群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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129.

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「――僕はいつも君の背中を追いかけてる――」


ビリリ、体に電流が走るような感覚。他のバンドのライブを観てもこうはならないけれど、midnightは違う。


例え同じ曲を聞いたとしても、初めて聞いた時と同じように痺れる。


「――届かない悔しさに目を瞑っても、憤りで溺れたみたいに息が詰まっても――」


サビ前の不規則なリズム変化がたまらない、と月野さんに伝えようとして隣を向いたら。


――――――虚ろ。うつろ、ウツロ。


その言葉が1番似合うと思った。


演奏に感動して瞳を輝かせているわけでもなく、何かに取り憑かれたみたいに見入ってもない。


自分の好みの曲じゃないから、興味が失せたからという感じでもなくて。


「月野さん?」


「……」


返事もなし。


「――どうして、君の隣に立てないんだ――」


空虚だった表情に、小さじ一杯分の負の感情――憎悪が加わった。


つい数分前までの月野さんは、どこへ行ったの。


皐月がその顔見たら、心配しますよ。練習どころじゃなくなっちゃいます。けれど月野さんは負の感情を隠さず表情に出している。


もしかしたら月野さん自身も、今自分がどんな顔か分かってないのかもしれないな。


「どうだった?」


歌い終わった星渚さんに感想を求められると、ハッとしたように笑顔を繕う。


「す、ごいですね。聞き入っちゃいました」


『その台詞は本心ですか?』なんて私が言うべきではないよね。何故彼が嘘をつく理由が見つけられないから。


「さすがだろ!俺ら」


満足気に言うあたり、皐月は月野さんの変化に気づいていない。いや、気づける方があり得ないのか。


皐月は演奏に集中していたし、あの表情の違いは至近距離で見ていないと発見することが困難だ。


「こんなにレベル高いんだから、オファーとかあったりするんでしょう」


「んー。どうかな」


藍の答えは、肯定的にも否定的にも解釈出来る。曖昧にしたってことは、デビューの話を持ちかけられたことがあるのかも。


だって、midnightだ。


「やっぱ、これだけ上手くなるには相当練習するんですよね。バイトも学校もそれぞれあるのに大変だ。……そうまでするんだから、インディーズになるかメジャーデビュー、目指してるんですよね?」


「それは……」


珍しく言葉を濁す皐月。


意外、皐月なら『当たり前じゃねえか!』くらい言ってみせると思ったけど。


「はっきり答えられないなら――さっさと、やめちゃえよ」


この場にいる、月野さん以外全員が耳を疑った。やめちゃえよ。何を?バンドを。


月野さんの顔を見る限り、冗談で言ってるようには思えない。


というか、冗談でも言っちゃいけない台詞だよね。どうしてこの場で、いきなりそれを言いうの。


1番呆然としているのは、皐月だった。


「直人、なん……」


「やめちゃえよ。皐月、お前いつまでこれ続けんの?いつまで、夢みてんのさ。将来のことちゃんと考えろよ。ガキのままじゃ、いられないだろう」


月野さんはもう、笑顔を作ろうとはしなかった。


鋭利なナイフと化した言葉が止めどなく溢れ出し心を抉る。


「仲良しごっこのバンドに費やす時間を、自分の将来のために使うべきだって。そう思わないか?俺は、俺はっ必死で社長になるために頑張ってる。近々留学もするつもりだ、もっと成長出来るように」


単語だけが、バラバラ耳に入ってくる。何を、言ってるんだ。私も星渚さんも碧音君も、藍も。顔つきが変わる。


「そうだ、俺の会社で働かせてやってもいいんだぜ」


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