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53.
しおりを挟む「うっわ。もう17時半じゃん」
皐月がふいに私の後ろに視線を逸らしたと思ったら、目を見開いた。
私も釣られて振り返り、お洒落な時計で時刻を確認すると皐月の言う時間が示されていて。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「意外と長居しちゃったね」
空になったカップを手に取りごみ箱に捨てて、快適な空間から蒸し暑い外に出た。
あの抹茶ラテ、私がお金を出そうと思ったら皐月が払ってくれたのだ。
付き合ってるフリしてるんだから彼氏の俺が払うに決まってんだろ、と皐月は話していたけれど。
別にそうじゃなくても、皐月は何てことないように奢ってくれるんだろうなあ。
敵わない。
「俺、今日は電車乗って帰る」
「私も電車」
「この時間の電車、混むんだよなー」
「帰宅ラッシュにハマっちゃうかも」
他愛ない会話をしつつ、駅へ向かう。
空がほんのり淡く橙色から青色に変化していき、曇がその2色に染まっている。
前に碧音君と見たときの夕焼けの方が色彩豊かで、それでいて怖かった。
でも同時にあの不器用な優しさを思い出しながら前に足を進めた。
――――――――
――……
予想通り満員の箱に押し込まれながら、はあ、と小さく溜め息を吐く。
あれは、失敗した。
相談中、こいつ碧音君がー、碧音君はーってずっと言ってるから何となく面白くなくて。
だから意地の悪い質問をしてしまった。案の定、シュンとした顔になりながらも強がってたけど。
途中から軌道修正しようとこじつけで『突っ走るだけじゃなくて立ち止まれ』だとか言ってみたりして。
無理あるかって若干心配したけどあいつは信じきってくれた。まじで単純。
「なあお前、棒になる練習でもしてんの?」
「棒を目指す人間はいません」
隣でギュッと体をコンパクトにしようと頑張ってる明日歌。
一体何なんだと不思議に思い周りをチラリと見回して。
「……あー」
明日歌を挟んだ左隣に、小さい子供がいたのだ。子供のためにスペースを開けてやろうとしていたのか。
満員電車では危ないから、と。はー、お前は。
「明日歌」
「はい?」
腕を引いて、明日歌を俺の側に寄せる。こちら側に近づけば俺が狭くなると考えて寄ってこなかったんだろうけど。
仕方ねえだろうが。
「ごめんなさい」
「お前が痩せれば良いんじゃねえ?」
「はぁぁん?藍に言いつけちゃおうっかな」
「藍はお前の保護者じゃねぇよ」
しかし、俺も藍に逆らおうとは思わないためからかうのは止めておく。
駅で停車する度にどんどん人が増えていき、窮屈になる。
さすがにキツ過ぎないか、そう不満を心中でごぼし明日歌に声をかける。
「おい、大丈夫か」
「押し潰されて煎餅になりそう」
肩を竦めて苦笑いしながら顔を上げる明日歌。
「……っ」
身長的にちょうど明日歌が俺を上目遣いで見上げる形に。
……待て待て、俺今一瞬やばいって思わなかったか?こいつを、不本意だけど、めっちゃ不本意だけど可愛いって言葉が脳裏を過ったよな。
俺、疲れてんだわ今日。そういうことにしておこう。恋愛なんかにかまけてる暇はないんだ。
あいつとの約束を果たし続けることが何よりの優先事項。
もう一度、煎餅になりかけてる変態を見る。お前は人のペースを乱す天才かっての。
……それを案外悪くないと思ってる自分もどうかしてる。
明日歌から視線を逸らし、窓の外の夕焼けを眺めることに専念したのだった。
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