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〜第2話〜『うさ耳メイドと気まずくなってしまった』
しおりを挟む翌朝になり、前日に頭を抱えたまま寝てしまっていた事に気がついた。
立ち上がり体を伸ばしていると、部屋の扉が開いた。
「おはようございます、カケル…」
「お、おはようございます…」
昨日の事があったせいか、初日からぎこちない二人。
それもそうだ、急に異世界に召喚されたと思ったら見た目はうさ耳が生え、前世よりもイケメンになった上にいきなり当主に婚約者として先輩となるうさ耳メイドを紹介されたのだ、似たような事を彼女も思っているだろう。
「あの…マリシャスさん…」
「コンよ…」
「え?」
「コンでいいわ…当主様のお言付けだから、ここで働いてる間は【それっぽく】振舞いなさい。私としては貴方の様な人と結婚するなんて考えたくもないわ」
素っ気なくあしらううさ耳メイドのコン・マリシャス。
「そうですよね…すいません…」
「そんな事より早く着替えて、お嬢様のお世話の時間よ、貴方にはさっさと仕事を覚えて私から離れてもらうから」
「あ、はい!すぐに!」
昨日初めて会った時とは全く逆の扱いをされここでもまた困惑してしまうカケルだが、考えている暇は無かった。
支度が終わり、お嬢様の部屋の前まで来た。扉をノックしようとしたら話し声が聞こえてきて、止まってしまった。
「コンちゃんは、あの人と結婚するのですよね?お祝いしなくてはいけませんね、うふふ」
「お嬢様!お止めください、グレイシア家に仕える者同士で結婚するなど、ありえない事です!」
「ふふ、そんな事言って、昨日喜んでいたじゃない」
「あれは…!お嬢様のお世話がかりが増えて喜んでいただけです!私一人でお嬢様お二人のお世話は骨が折れます」
「あら、そう?なら、そういう事にして置いてあげますわ」
会話を聞いて扉の前で固まるカケル。
すると扉が突然開き、顔面を扉に強打してしまう。
「いってぇー…」
「あ!ごめんなさい!大丈夫ですかカケル【様】!」
場が静寂に包まれた。しばらくして、メラが言う
「カケル…様?コン、貴方…うふふ、なんでもないわ」
「…あ、貴方ね!扉の前で立ち止まるから…!」
「お、俺は立ち止まってない!ノックしようとしたらあなたが急に扉を開けたんじゃないですか!」
「黙りなさい!先輩の私に逆らう気?」
「くっ…いいです!俺は自室に戻ります!」
「あ、待ちなさい!貴方は執事としての仕事が…!全く…」
執事として初日の仕事は、何も無く終わった。
と思っていたが、自室に戻る途中でモモに呼ばれ、モモの部屋へと向かう。
「モモお嬢様、失礼します」
声をかけ部屋に入ると、モモがベッドに座っていた。
「お呼びでしょうか」
「ええ、着替えたいの」
「え、着替えですか…」
「着替えよ、早くしてちょうだい」
「…今他のメイドを呼んで…」
食い気味にモモが言う
「他もメイドは朝食の支度やお姉様の支度で出払ってるわ」
「えぇ…」
「お世話がかりの召使は貴方しか手が空いてる者が居ないのよ、だからほら、早く着替えさせてちょうだい」
「ですが、知っての通り俺はここに来たばかりで、どこに何があるか…」
戸惑っていると、そこにコンがやってきた。
「お待たせしましたモモお嬢様…って、なんで貴方がここにいるの!?」
「私が呼んだのよ、他に手が空いてる者が居なかったので」
「そういう事でしたか、失礼いたしました、さ、貴方は1度部屋から出てもらえる?お嬢様のお着替えが終わるまで、メイド以外が部屋に入らないように外で待機してなさい」
「はい、わかりました」
部屋を出ると同時に数人のメイドがやってきた。どの手には綺麗なドレスや装飾品があった。
しばらくして、コンが部屋から出てきた。
「ここからは貴方にも手伝ってもらうから、部屋に入って」
「はい、俺は何をすれば…?」
「お嬢様の遊び相手よ」
「え、遊び相手?って言っても、具体的には何すれば…」
「それはお嬢様に聞いて、お嬢様が何をしたいのか、それを把握するのも執事の仕事よ」
「はぁ…」
「それじゃ、後は任せるわね」
「え、一緒に居てくれないんですか?」
「え?」
「いや、だって何も分からない状態じゃ、お嬢様に失礼があるかもだし…」
「そこは自分で考えなさい!」
「はぁ…(朝から思ってたけど、昨日よりかなり冷たいな…結婚しろって言われたこと気にしてるのかな…それに、今朝のメラお嬢様との会話…)」
カケルは色々考えつつも、部屋へと入り、モモが満足するまで遊び相手になった。
遊びと言っても、その辺の子供の様にママゴトや人形遊びというわけではなく、彫刻やデッサン、縫い物など、とても中学生くらいの年齢とは思えない物が遊びとなっていた。
執事のカケルは、モモが移動する度に必要な道具を運ぶだけだった。
「(これが執事の仕事か…確かにメイドにやらせる様な仕事ではないな…)」
「さて、今日はこれくらいにしようかしら」
「え、もうよろしいのですか?」
「えぇ、だって貴方がどの程度まで付いて来れるかを確かめたかっただけですもの」
「え、それってどういう…」
「ふふ、コンの事、宜しくお願いしますね」
「…はい?」
昨日の当主の言葉を思い出した。
『コンといずれは結婚してもらう』
あれはどういう意味なのか、未だに分からずにいた。
冗談なのかも本気なのかも。
カケルは、その後の会話も思い出していた。
『当主様!お待ちください!なぜいきなりその様な事を!?』
『そ、そうですよ、俺も来たばかりでよくわからないのに、なぜですか!』
『ふむ…では順を追って話そう…実はな、カケル、君をこの世に召喚したのも、コンがここに居るのも、偶然では無いのだ。』
『え…どういう事ですか』
『…コンよ、お前の幼少期の頃の記憶はあるか?』
『それはもちろん!幼い頃は母と父と一緒に公園に…こう…えん…?』
『そうだ、私達の世界に、【公園】という物は存在しない。しかしカケル、君なら聞いた事があるだろう。』
『はい…向こうの世界で仕事へ向かう時に、いつも通っていました…え、まさか…』
『君は勘がいいな、そう、このコンも、召喚されたのだ。』
事情を初めて知った、メイドと執事がざわつく。
『そんな…私は…召喚者…なのですか…』
『うむ、正確には、私たちが呼んだのでは無いがな』
『…呼んだわけでは無いのに、なぜこちらの世界に?』
『私達も初めは疑問と恐怖で頭の中がいっぱいだった…しかし、我が家にいる魔術に詳しい者の話では、彼女は【転生者】と呼ばれるらしい。』
『転生者…はっ!だから俺も、本来なら死ぬはずなのにこちらの世界に?』
『そういう事だ、しかしあちらの世界では君達二人は死んでいる。魂だけをこちらの世界に移してな。』
『そんな…』
『彼女の場合、こちらに来た時には前世の幼少期以外の記憶をなくしていた。本来であるならば、この様な打ち明け方はしたくなかったが、やむおえん。』
その場でコンは泣き崩れた。今まで信じてきた物も、教えられた過去も、全てが偽物だったのだ。
『すまぬな、コンよ…こちらとしても、この敷地内に召喚された、身分の分からぬ者を外へ出す訳にはいかなかったのだ…』
『…なぜ、今回は俺が呼ばれたのでしょうか』
『その事についてなのだが…話せば長くなるが、まずはコンに聞いてもらいたい事だある。正直な事を言うと、コンをいつまでもここに置いていく訳にも行かなくてな…』
『…!?』
当主の言葉を聞いた泣きながらコンが叫ぶ。
『何故なのですか‼︎‼︎‼︎私はあなた方に尽くして来たでは無いですか‼︎なのに…なぜ…』
『だからこそなのだ…お前をこれ以上、私達の嘘に付き合わせる訳にもいくまい。』
当主が優しくコンに問いかける。
『コンよ、お前がここに来た時の事、覚えているか?』
コンは涙を拭い、話始めた。
『…はい、あの日私は、目を覚ましたらあそこの木の下にいました。なぜここに居るのか、どうやって来たのかも分からりませんでした…ただ、幼少期の事だけははっきりと覚えていました。そして、どうずればいいか分からずに泣いていたところを当主様の護衛達に保護されました。
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そして気がつけば3年の月日が流れ、私はメイドの長に任命されました。その後も一切妥協などせず、しっかりと仕事をこなしていきました。ここまでが数ヶ月前の話です。
ある日、当主様と護衛が地下室に行くのを見かけてこっそりつけて行った事があるのです…そこで、異世界から執事として人を召喚するという話を耳にしました。それから数日後に、貴方がここに召喚されたのです』
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