群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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「碧音君、ストップ!」


「はっ?」


勢いよく碧音君の後ろから駆け出し、両手を広げて通れないようにした。


碧音君は思いっきり眉をひそめ機嫌悪そうに舌打ちする。綺麗なお顔が今は般若に思えなくもない。


「いきなり出てっちゃって、びっくりするじゃん。月野さんのことで怒ってるのは分かるけど、皆心配してるよ?取り敢えず一旦帰らない?」


なるべく碧音君のイライラを助長させないように言葉を選ぶ。


「お前1人で帰れよ」


「それじゃ意味ないでしょ?!」


「うっせ。帰れ。ばいばい、さよなら」


「強制終了にも程があるよね!」


私の横を通り過ぎようとする碧音君を逃がすまいとまた前に立ちはだかる。


「あんなこと言われたから怒ってるの?仲良しごっこのバンドだとか下らないとか」


「………」


「でも、皐月が許したんだし2人の問題は解決したんだよ?」


「違う」


「え?」


他に理由があるらしい。嫌悪で濃く塗りたくられた瞳を細め、顔を歪ませる。


「あいつが、皐月を否定したから」


「皐月、を?」


そう言われてみれば碧音君は月野さんに掴みかかった時『お前に皐月を否定する権利はない』と声を荒げていた。


「皐月は優しいやつだからあいつを許した。でも、俺は絶対許さない」


皐月が根は優しいことは、私も十分知っている。相手を見捨てないのだ、皐月は。


「自分を否定されることがどんなに痛いか分かってないからあんなこと言えるんだよ!そういうことを躊躇なく言えるやつなんか消えればいい」


怒りと嫌悪で震える、碧音君の握り締めた拳。


内で燃えたぎる感情をどこへぶつければいいのか分からない様子で、下唇を噛む。


「でも、月野さんだって長い間悩み続けてた部分もあるだろうし。結果その気持ちがああいう言葉になっちゃったんだと思う」


「お前も月野と同じなのかよ?人に否定されたことがないからそんなことが言えるんだ!」


碧音君は恐らく自分と皐月を重ね合わせていたのだ、あの時。


「碧音君は、そういう経験があるってこと?」


「——―あるって、言ったら」


クシャリ、綺麗な顔が歪む。


碧音君の過去に、何があったんだろう。今回の件で過去の断片を知ってしまった。


このまま引き下がるのか、それとも。私は。


君の世界に、飛び込んでみたい。


今しかないと思った。


「どうしてそんなに……泣きそうな顔をしてるの」


一歩近づく。


「碧音君にそんな顔をさせる理由を、知りたい」


今のままじゃ私は碧音君に何もしてあげられない。


そう言うと、碧音君は少し間をあけて。


「—―――いいよ」


ゆっくり言葉を紡いだ。


「俺の本当のお父さんとお母さんは、別にいる。今一緒に暮らしてる両親は、本物の親じゃ……ない」


それがどういう意味か理解するのに、通常の何倍もの時間を要した。


片方の親だけではなく両方とも自分を産んでくれた親ではないということは、離婚ではないはず。


「前に、お前家来たとき、写真見ただろ」


「見た」


夏のライブのための合宿で碧音君の家にお邪魔した際、飾られていた写真立ての中にいたのは小さな碧音君とお母さん、お父さんの3人。


「気づいたんだよな?あの時。……目の色が、違うって」


「両親は黒色なのに碧音君はそうじゃなかったから、不思議に思ってた」


パッと見ただけじゃ分からないけれど、よくよく注意して見れば瞳の色が異なっていたのだ。


普通、親が2人共黒目ならばその子供が別の瞳の色になることは有り得ないと言っても過言ではないと、テレビか雑誌で知っていたから尚更違和感が胸を突っかえていて。


碧音君に疑問を投げかけようとしたけれど、写真を伏せられてしまったから“聞くな”の合図だと思って止めておいた。


「鏡とかでこの目を見る度、ああ俺はあいつらの子供なんだって思って嫌になる」


忌々しそうに、片目を手の平で覆った。
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