晴れ男

晴れ男の誕生

ある昼さがり、男は砂浜で、波がよったり、離れたりの繰り返しをぼんやりと眺めていた。
太陽は、男の体に満足に光を浴びせた。風が少しなびいた。海の青に負けない青空が広がっていた・
男はすっかり夢心地になり、そして、目を閉じて、眠ってしまった。
夢の世界に沈んでしまった、男が見る夢は、この日、いつも見るような美人の女たちを取り囲ませる
夢とか、たらふく世界各地のエキゾチックな料理が出てくる夢とは一味も二味も違った。
男は啓示を受けたのだ。それも、母親でも、昔の恩師でも旧友からでもなかった。
それは、太陽からだった。目も合わせることの憚られるほどプリズムに光っている太陽がこう男に
啓示した。我を見つめよと。我を見つめよと。
男は、まるで、宇宙のように広く、深い深い青が広がっている世界で太陽にこう尋ねた。
（なぜ私があなたを見つめなければならないのですか。）と。
考えてみれば当たり前のことだ。なぜ男は太陽を見つめなければならないのかと。それが、いくら
夢であってもそうやって疑問に思うことは当然のことだった。

男が太陽に聞いてしばらくの時間がたっても、太陽はしばらくの間だんまりを貫いた。
男は不安に思った。自分が太陽の気分を害することを聞いてしまったのかと。
男は必死に平穏を装うなかで、自らのそんなに鋭敏なわけでもない頭のエンジンをフル回転させ、
どうやってこの状況を切り抜けるのか、どうやったらこの状況を気まずさもなしに切り抜けるのかを
男は必死に考えた。そして、男は一つの名案を思いついたのである。
その名案とは男が月になり切ることであった。地球人にとっては、月は太陽の永遠の伴侶である。
そして、男はたちまち、服を脱ぎ、靴下を脱ぎ、眉毛を抜き、髪の毛も抜き、己の体が少しでも太陽の光を
白い肌で反射するように努めた。男は陰毛さえも抜き、男は団子状になって体を丸めた。
すると、たちまち太陽は笑いをこらえなくなり、プリズムの光をキラキラと光らせた。
そして、太陽は上機嫌となり、次のように答えた。
（我を眺める理由を知りたいのか。人間よ。お前が私を眺めなければならない理由を私が説明することが
できるだろうか。いや、できない。お前には理解が出来ないだろう。しかし、これだけは約束する。
もしもお前が私を眺め続けていれば私は、お前に最大限の恩寵をもたらすだろう。お前の夢がかなうのだと。
そうやって、太陽は言った。男は理解はしたが、納得はほとんどしなかった。
そしてまた男が納得せずにいると男は深いまどろみの中から覚めてしまった。
男は夢から覚めたのだ。
しかし、男の夢は、現実に質量をもって現れた....
なんと太陽がプリズムに光っていたのだ。