群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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130.

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怒りたいのは皐月達。


でも何故か、月野さんは自分で言ったことに自分で傷ついてるように見えた。


自ら傷を深くしているじゃないか。ナイフは自分自身をも、刺していく。


やめればいいのに。


痛いって顔するなら今すぐにでも口を閉じてしまえばいいのにこの人はそれをしない。


「ああ、もしかして中学の時お前に『俺の代わりに夢を叶えてくれ』って言ったこと、信じてるのかよ」


「夢?」

月野さんが皐月に託した夢って何だろうと疑問に思い、つい口からそう発してしまった。


「俺の代わりにベースやってステージに立ってくれって話さ」


それならば皐月はすでに約束を果たしている。否、果たし続けていると言った方が正しい。


ちゃんと大きなステージに立って歓声をあび、認められているのだ。


「ガキの頃の約束、律儀に覚えてて。しかも俺がお前にやったベース、まだ使ってんのかよ」


壁に立てかけてある、年季のはいった皐月のベース。あれは、月野さんのものだった。


皐月がいつもいつも丁寧に手入れする姿を、私は見ていた。皐月にとって、大切なベースだから。


「直人がくれたベースだぞ、壊れるまで使うに決まってんだろ」


クシャリ、顔を歪めてつき野さんの瞳を見つめる。弱々しい皐月のこういう表情を、初めて知った。


「まさか、約束のためだけに今までバンドに時間費やしてきたとか言わないよな?俺の気まぐれで言った約束信じて、3年以上も……っ」


「何言ってるんですか、やめましょうよ」


自分が皐月にしてること理解してますか?大体、練習を見たいと言ったのはあなたでしょう。なのに、こんな。


「将来どうするか決めないで仲良しごっこのバンドやって、約束果たした気になって。お前それで満足なのか?」


一旦この場を収めようとしたのに、月野さんは無視。


碧音君や藍、星渚さんは怒りの色に染まってる。当然だ、仲良しごっこのバンドだと言われて平気でいられるわけがない。


「――皐月、お前今まで何やってたんだよ。こんなお前のバンドなんか、あってもなくても何も変わらない。無駄なんだ」


「っいい加減にしろよ!」


月野さんに向かって飛びかかり胸ぐらを掴んだのは皐月ではなく――碧音君だった。


藍が止めようと碧音君の細い腕を掴もうとしたけど、一歩遅かった。


「お前がっ、お前に皐月の今までを否定する権利なんてないだろ!」


「くっ……」


冷静さを欠き我を忘れ、激情に駆られている。こうなった碧音君を目の当たりにしたのは二度目。


一度目は藍がバンドを辞めるかもしれなくて、私と碧音君が言い合いになった時。


月野さんも月野さんで、胸ぐらを掴みかかってきた相手が散々罵った皐月じゃないことに驚いて声も出ないようだ。

「バンドのために皐月が頑張ってるとこ、お前ちゃんと見たことないくせに。皐月なりに努力や苦労もして積み重ねてきたものを、お前が否定すんな!」


「碧音君!」


「星渚も藍も、皐月も。いてもいなくても変わらないとか、そんなわけないだろ。無駄なことなんてないっ」


「刹那」


服に刻まれる皺が更に濃くなろうとしたところで、星渚さんが見かねて碧音君の手首を月野さんの胸元から離した。


「星渚、何すんだよ」


劣情を晒け出した碧音君は、酷く不安定だ。


自分の手首を拘束している星渚さんの手を振り払おうと躍起になるが、びくともしない。


息苦しさから解放された月野さんは無意識のうちに息を止めていたのか、肩で大きく息をして酸素を貪る。


「怒りたいのは、さーつーき」


ピリピリとしたこの場の空気に似つかわしくないゆるゆると脱力した言い方。


しかし言っている内容は正論なのだから、碧音君もこれ以上は暴れなかった。


「直人、そんな風に、思ってたのか」


信じたくないけれど、と言葉の裏に忍ばせたような物言いで。


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