転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第三章「狂宴の幕開け」

第二十三話「運命を託す者、託された者」

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(イケメン……です……わ)

貴族育ちであるリリアナの周りには顔立ちの整った者は沢山いた。
しかし、そんなリリアナを持ってしても、彼の顔立ち、立ち振る舞い、その全てが洗礼されていた。

「……どうして私の名を?」

「この街であなたを知らない者はいないでしょう。『令嬢冒険者』リリアナ・フォン・エルフェルト──その名は、既に多くの冒険者たちの間で囁かれていますから」

「……そうですの」

(それにしても、どこかで会ったことがあるような気がするのは気のせいかしら……?)

 しかし、いくら記憶を探っても、このような美貌の青年に会った記憶はなかった。いや、会っていれば絶対に忘れるはずがない──

「それで、私に何か用があるのですか?」

「いえ、特に用があるわけではありません。ただ、少し困っているように見えたので、声をかけただけです」

「……人の背後を取っておいて、ただの通りすがりというのは、少し無理がありますわ」

「ははっ、それは失礼しました。ですが、悪意はありません。本当ですよ」

 ユウと名乗る青年はリリアナに微笑んだ。その笑顔は、どこまでも穏やかで、だがどこか掴みきれない不思議なものだった。

「ですが……あなた、ただの通りすがりではありませんわね」

「どうしてそう思うのですか?」

「気配もなくこの私が背後を取られた。それも昨夜の男のような”まやかし”ではなく、ただの歩行で。それだけで、あなたが只者ではないと分かりますわ」

 ユウは驚くでもなく、ただ目を細めた。

「さすがは令嬢冒険者……いえ、これは本当に失礼しましたね」

「……それで?あなたの正体は?」

「それは……明かせません。申し訳ありませんが、どうかご理解を」

 その答えに、私はさらに眉を寄せた。

「ならば、どうして私に声をかけたのですか?」

「あなたが悩んでいるように見えたからです」

「……」

「この街のことは心配しなくてもいい。少なくとも、あなたが不在の間に何かが起こることはないでしょう」

「それは……どういう意味ですの?」

「言葉通りの意味です。今はそれだけお伝えしておきます。あとは──あなたの決断次第です」

(……何を言っているのかしら、この人は)

「あなたが信じるかどうかは自由です。ただ、僕はあなたに後悔してほしくないだけですよ」

「後悔……?」

「はい。人は、守りたいものを守れなかった時、最も深い後悔を抱くものですから」

「……!」

 その言葉が、胸に突き刺さる。

「それでは、これで──」

「待って!」

 思わず声を上げると、ユウは立ち止まった。

「……本当に、この街に危険は訪れないのですか?」

「ええ、

「……」

(この人は、一体……?)

「さて、僕はもう行きます。あなたの決断を信じていますよ、リリアナ・フォン・エルフェルトお嬢様」

 そう告げると、ユウは再び歩き出した。

私は考える。これからの事、目の前にいる怪しさ満載で、けれど悪意を全く感じない男の事を。

(……信じてみてもいいのかしら)

「ちょっとお待ちをっ!あなたは一体──」

 顔を上げた瞬間、彼の姿はすでに街角の向こうへと消えていた。

「……」

 冷たい風が吹き抜け、髪を揺らす。

「本当に信じても……いいのでしょうか……」

 心の奥で、何かが少しだけ軽くなったような気がした。

(もし……もし本当に彼の言う通り、この街に危険が訪れないのなら……私は──)

ユウと名乗る者からは驚くほどに悪意を感じなかった。信じてもいいと、思わせる目をしていた。

 「……決めましたわ」

 そう、小さく呟くと、私はギルドの宿へと歩き出した。

(待っていてくださいませ、ミレーヌ……私が必ず、アスフィという方を見つけ出し、多少強引にでも連れてきますわ!)

---

 ギルドの宿に戻った私は、まずミレーヌの部屋へと足を運んだ。

 扉を開けると、静寂の中に微かな呼吸の音だけが響いていた。部屋には夜明けの薄明かりが差し込み、白いシーツの上に横たわる彼女の姿を静かに照らしていた。

「ミレーヌ……」

 私はベッドの傍に膝をつき、その手をそっと握りしめる。ミレーヌの小さな手はまだ温かかったが、その肌はどこか力なく、まるで目を覚ますことを拒んでいるようにも感じられた。

「必ず、貴女を助けてみせますわ」

 その言葉は、自分自身に向けた誓いでもあった。

(もう二度と……もう二度と、誰も失いたくありませんわ)

 心臓の奥から湧き上がる感情に胸が詰まり、思わず目を閉じる。だが、涙を流すわけにはいかなかった。今は、ただ前を向いて進むだけだ。

---

 私は部屋を出ると、自室へと向かった。

 重厚な木製の戸を開けると、目に飛び込んできたのは、これまでの戦いを共にした装備の数々だった。壁に掛けられた防具、棚に置かれたポーション、そして新たな相棒──《焔銀の剣》が光を反射して輝いていた。

(出発までに、万全の準備を整えませんと……)

 私はまず鞄を取り出し、必要なものを手早く詰めていった。最低限の衣類、食料、ポーション、そして金貨が入った革袋。それらを詰める手に迷いはなかったが、一瞬だけ指が止まった。

 ──それは、エルフェルト家に代々伝わる剣の鞘だった。

(私は……もう、この剣には頼りませんわ)

 かつての相棒に心の中で礼を告げ、私は再び焔銀の剣の柄を撫でた。

(今度こそ、この剣と共に……必ずやり遂げますわ)

---

 荷物を整え終えると、私は窓の外を見やった。

 街はまだ朝霧に包まれており、遠くの鐘楼がゆっくりと朝の訪れを告げていた。だが、その静けさの中にも、心の奥に小さな不安が残っていた。

(本当にこれでいいのですの……?)

 胸の奥で再び葛藤が湧き上がる。

 もし私がこの街を離れている間に、再び"カゲロウ"の刺客が現れたら──

「でも……っ!」

 迷いを振り払うように、私は拳を握りしめた。

(今動かなければ、ミレーヌはこのまま目を覚まさない……それに、ユウが言っていましたわ。この街のことは心配しなくていいと。ならば、私は彼を信じるしかありませんわね)

 最後の準備として、私は装備を身に付けた。

 黒の冒険者用コートを羽織り、腰には焔銀の剣。ブーツを履き、革製の手袋を嵌めると、心の奥から戦いへの覚悟が湧き上がってくるのを感じた。もはや令嬢の面影は微塵も感じられない。

(これで準備は整いましたわ。あとは……)

 私はもう一度、ミレーヌの部屋へと向かった。

 部屋に入ると、彼女は変わらず静かに眠っていた。

「ミレーヌ……行ってまいりますわ。必ず、貴女を助けて戻りますので……」

 その額にそっと唇を触れさせ、私は立ち上がった。

 宿の階段を下り、玄関の扉に手をかけたその時──

「──リリアナ様、どちらへ?」

 振り向くと、そこには受付でお馴染みのお姉さんシエラが立っていた。心配そうな眼差しが、私の胸に僅かな迷いを再び呼び起こす。

「……少し、用事があって」

「もしかして、アスフィとやらを探しに行かれるのですか?」

「どうしてそれを……?」

「リリアナ様のことですから、そうするだろうと思っていました。いるかも分からない人物を探しにどうしてそこまで……」

「ミレーヌは……私専属メイドであり、仲間ですから」

シエラは黙った。そして決意した顔を見せ──

「どうかお気をつけて。今の街は、この国は……リリアナ様の言葉が本当なら、正直安全とは言えません。ですからリリアナ様もどうかお気をつけて」

「……ありがとうございます。ですが、この国については大丈夫です。頼もしい紳士な方に託してきましたので」

 そう言うと、私は再び扉に手をかけた。

「では、行ってきます……あ、言い忘れてましたわ。お姉さん。貴方、エルフェルト家に仕えるものでしたの?」

「……え?」

「いえ、なんでもありませんわ。お気になさらず。では行ってきます」

 扉を開けると、朝の光が顔を照らした。

「……行ってらっしゃいませ、

シエラは静かにリリアナを見送った。

---

 街の門までの道を歩きながら、私は心の中で再び自分に言い聞かせる。

(これでいいのですわ……私が行かなくては、ミレーヌは助からない)

 やがて、街の門が見えてきた。

 鉄製の門扉は朝陽に照らされ、柔らかな光を反射していた。門の向こうには、これまでの依頼とはまた違った世界が待っている。

「……行きますわ」

 その一歩を踏み出した瞬間、胸の奥に決意の炎が灯った。

(ミレーヌ、待っていてくださいませ。必ず、必ずあなたを助けて戻りますので──)

リリアナは国を出る。大切な者を取り戻すために。

---

「……それでいい。リリアナ・フォン・エルフェルト。君ならきっと友を救える。僕は君を信じているよ。──いつか、共に戦うその日まで」

 青年は朝陽の中で静かに微笑み、リリアナの背を見送った。  

 そして──  

「ふぅ……早速現れたか。全く、彼女も大変だね。これだけの男たちに命を狙われ続けるなんて、さすがの僕も同情するよ」  

 柔らかな声とは裏腹に、その金色の瞳には鋭い光が宿っていた。  

「でも……それも、彼女が背負う運命の一部か。さて、僕も預かった役目を果たすとしよう。せめて、この街の影は僕が狩り尽くしてみせるさ」

 白い衣を翻し、銀髪の青年は街の光と影の境界へと歩み出した。  

 ──その名を知る者は少ない。だが、彼こそがこの世界の希望と呼ばれる存在。  
 そして今、誰も知らぬところで、人知れず戦いの幕を開けるのだった。  

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