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しおりを挟む「――僕はいつも君の背中を追いかけてる――」
ビリリ、体に電流が走るような感覚。他のバンドのライブを観てもこうはならないけれど、midnightは違う。
例え同じ曲を聞いたとしても、初めて聞いた時と同じように痺れる。
「――届かない悔しさに目を瞑っても、憤りで溺れたみたいに息が詰まっても――」
サビ前の不規則なリズム変化がたまらない、と月野さんに伝えようとして隣を向いたら。
――――――虚ろ。うつろ、ウツロ。
その言葉が1番似合うと思った。
演奏に感動して瞳を輝かせているわけでもなく、何かに取り憑かれたみたいに見入ってもない。
自分の好みの曲じゃないから、興味が失せたからという感じでもなくて。
「月野さん?」
「……」
返事もなし。
「――どうして、君の隣に立てないんだ――」
空虚だった表情に、小さじ一杯分の負の感情――憎悪が加わった。
つい数分前までの月野さんは、どこへ行ったの。
皐月がその顔見たら、心配しますよ。練習どころじゃなくなっちゃいます。けれど月野さんは負の感情を隠さず表情に出している。
もしかしたら月野さん自身も、今自分がどんな顔か分かってないのかもしれないな。
「どうだった?」
歌い終わった星渚さんに感想を求められると、ハッとしたように笑顔を繕う。
「す、ごいですね。聞き入っちゃいました」
『その台詞は本心ですか?』なんて私が言うべきではないよね。何故彼が嘘をつく理由が見つけられないから。
「さすがだろ!俺ら」
満足気に言うあたり、皐月は月野さんの変化に気づいていない。いや、気づける方があり得ないのか。
皐月は演奏に集中していたし、あの表情の違いは至近距離で見ていないと発見することが困難だ。
「こんなにレベル高いんだから、オファーとかあったりするんでしょう」
「んー。どうかな」
藍の答えは、肯定的にも否定的にも解釈出来る。曖昧にしたってことは、デビューの話を持ちかけられたことがあるのかも。
だって、midnightだ。
「やっぱ、これだけ上手くなるには相当練習するんですよね。バイトも学校もそれぞれあるのに大変だ。……そうまでするんだから、インディーズになるかメジャーデビュー、目指してるんですよね?」
「それは……」
珍しく言葉を濁す皐月。
意外、皐月なら『当たり前じゃねえか!』くらい言ってみせると思ったけど。
「はっきり答えられないなら――さっさと、やめちゃえよ」
この場にいる、月野さん以外全員が耳を疑った。やめちゃえよ。何を?バンドを。
月野さんの顔を見る限り、冗談で言ってるようには思えない。
というか、冗談でも言っちゃいけない台詞だよね。どうしてこの場で、いきなりそれを言いうの。
1番呆然としているのは、皐月だった。
「直人、なん……」
「やめちゃえよ。皐月、お前いつまでこれ続けんの?いつまで、夢みてんのさ。将来のことちゃんと考えろよ。ガキのままじゃ、いられないだろう」
月野さんはもう、笑顔を作ろうとはしなかった。
鋭利なナイフと化した言葉が止めどなく溢れ出し心を抉る。
「仲良しごっこのバンドに費やす時間を、自分の将来のために使うべきだって。そう思わないか?俺は、俺はっ必死で社長になるために頑張ってる。近々留学もするつもりだ、もっと成長出来るように」
単語だけが、バラバラ耳に入ってくる。何を、言ってるんだ。私も星渚さんも碧音君も、藍も。顔つきが変わる。
「そうだ、俺の会社で働かせてやってもいいんだぜ」
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