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【第9章 君が必要だから】
しおりを挟む「碧音君、はいタオルどうぞ」
「……何の真似」
スタジオでやっている練習の合間の休憩時間。椅子に掛けてあった碧音君のタオルを手渡す。
マネージャーっぽくやってみたけど、碧音君には怪訝な顔しかされなかった。
「他の皆は休憩しないの?」
ガラス越しに、3人に視線を滑らせる。
「納得いかないとこあるからやるって言ってた」
「しっかり休憩するのも大事なのに」
「やらせとけば」
皐月に相談に乗ってもらいありがたいアドバイスを頂いたから、その通り歌については気にしないようにしている。
だから碧音君とも普通に接することが出来るようになった。
「お前さ、よく飽きないよな」
「ん?」
「スタジオ来ても毎回同じように見てるだけだろ。飽きねえ?」
心底不思議だとでも言いたげに問う。碧音君、それは私にとって愚問だよ。
「全然飽きない。だってこんな間近ですごい演奏聞けるし、ファンでこういうこと出来るのって私くらいじゃない?ちょっと優越感っていうか。特権みたいで」
何度もスタジオに来てるけど、私以外のファンの人が見に来たことは殆んどないと思う。現に、私は会っていない。
「ファンにとってみたら、嬉し過ぎるよ」
ヘラッと笑ってみせる。
そしたら、碧音君はぎこちなく目を泳がせそっぽを向いた。
「お前、まじで単純だな」
「あー!照れてる」
「んなわけないだろ。お前の単純さに呆れてんの」
またまたあ、素直に喜んでくれて良いんだよ?碧音君は自分の感情を表に出すことにかんして不器用だ。特に嬉しいとか悲しいとか。
毒舌な言葉で、本心を隠してしまう。
「特権を利用して、碧音君の歌聞かせて欲しいな」
「は。俺?」
「曲は何でも良いから、歌ってよ。碧音君の声、好き」
デレた顔のまま詰め寄ったら、碧音君が置いてあったペットボトルを手に取り投げようとしてくるのを瞬時に理解し、パッと避ける。
「くそ。外した」
「同じ手に何度も引っかかりません」
そう余裕綽々でいたら次の瞬間。
「い、いったぁ!!刺さった、おでこに刺さった!」
「ざまあ」
あろうことか、ドラムスティックの先端を額に突き刺す勢いで押し当ててきたのだ。
血、出てないよね?大丈夫だよね?
「また碧音君に接近出来なかった!無念」
「言っただろ。お前は単純バカって」
フッと嘲笑しスティックをクルクル指で回した。何その然り気なく格好良い仕草!
「今のもう1回見せて!」
「…………ほら」
「指綺麗だしスティック捌きは格好良いし」
はあ、思わず溜め息が溢れる。次いでに一旦落ち着くために深呼吸し、ピッと背筋を伸ばした。
碧音君、ペットボトル構えなくても良いんだよ。何もしないからね。
「そんな何をやっても様になっちゃうエクセレントな碧音君に、折り入ってお願いがありまして」
「断る」
「まだ言ってない」
「断る」
『絶対ろくな話じゃない』と明らさまに嫌そうな顔になってる。でも、せめて話だけでも聞いてください。
「実はね、私の友達が部活で軽音やってるんだけど、あることを頼まれまして」
真面目に話そうとしているのが伝わったのか、碧音君も聞いてくれる気になったらしく弄っていた携帯をテーブルに置いた。
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