそうだが……」
深追いはしない。
今回は相手の戦力を削ることではない。紛れもなくこの国とティナ個人のためにヴィルシスと決着をつける時。
そう思って地上に目を向けた時だった。
「ちいっ!」
背中を見せて全速力で逃げていた竜たちがそれぞれが全力でブレスを吐いてきた。
「知能が低い奴が考える作戦ってそりゃ不意打ちぐらいだよな!」
リースの用意してくれた左右の大盾でガードすると___。
「!?」
そのブレスを弾くだけでなかった。様々な属性のブレスのエネルギーを弾いた後、盾を伝って鎧に伝わり、自分の持つ大剣に伝わった。
すると大剣は竜たちのエネルギーを帯びた。
「これは一体……!?」
その様子を竜たちは静かに見ると踵を返してゆっくりと北の山脈へと引き下がっていった。
「なんだったんだ……?」
先ほど引き返ときの竜たちの顔は驚いた様子でもなく、怒り狂っていたり、恐怖におびえているわけでもなかった。
むしろ分かりきったかのような反応でしかも満足そうな目をしていた。
俺に対してブレスを吐いて効かなかったことに驚いて反撃をもらうことに気にして急いで逃げたという様子もない。
初動から不意打ち、その不意打ち後の竜たちの反応から行動まで。全く理解のできない竜たちの行動はいったい何だろうか……。
また戻ってきて攻撃するのではとしばらく身構えていたが、この後一切竜たちが現れることはなかった。
その状況にあっけにとられつつも、空の敵がいなくなったので地上戦の援護をすることにした。
ちらりと剣を見てもいまだに俺の剣には竜たちのブレスの属性エネルギーが備わった状態であった。
この竜たちの謎の行動はシュウだけではなく様々な者を混乱させた。
「シュウ何かしたんですか?相手の竜がすべていなくなりましたが……」
「いや、何か盾のようなものをつけているみたいでそれでガードしただけにしか見えなかったんだが……。効かなかったから諦めたのかもしれんな……。前回の戦闘の結果を知っている竜がいたらすぐにあきらめるのもありそうでは……」
「い、いえ……。竜たちにも恐れるという感情があるのは知っていますが……。逃げ方が明らかに本気ではありませんでしたし、あんなに一斉に竜たちがブレスを吐くことなんてありません。戦闘スタイルはそれぞれ好き勝手にやるので連携も何もないですし。近接を好む者、ブレス等の攻撃を好む者。色々いますが……いちいちご丁寧にブレスが好きな者ばかりそろえたとも思えませんね」
ティナの経験上でも見たことのない光景だった。いったいこれはどういうことだろうか。しかし、目の前から上から襲い掛かる脅威が少なくとも一時的には取り除かれたと前向きにとらえておこう。
「戻ってくるかもしれません。今上からの攻撃がない以上、一刻も早く体制を整えましょう!」
「了解だ!ってエルミーユは?」
「ああ……。たぶんセリア様の無茶ぶりにつき合わされましたね。心配しなくてもエルミーユもすぐに戻ってくると思います。セリア様は……あの人らしいので信頼して任せますかね」
ティナとメオンはこの機を見てすかさず兵士の配置と敵戦力、配置等の分析を行うため進軍した。
「な、な、何ぃ……?」
ヴィルシスもこの光景に驚いていた。あいつを少しでも疲弊させるための駒であったのに、ちょっと攻撃しただけで引き返してしまった。
しかも全く効いておらず、こちらのことを睨み付けている。
その光景を見てすでに泣き出したり、逃げ出している兵士が多くみられる。
全く人になつかない竜を戦力としておくりだすのはどこまでも苦労な事なのに。
わざわざ今回の戦闘のためにまた精鋭の難癖のあるドラゴンどもを用意したのに。
この状態を作り上げるのに何人が食われたり、ブレスでやられたり、建物を破壊されて経済的損失を与えられたと思っているのか。
それがこのたった数分ですべて水の泡になった。
「ど、どうしてこんなことになるんだ!」
ヴィルシスが叫んでも誰もなぜこうなったのか知るわけもなくただ黙ってうつむいていたり、すすり泣く声が聞こえてくる。
その声にすらイライラがする。今から戦おうというのに、士気が落ちる。
「だまれ!男のくせにめそめそしやがって!」
「そりゃ泣きもしたいでしょうよ。あなたみたいな男に無理やり兵に駆り出されて。しかも前二回の戦闘はすべて大敗と来た。みすみす死んだり怪我をしてくるうしい思いをすると思うとそうなるでしょうね」
エルミーユ率いる獣人軍団とともにヴィルシスたちの前に現れたのはセリア。
「またお前か」
「ええ。なんでも現れてあげるわ。対峙な戦力のドラゴンさんたちがいなくなって随分とお困りのようだしね」
そうセリアが言うとヴィルシス配下の兵士たちは震え上がった。
それを見たセリアはすかさず
「今、その男から逃げるのなら見逃す!だから戦うのが本意でないものはこの場から消えなさい!」
そう高らかにセリアが叫ぶとわっとヴィルシス配下の兵士たちはクモの子を散らすように散り散りになって逃げてヴィルシスの兵士たちの数は最初の70%ほどにまで減ってしまった。
「おのれえええええええええええ!」
逃げる一人の兵士を持っていた自分の斧で真っ二つに叩ききった。
それを見て残っていた兵士も顔が真っ青になった。
「よくもしてくれやがったな!小娘!」
「あなたが士気の仕方が悪いのよ。バカの将軍に率いられて困るのは兵士たちなのよ。バカで無茶をするなら私みたいに単独行動をしなきゃね」
セリアもエルミーユも油断はせずにヴィルシスとにらみ合っていた。どんなに兵士たちが減ろうがヴィルシスは簡単につぶせる相手ではない。
そして……セリア達にはすでにヴィルシスの持っている斧がおかしいことに気が付いた。
斬られた兵士の無残な姿。その斬られた断面が部分によって焦げ付いていたり、凍り付いていたりする。
「前回も前々回もお前に切って落とされたからなぁ。今回は対策してきたぜ、小娘。あの方にエネルギーを斧に入れてもらった。これで俺の斧は俺と同じようなものを持っている者にしか破壊できない……くくく」
「あの方……?」
「くくく……お前はあの方に狙われているというのにお前は何も知らない。いい気分なもんだなぁ。知らない方が幸せかもしれないしそれもいいかもなぁ?」
気になる発言であったが、ここは相手に乗せられるわけにはいかない。明らかにヴィルシスの持っている斧はおかしい。
あの哀れな兵士の無残な死体からどれだけ恐ろしいことがよくわかった。
ここは逃げるしかない。もう無理はできない。だってシュウに怒られてしまうもの。
ティナだけじゃない。私もいつも一人だと思ってた。誰かを失わないためには自分一人で何もかもできなきゃいけないって。過去の出来事に、兄を失ったことにおびえたままで。
でも違う。いつも助けてくれるみんなと力を合わせる。
ここは__
「エルミーユ!引きましょう!この状態をティナに報告よ!打開策を考えましょう!相手もこの状態だとすぐには出てこられない」
「了解です!みな引け!」
セリア、エルミーユは下がっていった。
しかし、ヴィルシスは追うこともない。
あいつを倒すことに興味はない。邪魔をするなら潰すが、邪魔せず消えた上にティナと合流するらしい。好都合だ。
そして斧のこの威力。素晴らしい。これならあの空に飛んでいる怪物にも__。
「ちと計算が狂ったが、いい意味でも悪い意味でも狂ってプラスマイナス0だな。くくく……。今の俺にあの小娘やメオンは通用しない。奴さえ消せば決まりだ」
そう考えると楽しみでたまらなくなってきた。決着の時は近い。
「さぁ、始めようぜ。怪物。お前の死ぬときは近いぜぇ!?」
そのぎらついた目はあった様子をうかがっていた俺を睨み付けていた。
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