上 下
73 / 155

【第13章 過去の残像】

しおりを挟む


「ただいま」

「兄ちゃんおかえり!」

家に帰ってただいまと言っても返事をしてくれるのは弟の結人だけ、お母さんは何も言わず洗濯物を畳んでいる。

顔くらい、見てほしい。

「兄ちゃん、ほら」

帰ってきて早々トテトテ覚束ない足取りで俺の方に歩いてくる結人。手には白い画用紙を持っていた。

「描いた、兄ちゃん」

「へー。上手いじゃん」

正直目も大きさが左右違うし顔に対して体小さいし、辛うじて人間だと分かる絵。

でも、小2だってことを考えればその中では上手な方、なんだと思う。

「俺に絵くれるの?」

「うん、あげる」

「ありがとな」

弟は満足気に頷いてテーブルに戻り、またせっせとクレヨンで絵を描き始める。

ああ、クレヨンバラバラじゃん。散らかすと片付けが困るだろ?

「ゆーいーと。クレヨン」

浅く長い箱に1本1本戻す。普通はお母さんが『ちゃんと片付けなきゃダメでしょう』って怒るはず。

だって学校の先生も片付けをキチンとやらなければ生徒に注意するから。

でもうちのお母さんは言わない。何をしようと興味がないらしい。

「俺、遊びに行ってくるから」

「あそぶ?」

「友達と遊んでくる」

もしも結人にランドセルに落書きされたら嫌だ、離れたところに置いておく。

お母さんにも言うと『そう。遅くならないように』洗濯物に視線を落としたまま。行ってらっしゃい、って言って欲しいんだけど。

不満でモヤモヤしつつ、靴に足を入れて友達が待つ学校へと駆け出した。

毎日ほぼ仲の良い友達と放課後に公園や学校で遊んで過ごす。家にいてもつまらないから。

いつからだっけ、家にいるより外にいる方が楽しいと思い始めたのは。

「鬼ごっこしようぜ!」

「ええー!かくれんぼ、かくれんぼ」

「鬼ごっこやった後にかくれんぼやろうよ」

「いいね、そうしよう」

両方やればいいと提案すれば、友達は賛成してくれた。それも飽きてくると次は遊具を使った遊びをする。

これは小学5年から使用を許されるものだけど、大抵6年が占領していて俺達は5年なのに使ったことがあまりない。

でも今日は珍しく6年がいなくて、思いっきり遊べた。

「なあ、5時半だぞ。帰ろう」

「まだ明るいし遊べるって」

遅くまで一緒に遊びたいと誘うのはいつも俺。家に帰るくらいなら、友達といたかった。

「藍は家に帰るのが遅くても怒られねえの?」

「俺なんか、母ちゃんにすっごい怒られんだぜ」

「うちは父さんが怖いよー」

だよな、皆の家はそうなるよな。

俺は遅くならないようにとは言われるけど、実際帰りが遅くなっても注意されないんだ。

お父さんにも、お母さんにも。


しおりを挟む

処理中です...