転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第六章「異端者と破綻者」

第七十話「歪んだ筆跡、封じられた声」

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 朝の光は穏やかだった。

 昨日と変わらない時間。  
 エルは静かに本を開き、ミカはパンを齧り、私は朝食の準備をしていた。

 何も変わらない。

 ……そのはずだった。

「お嬢様、外から“差出人不明”の封書が届きました……」

 ミレーヌが声を振るわせながら、手渡してきた。

「差出人不明……?」

 珍しい。というより、私宛ての手紙自体がそう多くはない。

(まさか──また王城関係?)

 そう思いながら受け取った封筒は──古びた羊皮紙に、赤い蝋封。  
 まるで中世の呪詛でも閉じ込められていそうな、禍々しい印象。

「……嫌な予感がしますわね」

 封を割る。

 中から現れたのは、綺麗とは言い難い筆跡で綴られた一枚の手紙。

 だが──その一行目を見た瞬間、私の心臓が跳ねた。

 ──そこには、こう書かれていた。

 ---

 愛しのリリアナへ

 君は、今も変わらず美しいのだろうか。

 あの夜、星の瞬きを見つめながら、僕に背を向けた君。  
 白いドレスの裾が、まるで罪の証のように揺れていた。

 忘れたか? 君が振り上げたその剣が、僕の全てを切り裂いた夜を。  
 君の目が、僕の“王子”という仮面を剥ぎ取り、ただの“男”として見捨てたあの瞬間を。

 リリアナ。ねぇ、リリアナ。  
 どうして君は僕を置いて行ったの?  
 どうして君は“強く”なってしまったの?  
 どうして僕じゃ、君を縛ることができなかったんだ?

 君が笑えば、世界が輝いた。  
 君が泣けば、雨が降った。  
 君が怒れば、空が裂けた。  
 君がいれば、僕は“存在”できた。

 君がいない世界で、僕は何者にもなれなかった。

 あれから、君はどれだけ眠った?  
 どれだけの血を見た?  
 どれだけの人間を、自分の力でねじ伏せた?

 君の手のひらに宿ったその力は、誰のためのもの?  
 君が願う“普通”は、誰と交わした約束?

 ねぇ、答えてよ、リリアナ。

 君は本当に、幸せだったの?  
 僕を切り捨てて、本当に……幸せだったの?

 僕はね、君を呪った。何度も。何百回も。  
 君の名前を紙に刻んで、燃やして、飲み込んで、血で書き直して、壁に叩きつけて──

 それでも、忘れられなかったんだ。

 君の瞳。  
 君の声。  
 君の、剣。  
 君の背中。  
 君の、温度。  
 君の……否定。

 僕を王子からただの男にしたのは君だった。  
 そして今、僕を“怪物”に変えたのも、また君だった。

 ありがとう、リリアナ。  
 ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。
   
 君がすべてを壊してくれたおかげで、僕はようやく生きられる。

 愛してるよ。  
 心の底から。君以外、いらない。いらなかった。いらないんだ。

 ──だからさ。

 もう一度、君を手に入れるためなら、僕はこの国ごと飲み込んでもいい。

 舞踏会、覚えてるかい?  

 今度は、そこで待ってる。

 誰のためでもない。  
 君のための舞踏会だ。  
 君と、僕の、最後の舞台だ。

 来なければ、壊すよ。  
 来ても、壊すよ。

 君の心を、君の未来を、君の夢を、君が守ろうとしている“なにか”を──

 全部、全部、君の目の前で、壊してみせる。

 愛してる。  
 愛してる。  
 愛してる。  
 だから殺したい。  
 だから壊したい。  
 だから、君だけが欲しい。

 この手紙が届いた時、君がまだ“普通”を望んでいるなら……  
 僕は君を、普通に戻してあげる。  
 永遠に、壊れたままの“普通”に。

 君だけが僕の王妃であり、処刑台の生贄であり、最愛のリリアナであり、罪そのもの。

 ──アレクシス・フォン・エルフェルト

 ---

「……っ」

 手紙を持つ手が、震えていた。

 声が出せない。

 脳が理解を拒んでいた。

(死んだ……はずじゃ……)

 あのアレクシスが──死んだと思っていた、あの男が──

「……知ってたのか」

 エルの低い声が、沈黙を裂いた。

「な、何が……」

「その名前。アレクシス。まさか……お前の──」

 私は、首を振った。

 何度も、何度も、振った。

「違う……違いますわ。あの人は……もう死んだんですの……」

 でも、手の中の文字は消えない。

 滲んで、滲んで、けれど鮮やかにそこにあった。

「リリアナ?」

 ミカがのぞき込む。

 私の顔を見て──初めて“沈黙”を覚えたかのように、黙った。

「……妾、誰にでも笑えるけど、今のリリアナには、何も言えんのう」

(笑って……なんて言わないで)

 私は手紙を胸に抱き、深く、深く、息を吐いた。

 ──来る。あの人が、この国に。
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