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――……
「こいつが、月野直人。俺の友達」
「初めまして、直人です」
地下室での練習前、リビングで皆に碧音の家に連れてきた直人を紹介。
直人が来ることはあらかじめ知らせておいたから、誰も驚きはしない。
「初めまして!橘明日歌です」
「あ、もしかして」
「そ。これが昨日話した変態女な」
「皐月ぃ!!何変なこと吹き込んでんの?!私の印象誤解されるよね!」
キッと睨み火を吹く勢いで噛みついてくる。落ち着けよ、直人が引いてんぞ。
そんな直人に明日歌は『うふふっ。取り乱してすみません』とおしとやかなフリして猫被りする。
「全然変態じゃないので、安心してくださいね」
「安心しないでくださいね」
「碧音君まで!」
ソファでくつろぐ碧音がコンマ0.1秒の早さで明日歌の言葉を否定した。その判断は正しいと思う。
「碧音、明日歌ちゃんいじめると可哀想だろ」
「誤りを訂正したんじゃん」
藍が軽く注意してもツン、としたままの碧音に明日歌が『碧音君がいじめたー』と冗談めかす。
それに対して『はいはい、ごめんね』って口では謝ってるけど、思いっきり頬をつねっていた。
お前ら小学生か。
「そうそう、お前が昔好きだったバンドあるじゃん?そのドラマー、碧音の父親だから」
「……っは、え?!」
パクパクと口を開閉して、表情一つ変えず明日歌の頬をつねる碧音に焦点を合わせる。
そりゃびっくりするよな、俺も事実を知ったのはわりと最近。本当にたまたまで。
「あの、刹那さんの……子供?」
「……そうですけど」
ジーっと見られるのが堪に障ったのか、声に棘がある。直人もそれに気づき、ごめんと謝った。
「俺、好きだったんだ。君のお父さんがいたバンド」
「ああ。はい」
「刹那、今ちょっと嬉しかったんでしょ」
目ざとく微々たる碧音の表情の緩みを指摘した星渚に『別に』そっけなく返す。
碧音は自分にだけじゃなく、誰に対しても通常運転でこういうそっけなくて愛想がいいとは言えない態度だということが分かり、直人も胸を撫で下ろしたようにみえた。
「これから練習するから、月野君好きなだけ見てってよ。明日歌ちゃんと一緒に」
星渚が明日歌と直人に地下室へ行くよう促す。
「はい、ありがとうございます」
答えた時、僅かに直人の顔が曇ったのを俺は、見逃した。
――――――――
―――……
「橘さんは、よく練習見に来てるんだね」
「そうなんです。皆の演奏してる姿を見るのも楽しみですけど、この空間が居心地よくて」
背もたれのない簡易的な椅子に座り、碧音君達の準備が終わるまでしばし浅野さんとおしゃべり。
「皆個性的だけど、上手くまとまってる。橘さんも含めて」
「私もですか?」
「勿論。橘さんだってバンドには入ってなくても皐月達の仲間だろ?」
「そ、そうですかね」
改めて人から言われると、どうにも照れる。……照れるけど、嬉しい。他人の目にも、そういう風に映っているなら。
「始めようか」
星渚さんがマイクを握り、合図。碧音君達は頷いて真剣な表情になる。こうなると、もう皆の頭の中から私と月野さんの存在は消えるのだ。
練習に集中するから、仮に私が話しかけても気づいてもらえないだろう。
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