つつ(憑憑)

九文里

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冬の雀

渡辺夕(わたなべのせき)

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 その姿は、12、3歳ぐらいの少年で、青い振り袖のある変わった服を着ている。水干である。袴を着け、頭の後ろで一つに括った髪は、宙を舞っている。
 まるで、絵巻物で見る弁慶と戦う牛若丸のようだ。
 この少年が鬼の腕を切ったのだ。
 
おどろなむぢの作りし結界はここまでだ。ここから先はわれが相手する」

 少年が一喝した。

 鬼は、橋から出る事はなく切られた腕をもう片方の手で掴み上げると「畜生、またなむか!」と言って橋を戻っていった。

 鬼が戻って行ったのを見てほっとした真理子は、青い水干姿の少年を見上げた。
 
「小娘。よくやった」

 その少年は真理子を見下ろし微笑んで言った。

「誰?」

 真理子が尋ねると、少年は答えた。

渡辺夕わたなべのせき

 そして少年は姿を消して、そこには童士が立っていた。

「あっ、童士君。あの人は、誰なの?」

 真理子は立ち上がって童士に尋ねた。

「彼です。昔、川に落とされた僕を受けとめてくれたのは」
「あの男の子も彼でしょう。助けて貰ったのは2回目です」
「彼はおどろと呼んでいたあの鬼とも因縁があるみたいです」

 夕は童士に憑依して出てきた。だが真理子には牛若丸の様なその姿がはっきり見えた。

「ところで、真理子さんは何故あの橋が本物だと分かったんですか?」

「あ、あれね、あの着物の女の子達を後ろから見ていたら、一人だけ帯の結び方が違う子がいたの」
「皆、蝶文庫結びって言う、蝶の羽みたいに左右にひらひらってしてる帯結びをしてたけど、一人だけふくら雀結びって言う、左右に熊の耳みたいのがある、ふっくらした帯結びをしてたのよ」

「あっ、そうか帯の結び方なんだ、何か違う感じがしたのは、帯の結び方はみんな同じだと思ってました」

「ふくら雀って寒い時に羽毛の中に空気を入れてふっくらしてる雀の事よ」

「そうか、それで彼は冬の雀を捕まえろと言ったのですね」

「鬼に悟られないように言ったのね」
「あの鬼は、自分と同じ姿の女の子を出したから他の子も全員蝶文庫結びになってたのよ」
「それで、そのふくら雀の帯の子が渡った橋が本物だと分かったわけ」

「なるほど、凄いです真理子さん」

「だけど、あのふくら雀の女の子は何処から来たんだろう?」

 そう真理子に言われて、童士ははっとして、胸を押さえた。
 さっき迷子の男の子に貰った折り紙のやっこがなくなっている。

「ああ、ふくら雀の女の子は彼に貰った奴ですね」

渡辺夕わたなべのせきね」

「そうですね」

 気がつくともう空が赤く染まってきていた。
 川の方を見るとあんなに沢山あった橋はポツポツと点在しているだけになっている。
 川の高さも、さっきまであった高さではなくなって、もっと低くなっていた。さき程までの恐ろしい感じは無くなっていた。
 川の向こうも普段通りの穏やかな景色に戻っている。

「真理子さん、すいませんでした。僕の問題に巻き込んでしまって」

 童士が真理子に告げると、真理子はニッコリ笑って言うのだった。

「童士君と居ると飽きないわ」

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