転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第五章 「王国継承戦編」

第四十五話「王の座を掛けた親剣勝負」

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 ──勝つのも癪、負けるのも癪。

 それが、私に課せられた戦いの条件だった。

 王国最強の騎士レオン・フォン・エルフェルト。私の父。  
 その肩書きに恥じぬ男が、今、私の目の前に立っている。

 場所は王立競技場。  
 観客席には貴族から平民まで、ありとあらゆる身分の者たちが押し寄せ、異様な熱気を帯びていた。

「……まったく、どうしてこうなりましたの?」

 私は溜息をつく。  
 ここにいるのは、私の意志ではない。  
 だが、状況は変えられない。  
 ならば、やるしかない。

「リリアナ、今さら逃げるとは言わんだろうな?」

 目の前の父が、静かに問いかける。  
 その声には、微かな期待と、揺るぎない自信が滲んでいた。

「逃げませんわ。でも、できればやりたくありませんのよ」

(だって勝ちは見えてるし、その上もれなく王様になってしまうんだもの……)

 私がそう答えると、父は満足そうに頷く。

「そうか。ならば、全力で来い」

(……それが一番困るんだけどね)

 私が本気を出せば、勝ってしまう。  
 だが、王国最強の騎士に"完勝"してしまえば、それは父の誇りを傷つけることになる。  
 それに──

(こんなに大勢の前で、あっけなく勝ってしまったら、誰も面白くないよね……)

 観戦者を楽しませ、尚且つ"善戦"しているように見せつつ、最後には"敗者"となる。  
 それが、私に課せられた役割だった。

「──それでは決闘を開始します!」

 審判の宣言と同時に、私と父は剣を構える。

「行くぞ、リリアナ!」

 その瞬間──空気が凍りついた。

 父が放つ"威圧"に、全身の神経が逆立つ。  
 手に握った剣が、ほんの僅かに震える。

(これが、王国最強であり私の父……)

 まるで、戦場に放り出されたかのような感覚。  
 ただ立っているだけで、肌が切り裂かれそうな錯覚を覚えるほどの、圧倒的な"殺気"。  

(……手加減?なんて許される雰囲気じゃないよねこれ)

 私は息を呑み、剣を握り直した。

「……まだまだですわ!」

 余裕を見せるため、笑みを浮かべながら、父との距離を詰める。

(この戦い……"演技"のつもりだった)

 胸の奥に、微かな不安が芽生えるのを感じながら、私は父の剣を迎え撃った──。

 ──瞬間、視界が閃いた。

「ッ……!」

 金属音が響く。  
 父の剣が横薙ぎに振るわれた。  
 単純な斬撃。だが、それを"受ける"という選択肢は、私にはなかった。

(受けられない……!)

 直感が告げる。  
 これは受け止める類の攻撃ではない。  
 受け止めれば、剣ごと両断される。  
 そんな悪寒すら覚える一撃だった。

 私は咄嗟に跳躍する。  
 髪が風に舞う。  
 避けた──そう思った瞬間。

「──遅い」

 静かな声とともに、風が切り裂かれた。

 目の前に"死"があった。  
 私の回避を見透かしたように、父の剣が迫ってくる。  

(しまっ──)

 考えるより先に、体が動いた。  
 私は全身を強引に捻る。  
 紙一重で剣閃を避け、地面へ着地する。

 次の瞬間──

 轟音。

 私がいた場所の石畳が、まるで粘土のように削り取られた。  
 斬られたというより、"消し飛んだ"と表現したほうが適切な光景だ。

(な、なにこれ……!?お、お父様!?本当に娘を殺すつもりじゃないよねっ!?)

 全身に嫌な汗が滲む。  
 たった"一撃"でこれなの?  
 こんなもの、まともに受けたら──いや、受けるまでもなく、即死する。

 観客席がどよめく。  
 貴族たちがざわつき、平民たちが歓声を上げる。  
 まるで、見世物を楽しむかのように。

「どうした、リリアナ。まだ様子見か?」

 父が言葉を投げかける。  
 その顔には、余裕と笑みが浮かんでいる。

「……まだまだですわ! 始まったばかりですもの!」

 私は明るく笑いながら、剣を構えた。

 余裕を見せる。  
 そう、"善戦"しているフリをしなければならない。  

 無理に受けず、うまく躱す。  
 父の斬撃を軽く受け流しながら、攻撃の隙を見せる。

(これなら、それなりの戦いに見えるはず……!)

 観客席の歓声も高まる。  
 よしよし、こうやって適度に盛り上げて──

「──手を抜いているな」

「っ!?」

 父の声音が、一気に冷たくなる。

 いやな汗が、背筋を伝う。

「リリアナ、お前は本気か?」

「も、もちろんですわお父様!」

「嘘だな。お前の動きが、まるで"演技"をしているかのようだった」

(やばい──バレた!?)

 直後、父の気配が一変する。  

「……面白い。ならば、俺も本気を出すとしよう」

 次の瞬間、空気が張り詰めた。  
 今までとは違う。  
 まるで、戦場に降り立った猛将の如き、圧倒的な気配。

(ま、待って、これ以上本気を出されたら──)

 私が絶句する間もなく、父は再び剣を振るった。  

 ──その軌道が、さっきまでとは比べ物にならない程違う。

「っ──!!」

 私は咄嗟に剣を振るい、防御態勢を取る。

 次の瞬間。  

 鉄と鉄がぶつかり合い、衝撃が私の腕を痺れさせる。

「なっ──!?」

 全身が震える。  

(重っ!?)

 受けた瞬間、全身の骨が軋むような感覚。  
 まともに受けていたら、腕が砕けていたかもしれない。

 王国最強の騎士──父、レオン・フォン・エルフェルト。  
 この男は娘を相手に本当に"本気"を出し始めた。

「ほう、防いだか。だが、これで済むと思うなよ」

 父がニヤリと笑う。

 冗談じゃない。

(もう手加減なんて言ってられない!これ以上は本当に死ぬ!!)

 リリアナは奥歯を噛みしめ、スキルを解放した。

「……やむを得ませんわね。お父様、行きますわよ」

 ここからが、本当の勝負だ──。
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