群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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139.

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俺が、臆病なの。勇気が足りないせい?自業自得?……誰か教えて。


ぐるぐる色々なことを考えていると、ふいに無機質な呼び鈴の音が鳴った。


「……ちっ。誰だよ」


機嫌が悪い時の低い声で舌打ちし、粗方部屋を片づけてから『はぁーい』あの猫なで声でドアを半分開ける。


「こんにちはぁ、大家の水谷です」


「……、こんにちは」


この部屋に誰かが訪ねてくるなんて、珍しい。しかも今回は相手が大家さん。お母さんの顔が引きつっているのが分かる。早く帰れよって思ってそう。


「ちょっとねぇ、お話があって」


朗らかでゆったりとした喋り方。けれど表情は、どことなく強張っているようにみえた。お話?なんだろう?


「お話、ですか」


「実はねぇ。この部屋からたまにドンッ!!っていう物音とお子さんの呻き声というか泣いているような声が聞こえてくるって言われたのよう」


あ、それ。もしかしたら昨日のことかもしれない。


酔っぱらったお父さんに蹴飛ばされ物を投げつけられたから。


お父さんもお母さんも他人にバレないようにと気をつけてはいるけど、感情を抑えられないのか周りなんかどうでもいいと言わんばかりに激しく暴力を振るってくる時がある。


おばあさんの目がきょろり、俺に向けられる。空気が重くてピリピリしていて、居心地が悪い。


「……それは、勘違いか何かかと」


つっかえつつもお母さんがつらつら嘘を並べる。勘違いじゃないよ、本当にそうなんだよ。


「そう言われてもねぇ」


「子供の泣き声って…、ほら、あれじゃないですか。テレビ番組でたまにそういうシーンがありますよね。その時テレビの音量が大きかったから、聞こえてしまったのかもしれません。今度から音量に気をつけますね」


おばあさんは、分からないのかな。お母さんが、笑っているようで笑ってないことに。お母さん、面倒くさいって思ってる。


「でもねぇ。物音もするっていうしねぇー」


おばあさんも案外すぐには納得せず、引き下がらない。おばあさん自身もこれはもしかして虐待なんじゃないかと疑っているのかも。


「それは、うちの夫と子供がじゃれて遊んでる最中ふざけすぎて夫が壁にぶつかったりしたんだと思います。この子ったら、夫が帰ってくるとすぐ遊んでってせがむんですよ」


嘘つき。お父さんが、俺と。遊んだこと、ないじゃないか。


本当は俺だって友達がするようにお父さんとサッカーや野球、してみたいよ。けど俺のお父さんとじゃ無理だ。


「そうねぇ、お子さんまだ小さいしそういうこともあるだろうけど」


おばあさんは言葉を濁しつつも首を捻る。時折、お母さんを品定めするような目つきをして。


おばあさんは結局、何を言いたいのかな。遠回しに遠回しに言葉を選んで言ってるようだから、話の核がぼやけてみえる。


「お子さん、今おいくつでしたっけ?」


「10歳です」


「あらあら、大きくなったわねぇ。ここに引っ越してきた時はもっと小さかったのに」


「ええ。まあ」


「この年の子供の世話って、大変でしょう」


「そんなことないですよ、成長していく姿を見るのは楽しいですし」


お母さん、本当はそんなこと思ってない、と今俺が言ったならどうなるんだろう。おばあさんは、助けてくれる?それとも、お母さんに後で怒られるだけ?


「子育てで困ったことがあったらいつでも相談に乗るからねえ」


「ありがとうございます」


さっきから何でおばあさんは本題と関係のない話をずっとしているのか疑問だったけど、今分かった気がする。多分、家の中の様子を観察してるんだ。


目線は殆どお母さんに向けられているけど、たまにチラチラ中の様子を窺っている。不審な点はないか探してるんじゃないか。


おばあさんはお母さんのことを信用してないと、思う。


子供の俺にはその理由が掴み切れないけれど。


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