転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第五章 「王国継承戦編」

第四十六話「本気の茶番」

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──空気が震えた。

 父の剣が閃く。  
 それに応じるように、私も剣を振るう。

 ──刹那、衝撃。  

 光と音が弾け、剣と剣が激突する。  
 観客席の歓声が割れる。  
 私と父の間に巻き起こる風が、競技場全体を吹き抜ける。

(……これは善戦とか言ってられない!)

 勝つつもりはない。しかし、少しばかり本気を出さなければ、このままでは王になるならない以前に私自身が死んでしまう。

それに私の父がこんな強いなんて正直思っていなかった。
流石は剣の家系。正直、アルフォードよりも強い気がする。
……いや、確実に強い。

 だが、この戦いを"本物"にしなければ、観客を満足させることはできない。  
 だから、私は"やむを得ず"スキルを解放した。

「ほう……ついに本気を出すか」

 父が嬉しそうに目を細める。  
 まるで狩人が獲物を見つけたかのような、危険な目つき。

 だが、私もこのままでは引けない。  
 いや、引けば殺される。

「……お父様、全力で行きますわよ」

 そう告げた瞬間、私は全力で駆け出した。

 「──スキル《剣聖》、《武神》」

 私は素早く動く。  
 通常の私ならば到底できない、神速の踏み込み。スキル様様のチート。  
 このスキルを解放した今なら、父の攻撃を受けず、すべて"いなす"ことができる。

ついでに筋力を上げる《武神》も発動しておいた。

万が一のことがあってはならないからだ。

 私は跳ぶ。  
 剣を滑らせる。  
 音もなく、刃を交差させる。

 しかし──

「甘いな、娘よ」

 父が、まるで読み切っていたかのように剣を振るう。  
 光と衝撃がぶつかり、私は空中で体勢を崩した。

(っ……!?スキルを二つも使ったのに読まれた!?)

・《剣聖》
 効果: 視界と反応速度が飛躍的に向上し、敵の動きがスローモーションのように見える。また、剣技の精度が格段に上昇し、最適な攻撃方法を無意識に選択できる。

・《武神》
 効果: 一定時間、筋力と身体能力を大幅に強化し、通常では不可能な攻撃や防御が可能になる。跳躍力や速度も向上するが、使用後は体に負担が残る。

まさにチート。剣聖に至っては、剣を握ったことがない者でも、歴戦の冒険者の如く戦える。そんなスキルを二つのも使っている私の攻撃を読まれた。

 まるで未来を見ているかのような動き。  
 私の全てを理解したかのような、完璧なカウンター。

 これが、王国最強の実力──。

「リリアナ、お前の動きは見切った」

 次の瞬間、視界が逆さまになった。

「──ッ!!?」

 体が宙を舞う。  
 地面が迫る。  
 避けられない。

 激突。  

 轟音とともに、私は石畳へと叩きつけられた。

 全身が悲鳴を上げる。  
 呼吸ができない。  
 肺に走る衝撃。  
 喉が詰まり、視界が歪む。

(ぐ……くっ……!)

 それでも、私は剣を手放さなかった。

「……ふむ。まだ立てるか」

 父の足音が近づく。  
 私は震える膝を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。

(負けるわけにはいかない……でも──)

 勝つわけにもいかない。

 だから私は、最後の"舞台"を作る。  
 ここで、私が"敗北"するための最善の手を。

「……これで、最後にしましょう」

 私は、相棒である焔銀の剣を構えた。

 そして──  
 この決闘の"幕引き"が始まる。

──最後の一撃。

 私の剣はそれでも赤く染まらない。

(何故……?《影狼》ガルス・クロウリーの時は染まったというのに……!)

魔力を帯びることで赤く染まるという私の相棒は、期待に応えてくれない。
  
 父は静かに頷いた。

「……いいだろう。お前の全力、見せてもらおう」

 父の剣が、重く、ゆっくりと振り上げられる。  
 王国最強の騎士、その名にふさわしい構え。  
 それはまるで、戦場で千の兵を屠る剣士のごとき威圧を放っていた。

そんな父の姿を見て私は唾を飲む。

(……ここで、私は"負ける")

 だが、ただ負けるのではない。  
 観客が納得し、興奮し、そして"惜しかった"と思わせる負け方をしなければならない。

 私は、一歩、踏み込む。

 剣がうなる。  
 音が消える。

 一閃。

 私の剣が、父の剣とぶつかる。

 轟音。

 衝撃波が競技場を包み、観客席にまで揺れが伝わる。

(ここから……!)

 私は剣を押し込み、全身の力を込める。  
 だが──

「甘い!」

 瞬間、父の剣が軌道を変えた。

「っ──!?」

 視界が弾ける。  
 衝撃が腕を貫き、私は吹き飛ばされた。

「──く……がはっ」

 背中が地面を滑る。  
 肺が圧迫され、呼吸が詰まる。

(今の一撃、もう一度でも受けたら……!)

 いや、もう"受けて"しまっている。  
 私の剣は、父の一撃を受け流すことなく、はじき飛ばされたのだ。

 体が思うように動かない。足に力が入らない。  
 立ち上がるのもやっと。

(……これで、終わり)

 私は、剣を手放す。

「──勝負あり!」

 審判の声が響き、競技場が歓声で満たされた。

 私の"敗北"が決まった瞬間だった。

 ──だが、観客の反応は、私の思った通りだった。

「す、すごい!あのリリアナ様が、王国最強の騎士と互角に……!」

「まるで、王の座を争う者の戦いのようだった!」

(いやまさにその為の戦いなんだけど……疲れた)

「くぅ惜しかった……!でも流石は王国最強の騎士の娘だな!血は争えないな!」

 そう、まさにこれが"私の狙った結果"。

 私は勝たず、だが、弱くもなかった。  
 この戦いで私は、あくまで王国最強の""事を、この場で印象付けた。

 これでいい。今はこれで……。

(……これで、私は晴れて自由になれる)

 私は静かに目を閉じた。

(はぁ……疲れた。……ミレーヌぅ~)

 ──舞台は、終わったのだから。


「……フンッ、とんだ茶番だね」
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