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しおりを挟む僅かなズレだとしても、何度もやり直し修正。
碧音君、普段は面倒臭がりだし時間にもルーズだけど、バンドや音楽のこととなると一切妥協しない。
細かい部分まできっちりと完成度を上げていく。
「サビからラストまで通してください。注意した箇所を忘れずに」
「うっす!」
「が、頑張ります」
休憩なしで練習しっぱなしの先輩達は疲労の色を隠しきれていないようだ。
でも、碧音君のスパルタに食いついている。
私は何も手助け出来ないのが歯痒い。終わったら、吉野先輩を今度は私から抱き締めてワシャワシャしたいな。
雨宮先輩には、ちょうどバッグの中にあるお菓子を差し上げようか。
のど飴はないから、また明日にコンビニで買っておかなきゃ。
「―――君だけは、僕の手を離さないで―――」
何十回も聞いただろう同じ歌詞、同じ音。
でも、最初の時よりは格段にレベルが上がった。確実に良くなってるよ。
白石先輩もそう思っているのか、目をパチパチしてる。こんなにも数時間で変わるのか、と。
「―――I miss you―――」
雨宮先輩が歌い終わると、碧音君は少しの沈黙の後肩を竦めて溜め息を吐いた。
ま、まさかダメだったとか?!そしたら、休憩はおろか今日の練習終わらないんじゃ。不安に煽られる。
「刹那君、俺らどうだった?!」
岡谷先輩が、碧音君の顔色を窺いながら尋ねた。
「…………まあまあ。今日はこのくらいで良いですよ」
「ほ、本当?!刹那君、練習終わり?」
「今日は、ですけど」
「やっと開放された………!も、私お家に帰れないかと」
瞳をウルウルさせて床にへたり込んだ吉野先輩の頭を、雨宮先輩がよしよしと撫でた。
「私も、1日でのど潰されるかと思ったよ?刹那君」
「限度は考えてましたから、心配ないですよ」
このギリギリまで追い込むやり方は、星渚さんに似てるな。
「皆、すごく上手くなった。聞いててびっくりしたぞ」
白石先輩が、3人を労う。
「俺、ベースの腕前1歩皐月さんに近づけたかもしんねえ!」
「皐月の足元に到達する50歩手前、の間違いです」
「刹那くーん、俺の自信を蹴散らさないで」
張りつめた空気もなくなり緊張が緩んだのか、先輩達も難しい顔から笑顔に早変わり。
「先輩、お疲れ様でした。これどうぞ」
雨宮先輩に手渡したのは、チョコクッキーの箱。
「皆さんで分けて食べてください。チョコって疲労にいいって言うじゃないですか。チョコ“クッキー”で効果があるのかは微妙ですけど」
「橘さん、ありがとう」
「嬉しい!お腹空いてたの」
むぎゅう、ツインテールの彼女に抱き締められても慣れてしまった。
「……疲れたんで、俺帰ります」
「うん、また明日な!」
碧音君にバイバイと手を振る岡谷先輩。
「あれ、先輩は帰らないんですか?」
練習は終わりなはず。
「俺らは2年のバンドも面倒みてやらないと」
「そうそう。だから私達はまだ残ってくの」
自分がどれだけハードな練習をした後でも、後輩の面倒をみなければいけないとは。もう頭が上がらない。
「そういうわけだから、2人は先に帰って良いよ。じゃあね」
「橘さん、明日も会おうねっ」
「はい!」
両手を控えめに振る吉野先輩が可愛いすぎて、私もうっかりつられて同じ動作をしてしまった。
この可愛さは罪です、先輩。
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