つつ(憑憑)

九文里

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童士と真理子

雪鬼

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 平安時代の中頃、西暦で1000年位の時、とある貴族の雑仕女に雪葉ゆきはと言う名前の女がいた。
 無位無官の地下人の娘であるが、たいへん美しい娘であった。
 そのため、男達がちやほやするものだから他の雑仕女、女房から男好きなどと嫌味を言われるだけでなく、苛められもしていた。
 宮中でも広くその美しい女の話は広がっていたのだが、身分が低いため側室にしようとする者はいなかった。
 しかし、藤原某と言う女遊びで有名な貴族の男が雪葉に手を付けたのだ。
 この貴人はすっかり雪葉にのめり込んでしまい、側室にすると言って彼女の為に屋敷を与えて住まわせた。
 しかし、雪葉はなかなか側室にしてもらえず、その内子供ができた。子の名前は定丸とした。

 藤原某の正室は、宮中でも力の強い御堂殿みどうどのである。
 藤原某が宮中で地位を保っていられるのは、正室の実家の後ろ楯のおかげであった。
 雪葉が側室になれないのは、この正室が許さなかったからだ。
 
 この正室には子供ができなかった。そのため雪葉を妬み憎むようになる。
 
 御堂殿の圧力で遂に藤原某は、雪葉を捨ててしまう。
 雪葉は生活の糧を失い小さな子を抱えて途方にくれた。
 
 しかし、それだけでは済まない。更なる不幸が雪葉を襲う。
 屋敷が火事で全焼してしまったのだ。それは、御堂殿の正室の仕業であった。
 御堂殿は、子供を焼き殺すつもりでいた。

 何とか着の身着のままで逃げた雪葉親子は、親戚を頼って粗末な小屋に身を隠した。
 なんとしても子供を守りたい。
藤原某を恨み、御堂殿を怨んで、
貧しい隠れ家生活に耐えていた。

 そんな生活が数年続いたが、遂に御堂殿に見つかってしまう。
 雪葉が近くの畑を手伝いに行っている間に、御堂殿の手の者5人が小屋に押し入って子供を拉致した。
 雪葉が帰って来た時、目の前を5人の男が馬で走り去って行く。
そして、その中の一際偉丈夫な男が、脇にぐったりした定丸を抱えていた。
 
 雪葉は、荷物を放り出して走って追いかけた。
 しかし、馬の足に追いつけるはずがなく、みるみる離されて行く。
 男達は、真っ直ぐに鳥辺野に向かっていた。葬送の地である。飢餓で死んだ死体が放置されている。その中に入れてしまえば誰も気にしなくなる。

 雪葉は、半狂乱になり走った。
 草鞋が破れ足の裏から血が吹き出しても構わず走った。
 そのうち腕も地を掻いて四つん這いとなり、獣の様に走った。
 遂には、形相が鬼となり空気を切り裂く様に飛んだ。
 果たして、九条の橋で馬に追いつき、馬上の男に飛び付き鋭い爪で心臓を貫いた。
 そして、その前に走る馬に閃光の様に飛び移り、男の首を噛み切った。
 異変に気が付き暴れた馬から男が落ちた。その男の上に飛び乗って頭を踏み潰した。
 一瞬の出来事だった。

 前を走る二人の男は、何が起こったのかと馬を止めて振り向いた。
 鬼がいる。
 背格好から見て、雪葉が鬼に変化したのが分かった。

 手前の男が刀を抜いて身構える。馬は異様な雰囲気に興奮して落ち着きがない。
 奥の男は、片腕で定丸を抱え、片腕で馬を御している。
 
 鬼が手前の男に飛び掛かろうとした時、橋の向こうから馬を駆って一人の男が走ってきて、鬼の前に立ち塞がった。
 この男は、刀を抜いて鬼を見下ろした。
 

「御前は、渡辺様」
 背後で刀を持っている男が、鬼の前に立ち塞がる男に言った。

 駆けつけた男は、渡辺綱。酒呑童子、茨城童子の鬼退治をしたことを知らぬ者はいない。

「知った顔がいる。御堂殿の手の者か」
 渡辺綱が周りの惨状を見て、振り返り言った。

「その子供はどうしたのだ?」
 奥で子供を脇に抱えている男に聞いた。

「こ、これは」
 男が言い淀んでいると、定丸が目を覚ました。
 
「母上」
 定丸が叫ぶ。

 その瞬間、綱は状況を理解した。それと同時に鬼が飛び掛かって来た。綱は、「往生したまえ」と発すると鬼の首を切り落とした。
 
 定丸は、目を見開いて声にならない叫びをあげた。
 鬼の首は飛んで、定丸を抱えている偉丈夫の肩に噛みついた。
 男は、悲鳴をあげると定丸を離した。
 定丸はそのまま走り出し、綱を睨み「母を殺した恨みを忘れぬぞ」と言い放って、獣の様に四つん這いで走り去った。
 その目は血走り、既に鬼と化していた。


 後に鬼と化した雪葉は雪鬼と呼ばれる。
 定丸の消息はわからず、しかしその子孫は続いていき綱の子孫を苦しめる事になる。
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