群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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【第11章 過去の片鱗】

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「まただ」

ガラス張りの休憩室の窓から、受付けの辺りで壁に寄りかかっている彼を発見。

携帯を耳にあて真剣に話し込んでいるその姿を目にするのは今日に始まったことじゃない、というか最近ずっとこの調子なのだ。

たまにクシャリ、緩いウェーブのかかったマロンブラウンの髪を乱して肩を落とす。

練習の合間にある休憩の時間になると、決まって離れた場所で携帯を弄り電話していて。

心配だ、声をかけてみようかと休憩室のドアを開けるために立ち上がったら――ガシッ!

「はいはい、お前は俺と曲のチェックしましょうねー」

「皐月!」

腕を掴まれろくに抵抗も出来ず皐月の隣に座らされた。尚も腕は離してくれない。

「私、ちょっと用事あるから」

「お前の用事よりこっちの方が大事に決まってんじゃねえか」

小型の録音機器を揺らして見せつけてくる。

前の合宿の際私が練習の時に出したアイデアが採用されたこともあり、少しではあるが曲作りに参加させてもらえている。

参加してるといっても、このパターンとこのパターンならどちらがいいかを選ぶくらいだけど。

「どれがしっくりくるか選べよ」

「それはまた後でやるしさ、待ってて」

ほんの数分だからと腰を浮かせると、腕を掴んでいた手をガッチリ肩に回されてしまった。

いや、肩というか首にまで。

女子に対してする行為ではない、という意思を込めてジト目で睨んでも皐月は『再生すっから』とあっさり無視しやがった。

「皐月、離してください」

「放っといてやれよ」

「えっ、なん……」

放っといてやれよ、それは私が藍を気にしていると知っていての言葉。

「お前の考えなんかすぐ分かるわ。藍が心配で声かけてやろうとか慰めようとか思ってんだろ」

スルリ、漸く私の首に絡めていた腕をほどいてくれる。見事に皐月に心の内を見透かされ、鼓動が早くなった。

私がいくら言い訳して誤魔化したところで、簡単に嘘だとバレるんだろうな。

「心配になるよ。電話切った後の顔、切なそうだし。練習にだってあんまり来なくなったでしょ」

藍は大学生なんだから、大学やバイト先の事情で練習に来られなくなっても仕方ない。

でも、そういう事で悩んでるんじゃない気がして。

「ガキには理解出来ない大人の悩みっつーもんがあんの。1人にしておいてやるのも優しさだって学校で習いませんでしたかぁー?」

「習いませんでしたぁ」

「てめえのその顔ムカつくからコンクリートにこんにちはさせてやりてぇ」

「それはコンクリートに顔面強打しろと?鼻潰れますけど!?」

バチバチ火花を散らしてワーワー言い合ってたら練習室から出てきた碧音君に『2人してうるさいんだよ。ケンカなら他でやれ』と冷凍庫並みの冷たいオーラで言われたので、一時休戦となった。

「あーあ。今度は何でケンカしたの?」

遅れて休憩室に現れた星渚さんがクスクス笑う。

『どうせ下らないことなんだよね』という台詞が言葉の裏に隠されている気がするのは私だけじゃないはず。

「私、藍の様子がいつもと違うから声をかけようとしたら皐月に止めろって言われた」

「皐月の言う通り、放っといてあげたら?」

「星渚さんまで……」

皆、仲間に対して冷たいっていうわけじゃないのは私も知ってる。でも、大丈夫かくらい聞いてもいいじゃないか。

「藍は、人に自分の深い事情に踏み込まれるの好きじゃないんだよね。特に、気持ちが整理出来てない時は」

譜面に目を通しつつ、何てことないように言ってのける。

「だからね、明日歌ちゃんがどんな言葉を言っても藍は何でもないって言う」

意外だ。藍は他人をすんなり受け入れるタイプだと思っていたから。

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