群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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【第12章 彼のボーダーライン】

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「ふんふん、ふっ~ん」

鼻歌を歌い、軽快にスタジオへの道を歩く。鼻歌と共にリズムを刻み揺れるのは、手作りプリンを入れたバッグ。

勿論保冷剤も準備してあるから、生温いプリンになることはまずない。

カラメルソースは大人な味でほろ苦くしてあるし、しつこくない甘さだから皆に食べてもらえるはず。

碧音君の胃袋掴めるかも、なんて想像してる内にスタジオへ到着。

私は練習室には入らないし、楽器や機材を借りるわけでもないからスタジオの利用料金などは払わなくても良いので、受付けのスタッフに挨拶してそのまま通り過ぎ休憩室へ向かおうとした途中。

「あ、藍。今って休憩時間な、の――」

「……」

聞こえる音量で話したのに、藍は私に顔も向けずスッと横を通り抜けていった。

おかしい、今までこんなこと一度もなかった。呆気に取られて体が動かない。

それに、ギターも持っていなかった。振り返っても既にスタジオを出ていったことは容易に分かる。

プリンの形が崩れるのも気にせず、急いで休憩室とはガラス板で仕切られていて隣り合わせの練習室へ走りドアを叩いた。

1番近くにいた碧音君が出てきてくれる。

「碧音君、藍が……」

「うん」

私の言いたい内容は察してくれたようだ。

碧音君も心なしか難しい顔をして、ドアに背を預けていて。

「何があったの?っていうか、追いかけなくていいの?」

練習室内ではまだ皐月と星渚さんは2人で楽譜か何かを見ながら話し合っていた。

「……藍が、暫く来られないって」

「ここに?」

「その後も、来られないかもしれないって言いにきた」

碧音君の言葉をゆっくり噛み砕いていく。それはつまり、midnightを辞める可能性があると受け取れる。

「辞めちゃうの?藍」

「辞めるとは言ってない」

そうは言ったって、何の考えもなしに軽い気持ちで藍がこんな話するとは思えない。

数日前も皆と笑ってたのにどうして。

「私、藍を追いかける。探す」

「どこを」

「藍が行きそうな場所。電話か、メッセージも送ってみる」

プリンのバッグを雑に足元のローテーブルにおき乱暴にドアを開け廊下へ出た。

「待てよ」

「待てない」

「お前、星渚に言われたよな」

教えられた日の記憶は新しい。藍は自分のテリトリーに他人を簡単に入れないと。

「覚えてるよ」

「なら今どうするべきか分かんだろ。追うっていう選択肢はない」

「だけどっ、本当に辞めるって言ったらどうするの!?」

「今はただ気の迷いで言った可能性の方が高い」

私と碧音君の声が廊下に響く。スタジオを利用してる他の人に会話は丸聞こえだけど、それは別にいい。

「暫く来られない、そう言ったとき心の中では引き止めて欲しかったかもよ?」

「お前の憶測。変な正義感で行動すんな」

抑揚のない声色で、静かに言葉を紡ぐ。

私とは正反対だ。

「自分を知らないやつに慰められたって、何とも思わない」

「言ってみないと分からないよ」

「ただの自己満足。助けに行って相手を理解したような言葉並べて、救った気分に浸る。満足だよな、自分は」

「…………っ」

碧音君が初めて露骨に出した怒りのような、それでいて切なさを含んだ感情が、胸に突き刺さった。

痛い。


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