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宿貰い
燕巣
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男は、昼間の二、三時間は姿を消す事があるが、ほぼ一目中、門の中に立っていた。
だが、家の人に何か悪さをすると言う事はなく、ただ立っているだけなのだ。
通報があって警官が来ることもあったが、その時は姿を消している。自らの危険を察知する能力が非常に高い。
そして、近所の人達も気持ち悪がり、富貴家に近づく人は居なくなっていった。
男が門に居着いてから3日目に、夏実は父を富貴家に連れて来た。勝淞寺の僧侶、玄人である。
そして、富貴家の裏口から出て来た楓香と三人で少し離れた所から男を見た。
すると、黒い物が二匹、門から宙をすーっと飛んで出て行くものがいる。この前見た物と同じだ。
「あれは、燕だわ。」夏実が言う。
そして、よく見ると門の屋根の梁の上に燕の巣がある。
雄と雌のつがいの燕が巣を作っていた。
「今年も燕が来てるのね。」
楓香は夏実達に、毎年門の梁に燕が巣を作っている事を教えた。
しかし、今年は男がいるのでフンよけの養生が出来ない。
三人は男に近づき、玄人が話しかけた。その少し離れて後ろで、夏実は怖がる楓香の肩を抱いて立っている。
「ちょっといいかな。」
「貴殿は何ぞ?」
「わたしは、富貴さんちの親戚の者だよ。」
「君はどうして富貴さんの家の門に居座っているんだ?」
「私の棲み家だからここにいるのだ。」
「私は自分の棲家がなく、ずっとさ迷っていた。しかし、ここの持ち主からここを譲り受けて初めて自分の家を持てた。」
「いや、ここは富貴さんの所有物だろう。」
「確かに、ここの持ち主からここは私の物だと聞いた。」
「それは、君にあげると言う意味ではなくて一時的に雨宿りしてもいいと言う意味だろう。」
「違う、持ち主からあげると言われたからもう私の物だ。私はここにずっと住む。」
玄人の後ろで聞いていた夏実は、楓香が青ざめているのがわかった。
玄人が質問を続けた。
「君は誰なんだい?」
「名前か。とおに忘れてしまった。」
「歳は幾つなんだ?」
「さあ、いつからか数えるのをやめてしまったからな。」
「何処から来たんだ?」
「向こうだ。」
男は、雨の日にやって来た方向を指さした。
「そのずっと前には、何処にいたんだ?」
玄人は、男に質問を続けた。
「ずっと前・・・」
「ずっと、ずっと前」
「人が大勢いた。」
玄人は、男の様子が変わったのに気が付く。
「みんな死んだ。」
「俺が、殺した・・・」
玄人は、はっとした。
(まずい、思い出させてはいけない事を思い出そうとしてるのでは。)
「お父さん」
後ろから夏実の声がする。後ろを振り向いた。
夏実は、玄人の顔がひきつったようになってるのに気が付いた。
その時、一羽の燕が後ろから飛んで来て夏実の顔の横をすり抜けた。
燕は、男に向かい、その顔をつついた。男はのけ反り、手で燕を払おうとする。燕は、男に纏わりつき、しきりに攻撃している。
三人は、唖然としてその光景を見ていた。
すると、男は顔の前で羽ばたいた燕を一瞬のうちに鷲掴みにしてしまった。そして、食おうとして口を大きく開けた。
三人は、あっと息を飲む。
その時、男は上げた顔の前にある梁を見て動きが止めた。
そこには、男を見ているヤモリが貼り付いていた。
だが、家の人に何か悪さをすると言う事はなく、ただ立っているだけなのだ。
通報があって警官が来ることもあったが、その時は姿を消している。自らの危険を察知する能力が非常に高い。
そして、近所の人達も気持ち悪がり、富貴家に近づく人は居なくなっていった。
男が門に居着いてから3日目に、夏実は父を富貴家に連れて来た。勝淞寺の僧侶、玄人である。
そして、富貴家の裏口から出て来た楓香と三人で少し離れた所から男を見た。
すると、黒い物が二匹、門から宙をすーっと飛んで出て行くものがいる。この前見た物と同じだ。
「あれは、燕だわ。」夏実が言う。
そして、よく見ると門の屋根の梁の上に燕の巣がある。
雄と雌のつがいの燕が巣を作っていた。
「今年も燕が来てるのね。」
楓香は夏実達に、毎年門の梁に燕が巣を作っている事を教えた。
しかし、今年は男がいるのでフンよけの養生が出来ない。
三人は男に近づき、玄人が話しかけた。その少し離れて後ろで、夏実は怖がる楓香の肩を抱いて立っている。
「ちょっといいかな。」
「貴殿は何ぞ?」
「わたしは、富貴さんちの親戚の者だよ。」
「君はどうして富貴さんの家の門に居座っているんだ?」
「私の棲み家だからここにいるのだ。」
「私は自分の棲家がなく、ずっとさ迷っていた。しかし、ここの持ち主からここを譲り受けて初めて自分の家を持てた。」
「いや、ここは富貴さんの所有物だろう。」
「確かに、ここの持ち主からここは私の物だと聞いた。」
「それは、君にあげると言う意味ではなくて一時的に雨宿りしてもいいと言う意味だろう。」
「違う、持ち主からあげると言われたからもう私の物だ。私はここにずっと住む。」
玄人の後ろで聞いていた夏実は、楓香が青ざめているのがわかった。
玄人が質問を続けた。
「君は誰なんだい?」
「名前か。とおに忘れてしまった。」
「歳は幾つなんだ?」
「さあ、いつからか数えるのをやめてしまったからな。」
「何処から来たんだ?」
「向こうだ。」
男は、雨の日にやって来た方向を指さした。
「そのずっと前には、何処にいたんだ?」
玄人は、男に質問を続けた。
「ずっと前・・・」
「ずっと、ずっと前」
「人が大勢いた。」
玄人は、男の様子が変わったのに気が付く。
「みんな死んだ。」
「俺が、殺した・・・」
玄人は、はっとした。
(まずい、思い出させてはいけない事を思い出そうとしてるのでは。)
「お父さん」
後ろから夏実の声がする。後ろを振り向いた。
夏実は、玄人の顔がひきつったようになってるのに気が付いた。
その時、一羽の燕が後ろから飛んで来て夏実の顔の横をすり抜けた。
燕は、男に向かい、その顔をつついた。男はのけ反り、手で燕を払おうとする。燕は、男に纏わりつき、しきりに攻撃している。
三人は、唖然としてその光景を見ていた。
すると、男は顔の前で羽ばたいた燕を一瞬のうちに鷲掴みにしてしまった。そして、食おうとして口を大きく開けた。
三人は、あっと息を飲む。
その時、男は上げた顔の前にある梁を見て動きが止めた。
そこには、男を見ているヤモリが貼り付いていた。
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