群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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【第20章 彼との距離】

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「今回も練習、お疲れ様!」


スタジオの練習室から出てきた皆にタオルやドリンクを手渡す。


「今回俺ら調子よくね?いい感じに仕上がってきてるしさ」


ほくほくした笑顔で皐月が声を弾ませる。上機嫌だな。


「次のライブまで余裕持って完成させられるかも。藍もそう思わない?」


「このままいけば、な」


タオルで顔や首筋を拭きつつ藍が『皐月は調子に乗り過ぎないように』と釘を刺すと、皐月は『そんなこと分かってるし』若干目を泳がせた。


その様子を見て星渚と碧音君がくすりと笑う。


―――あの日、碧音君と2人で家に戻ると帰った時間も遅かったせいか3人に大丈夫かとすごく心配されて。


特に皐月は自分のせいで碧音君が嫌な思いをして外に飛び出していったと考えていたから、余計心配していた。


けど私が『碧音君と、話をしてました。もう大丈夫です』そう言うと皆安堵の溜め息をこぼし、何があったかについては深く追及してこなかった。


きっと、碧音君のどこかすっきりした表情と少し赤くなった目元を見て色々と察してくれたからだと思う。


「藍はこの後どうすんの?真っ直ぐ家に帰んの?」


「うん。珍しく家に結人がいるからさ」


「良かったじゃねぇか!構ってやれるな」


「藍の努力が実りつつあるんじゃない?」


「そう、かな」


「当たり前だろ!藍が根気よく弟君に話しかけてるから心開いてきてんだろ」


「もっと、頑張るよ」


結人さんが相槌程度だけど話をしてくれるようになった、と最近藍が嬉しそうに話す。


言葉のキャッチボールが上手く出来ているかと言えばそうではないが、藍にとっては十分な進歩なのだ。


勿論、波江さんとだってラブラブだ。今度2人で水族館に行くデートを計画中らしい、羨ましい限りです。


「俺はどうすっかなぁー、家に帰っても暇だしCDショップ寄ってこ」


「え!それなら私も行く!」


皐月の台詞にビシッ!と挙手。


「はぁ?別の日に1人で行けや」


「何で!?」


一緒に行ったっていいじゃないかとブーイングする。


「だってお前……お前だし」


「理由になってないね!?行こうよ。ちょうど今日、ハマってるバンドのCDが発売されるんだよね。それ買いたい」


明日まで待ちきれない、今すぐにでも買って早くCDのジャケットに頬ずりしたいのだ。


「しゃあねぇな。特別に着いてくることを許可しよう」


「上から目線やめてもらっていいっすか」


「2人共ケンカしないで仲良く行きな」


藍に宥められ、はーいと大人しく返事をする。そして喋りつつもそれぞれ楽器やら荷物やらをまとめて受付に挨拶をし、スタジオを出た。


皐月とCDショップに向かうためいつも通る道とは反対方向に足を進めようとした、ら。


「明日歌」


心地いい、綺麗な声に呼び止められる。


「碧音君!どうしたの?」


「ハイライトのCD、WHITEっていうアルバムなんだけど。もし店にあったら教えて」


ハイライト、それは碧音君がお気に入りのバンド。


「うん、いいよ。見てみるね」


「ありがと」


ふっと口元を綻ばせ、小さく手を振り背を向けて帰っていく。


――過去を打ち明けてくれたあの日から、碧音君は自分から歩み寄ってくれることが少し増えた。


今まではこちらから距離を詰めないと自分の気持ちを伝えてくれないことの方が多かったけど、最近は違う。


良いことだ。嬉しい。


「おい、置いてくぞ」


「あ、待って!」


既に数メートル離れたところまでスタスタ歩いていってしまってる皐月に、急いで追いついた。


「なぁ」


「うん?」


「お前と碧音、2人で出てったとき」


何だか言い辛そうに言葉を区切るから、そのことについては聞かれてもいいよと言ってあげる。


「お前らが戻ってきたとときは、別に聞かなくてもいいやって思ってたんだけどさ。やっぱ気になっちまって」


「そうだよね。分かるよ」


「碧音、お前に対して接し方変わったし」



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