転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第五章 「王国継承戦編」

第四十三話「『リガリア王国』」

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 ──人の別れには、いくつもの形がある。  
 突然の別れ、穏やかな別れ、感謝を込めた別れ、惜しみながらの別れ……。  

 どれも、終わりと始まりの境界にあるもの。  

 そして今、私と彼の間にも、一つの別れが訪れようとしていた。  

「では、僕もこれで失礼します、お嬢様」  

 ユウが静かに告げる。  
 まるで何も特別なことではない、日常の挨拶のように。  

 だけど、違う。  

 今ここで彼と別れたら、次に会うのはいつになるか分からない。  
 それが分かるからこそ──私は、ずっと気になっていたことを聞くことにした。  

「ねぇ、ずっと気になっていたんだけど、ユウはなんでわたしの事”お嬢様”って呼ぶの?」  

 ずっと引っかかっていた疑問。  
 いや、疑問というよりも、期待だったのかもしれない。  
 もしかして、私は彼にとって特別なのではないか?──そんな、淡い期待。  

 今しかない。この瞬間を逃したら、もう聞くことはない気がしたから。  

「……女性の事はお嬢様と呼べと、”育ての親”からそう言われて育ってきましたから」  

 ユウは微笑みながら、そう言った。  

「あら、そうなの?」  

 心のどこかで"特別"を期待していた自分が、あまりに浅はかだったと苦笑する。  
 だって彼にとって、私は単なる"お嬢様"の一人に過ぎなかったのだから。  

「なんだ、てっきりわたしだけが特別かと思っていたのになぁ、残念」  

 私は冗談めかして笑う。  
 でも、それは少しだけ、名残惜しさを隠すためだったのかもしれない。  

 すると──  

「あはははっ!……本当にお嬢様は素敵な方ですね」  

 ユウが、優しく微笑む。  

「……っ」  

 その笑顔に、一瞬言葉を失う。  
 まるで絵画のように、完璧な微笑み。  
 太陽のような温かさを持ちながらも、どこか儚さを孕んだ笑み。  

 (……本当に王子様みたいだわ、この人)  

 口に出しそうになった言葉を飲み込む。  
 そんなこと、言えるはずがない。  

「では皆様、お元気で」  

「ええ、今までありがとう、助かったわっ!」  

 精一杯の感謝を込める。  
 本当ならもっと伝えたい言葉があったのに、どうしても簡単なものしか出てこなかった。  

「お嬢様を助けて頂きありがとうございました。お嬢様に仕える者として深く感謝申し上げます」  

 ミレーヌが深く頭を下げる。  

 ユウはただ、それを静かに受け止め──  

「僕がしたかった事ですから」  

 それだけを残し、背を向けた。  

 そして、彼は宿を後にした。  

 もう二度と、会えないかもしれない。  
 そんな覚悟を持って、私は彼の背中を見送った。  

 ──それでも。  

 ほんの少しの希望が胸に残ったのは、きっと私の勝手な感傷なのだろう。  

 ──彼の姿が完全に見えなくなってから、私はふと周囲を見渡した。  

 そこに広がっていたのは、もはや"宿"とは呼べない無惨な光景だった。  

 壁は砕け、天井は崩れ、床には焦げ跡と血の染みが散らばっている。  
 まるで戦場の遺跡。  

「やはり、そこから出ていくのね……」  

 瓦礫の隙間から、ユウが去った。それを今は無き扉をぼんやりと見つめながら呟く。  

 だが、この状況では当然のことだった。  

 私はミレーヌと顔を見合わせ、ふっと笑う。  

「……わたし達は階段から降りよっか」  

「そうですね……」  

 二人で肩をすくめる。  

 あまりにも壮絶な一夜を過ごしたというのに、不思議と穏やかな気持ちだった。  
 "終わった"という安堵が、そうさせたのかもしれない。  

「んじゃ、行こっか、ミレーヌ」  

「その前にお嬢様」  

「ん?どうしたの?」  

 階段へと向かいかけた私を、ミレーヌが制止する。  

「せめておおやけの前に出る時は、口調を戻したほうがよろしいかと……」  

「あっ」  

 完全に忘れていた。  

 私はまだ、公爵令嬢リリアナ・フォン・エルフェルト。  
 冒険者とはいえ、その肩書きが消えたわけではないのだった。  

「そうでしたわね……ありがとうですわ、ミレーヌ」  

「何故かぎこちない感じがしますが、でもその方がいいと思います」  

 ──ぎこちないって言われた……。  

 苦笑しながら、私は背筋を伸ばし、改めて階段へ向かう。  

「じゃあ、行こっかっ!ミレーヌ」  

「行くって……どこにでしょう?」  

「アスフィさんを探す……前に、この状態をお姉さんに報告……しないとね」  

「あぁ……なるほど」  

 ギルドの受付嬢に何も言わず、部屋をこの有様にしてしまったのだ。  
 さすがに、それはまずい。  

(お姉さん、怒るかな?……怒るだろうなぁ。もう"部屋が倒壊"なんてレベルじゃないもの)  

 溜息混じりに、ミレーヌと共に階段を下りる。  

 ──そして。  

 ギルドの一階に足を踏み入れた瞬間、異様な空気に気付いた。  

 ギルドの中央。  
 そこに立っている一人の女性。  

「……」  

 圧倒的な"無言の圧力"を放つ、その姿。  

 受付嬢──リリアナが"お姉さん"と呼ぶ彼女だった。  

(何この状況……)  

 周囲の冒険者たちは完全に萎縮し、彼女の様子を伺っていた。  
 そして、その視線の先にいたのは──  

「……貴方達の仕事はなんですか?」  

 低く、抑えた声で問う。  

 しかし、その言葉には"怒り"が含まれていた。  

「……魔獣を狩ること──」  

「違いますっ!」  

 その声がギルド内に響き渡る。  

 思わず、私は背筋を伸ばした。  

「……いえ、違いませんが、それだけじゃありません。この国の治安を守るのも、冒険者の仕事の一つです。貴方達に助けを求めた時、何をしていましたか?」  

(……そういえば、お姉さん、案内した後どこかに行ったと思ったら、一応助けを呼んでくれてたんだ)  

 私は驚きながら、お姉さんの顔を見つめる。  

 しかし、ここにいる冒険者たちは、彼女の助けに応じなかった。  

「俺たちだって行ったさ!」  

「で、帰ってきましたよね?」  

 静かに、しかし鋭く言い返すお姉さん。  

「姉ちゃんよ、あの中の戦闘を見たか?戦闘だけじゃねぇ!化け物みてぇな奴らが集結していたんだよ!?分かるか!?魔獣なんかよりも何倍も怖ぇ……あっああああ化け物だああああああああっ!!!?!?!」  

 突然、冒険者の一人が絶叫する。  

 指を震わせながら、何かを指差す。  

「えっ!?」  

 お姉さんは驚いて振り返る。  

 ──しかし。  

「……え?化け物って私のことを言っていますの?」  

 そこにいたのは、紛れもなく私だった。  

「リリアナ様、ご無事でしたか!」  

 お姉さんが、安堵の表情で駆け寄る。  

「ええ、問題ございませんわ」  

 優雅に微笑み、背筋を正す。  

「はぁ……良かった。本当にご無事で何よりです」  

「あ、ありがとうございますわ、お姉さん。それより何をしていますの?」  

「頼りない冒険者達の皆さんにお説教です」  

「そ、そうですの」  

 私は苦笑しながら頷いた。  

(多分仕方ないと思うけどなぁ……)  

「お嬢様を化け物と言ったのはどなたですか?私、今腹が立っています」  

 ──即座に憤慨するミレーヌ。  

「ミレーヌ抑えて、ね?私は気にしていないから」  

「お嬢様が寛大な方で良かったですね、おじさん」  

「おじ──っ!?」  

 冒険者のおじさんが、顔を真っ赤にする。  

 私は、それを見ながら肩をすくめた。  

 ──こうして、ギルドの宿の一件は終わりを迎えた。  

 ただし、ギルドの宿は改修が必要とのことで、私とミレーヌは街の宿を借りることになったのだった。  

 新たな宿に向かう道中。  

「……お嬢様、私、お嬢様が王位に着くのがいいかと思います」  

「…………はい?」  

 唐突に放たれた言葉に、思わず足を止める。  

「この国の王はもう居ないと、あの執事の方が仰っていました。であれば、リリアナ様が適任だと私は思います」  

「いやよ。わたしは自由がいいもの」  

「お嬢様なら、そう言うかと思っていました。ふふっ」  

 ミレーヌが、くすっと笑う。  

(王、か……)  

 そういえば、この国の名前も、私はまだ知らなかった。  

「ねぇミレーヌ。この国って、なんて名前なの?」  

「え?……えっと、『リガリア王国』ですが、お嬢様、知らなかったのですか?」  

「う、うん……」  

(だって、知る機会なんてなかったし……)  

 ──こうして、私はようやく、自分が滞在している国の名前を知ったのだった。  
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