134 / 155
133.
しおりを挟む「碧音君、ストップ!」
「はっ?」
勢いよく碧音君の後ろから駆け出し、両手を広げて通れないようにした。
碧音君は思いっきり眉をひそめ機嫌悪そうに舌打ちする。綺麗なお顔が今は般若に思えなくもない。
「いきなり出てっちゃって、びっくりするじゃん。月野さんのことで怒ってるのは分かるけど、皆心配してるよ?取り敢えず一旦帰らない?」
なるべく碧音君のイライラを助長させないように言葉を選ぶ。
「お前1人で帰れよ」
「それじゃ意味ないでしょ?!」
「うっせ。帰れ。ばいばい、さよなら」
「強制終了にも程があるよね!」
私の横を通り過ぎようとする碧音君を逃がすまいとまた前に立ちはだかる。
「あんなこと言われたから怒ってるの?仲良しごっこのバンドだとか下らないとか」
「………」
「でも、皐月が許したんだし2人の問題は解決したんだよ?」
「違う」
「え?」
他に理由があるらしい。嫌悪で濃く塗りたくられた瞳を細め、顔を歪ませる。
「あいつが、皐月を否定したから」
「皐月、を?」
そう言われてみれば碧音君は月野さんに掴みかかった時『お前に皐月を否定する権利はない』と声を荒げていた。
「皐月は優しいやつだからあいつを許した。でも、俺は絶対許さない」
皐月が根は優しいことは、私も十分知っている。相手を見捨てないのだ、皐月は。
「自分を否定されることがどんなに痛いか分かってないからあんなこと言えるんだよ!そういうことを躊躇なく言えるやつなんか消えればいい」
怒りと嫌悪で震える、碧音君の握り締めた拳。
内で燃えたぎる感情をどこへぶつければいいのか分からない様子で、下唇を噛む。
「でも、月野さんだって長い間悩み続けてた部分もあるだろうし。結果その気持ちがああいう言葉になっちゃったんだと思う」
「お前も月野と同じなのかよ?人に否定されたことがないからそんなことが言えるんだ!」
碧音君は恐らく自分と皐月を重ね合わせていたのだ、あの時。
「碧音君は、そういう経験があるってこと?」
「——―あるって、言ったら」
クシャリ、綺麗な顔が歪む。
碧音君の過去に、何があったんだろう。今回の件で過去の断片を知ってしまった。
このまま引き下がるのか、それとも。私は。
君の世界に、飛び込んでみたい。
今しかないと思った。
「どうしてそんなに……泣きそうな顔をしてるの」
一歩近づく。
「碧音君にそんな顔をさせる理由を、知りたい」
今のままじゃ私は碧音君に何もしてあげられない。
そう言うと、碧音君は少し間をあけて。
「—―――いいよ」
ゆっくり言葉を紡いだ。
「俺の本当のお父さんとお母さんは、別にいる。今一緒に暮らしてる両親は、本物の親じゃ……ない」
それがどういう意味か理解するのに、通常の何倍もの時間を要した。
片方の親だけではなく両方とも自分を産んでくれた親ではないということは、離婚ではないはず。
「前に、お前家来たとき、写真見ただろ」
「見た」
夏のライブのための合宿で碧音君の家にお邪魔した際、飾られていた写真立ての中にいたのは小さな碧音君とお母さん、お父さんの3人。
「気づいたんだよな?あの時。……目の色が、違うって」
「両親は黒色なのに碧音君はそうじゃなかったから、不思議に思ってた」
パッと見ただけじゃ分からないけれど、よくよく注意して見れば瞳の色が異なっていたのだ。
普通、親が2人共黒目ならばその子供が別の瞳の色になることは有り得ないと言っても過言ではないと、テレビか雑誌で知っていたから尚更違和感が胸を突っかえていて。
碧音君に疑問を投げかけようとしたけれど、写真を伏せられてしまったから“聞くな”の合図だと思って止めておいた。
「鏡とかでこの目を見る度、ああ俺はあいつらの子供なんだって思って嫌になる」
忌々しそうに、片目を手の平で覆った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる