転生したら、まさかの脇役モブでした ~能力値ゼロからの成り上がり、世界を覆すは俺の役目?~

水無月いい人(minazuki)

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第一章:モブからの覚醒

第二話:小さな一歩とダンジョンの誘い

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知力に1ポイントを振ってから、俺は明確な手応えを感じていた。

いや、数値的にはたった1だ。何か劇的に世界の見え方が変わったとか、突如として魔導の知識が湧き出てきたとか、そういう派手な変化があったわけではない。

それでも、頭の中が少しだけクリアになったような、思考の速度がわずかに上がったような、そんな感覚があった。

例えるなら、古いPCのOSが、ほんの少しだけバージョンアップしたような、地味だが確かな改善だ。

ゴブリンとの遭遇から一夜明け、俺は改めてこの世界での行動指針を固めた。

「まず、自活できるだけの基礎能力の確立だな」

そして、将来の「魔物の大侵攻」に備え、村から脱出するための準備を着々と進めることだ。

(俺はモブだ。生き残る事だけを考えていればいい)

そのためには、地道な努力が不可欠である。
しかし、俺はかつて社畜だった。努力は得意だ。むしろ、努力することしかできないと言っても過言ではない。

その日から、俺のモブとしての成り上がり生活が始まった。

日中は、村の仕事を手伝う。
一番簡単なのは、薬草採集だ。

ゲーム知識がある俺にとって、毒草と薬草の見分けは容易い。安全な場所を選び、効率よく薬草を摘んでいく。

最初はぎこちなかった動きも、毎日繰り返すうちに少しずつ洗練されていくのを感じた。腕の筋肉がわずかに盛り上がり、呼吸も以前より楽になる。

「アルス、今日は早いね。ずいぶん慣れてきたじゃないか」

薬草を買い取ってくれる薬師の老女が、目を細めて微笑んだ。

「はい、おかげさまで」

言葉通り、体が少しずつ慣れてきているのがわかる。

(ここはゲームと同じ仕様か)

この世界は、身体を動かせば動かすほど、実際に能力が向上していく。ゲーム的な表現をすれば、「熟練度」が上がっている感覚だ。

【体力:0 → 0.1】
【筋力:0 → 0.1】
【器用:0 → 0.1】
【サバイバル知識:1 → 1.1】
【薬草学:未習得 → 1】

おお、ついにスキルが覚醒した!
薬草学。地味だが、薬草採集に特化したスキルだ。これがあれば、さらに効率よく薬草が見つかるだろう。

能力値も小数点以下だが、確実に増えている。ゼロから脱却したのだ。この小さな変化が、俺には何よりも嬉しかった。

そして夜は、村の図書館で本を読み漁った。

図書館といっても、小さな村なので、数少ない古びた本が並べられているだけだが、この世界の歴史や地理、魔物に関する基礎知識を得るには十分だった。

特に俺が興味を持ったのは、魔物に関する記述だ。ゲームでは知ることのできなかった、魔物の生態や弱点に関する、より詳細な情報が記されている。

「なるほど、ゴブリンは火を恐れるが、特定の植物から抽出した毒にも弱いのか……」

(ここもやはりゲームと同じ……)

読書中、時折、脳内で新たなウィンドウが開く。

【知力:1 → 1.1】
【歴史知識:未習得 → 0.5】
【モンスター生態学:未習得 → 0.8】

知力が着実に上がっているのがわかる。同時に、新たな隠しスキルも覚醒していた。

「……おもしれぇ」

特に「モンスター生態学」は大きい。これで、より安全に魔物と遭遇し、対処できるようになるだろう。

そんな生活を、数ヶ月続けた。

体力、筋力、器用さは、薬草採集や村の手伝い(薪割り、水汲みなど)で地道に向上した。
知力は、夜の読書で着実に伸びていった。

各ステータスは、ようやく「1」を超えるか超えないか、といったところだが、それでも最初のオールゼロと比べれば、雲泥の差だ。

身体能力が少しずつ上がっていくことで、できる仕事の幅も広がった。

最初は子供だからと断られていた、少し重い荷物の運搬や、畑仕事なども手伝わせてもらえるようになった。

村人たちの俺を見る目も、少しずつ変わってきたように思う。最初は「かわいそうな子」といった憐憫の目だったのが、今では「働き者だね」といった賞賛の言葉をかけてくれる。

「アルス、君は本当に頑張り屋だね。将来が楽しみだよ」

長老の言葉が、俺の心にじんわりと温かさを灯す。

ゲームでは名前すら与えられなかったモブの俺が、この世界では「アルス」として、確かに存在している。そして、村の人々に認められつつある。

しかし、俺は浮かれることはなかった。
これは、まだ第一歩に過ぎない。

何故なら俺は今、ここまでしても初期プレイヤーには遠く及ばない。ゼロという数字はそれ程までに大きいものなのだ。

---

ある日、俺は村の長老に、思い切って一つの質問をしてみた。

「長老、この村から一番近い、大きな街はどこですか?」

長老は少し驚いた顔をした後、穏やかに答えた。

「ああ、それなら東へ三日の道程だね。『エメラルドの都』と呼ばれる、美しい街だよ」

エメラルドの都。ゲーム序盤でヒロインが最初に訪れる、かなり規模の大きな都市だ。そこには冒険者ギルドもあり、より本格的な活動ができる。

「そうですか……」

俺は地図を頭の中に描く。東へ三日。今の俺の体力では、到底たどり着けない距離だ。それに、道中には危険な魔物も多く生息しているはずだ。

長老は、俺の様子を察したのか、少し心配そうに付け加えた。

「なぜそんなことを聞くんだい? 君はまだ子供だ。一人で旅に出るなんて、考えるものではないよ」

「いえ、少し気になっただけです。いつか、この村を出て、もっと広い世界を見てみたい、なんて……」

半ば嘘、半ば本音でそう答える。長老は何も言わず、ただ優しく頭を撫でてくれた。

やはり、地道な努力を続けるしかない。
村での生活で基礎を固め、将来的には冒険者として活動できるだけの力をつけなければ。

そのためには、もっと効率的に能力を上げる必要がある。

その日の夜、俺は改めてゲームの知識を総動員し、考えを巡らせた。

この世界には、「ダンジョン」というものが存在する。

村の近くにも、小さなダンジョンがある。村人たちは「危険な場所」として近づかないようにしていたが、ゲーム的には「初心者向けの練習ダンジョン」という位置づけだった。

ダンジョンには、通常のフィールドよりも多くの魔物がいる。

そして、経験値やアイテムも手に入りやすい。
つまり、効率的なレベリング場所なのだ。

「ダンジョン……。危険は伴うが、今の俺には必要なステップだ」

オールゼロだった俺が、わずかながらステータスを上げた今なら、もしかしたら……。

いや、待て。今の俺はたったの知力1、体力1、筋力1といった程度だ。調子に乗ってダンジョンに突っ込めば、あっけなく死ぬのがオチだろう。

しかし、もう一つ、俺には特別な情報があった。

そのダンジョンには、「隠された安全な採集ポイント」があることを、ゲームをやり込んだ俺だけが知っている。

そこには珍しい薬草が自生しており、魔物の出現頻度も極めて低い。しかも、運が良ければ、希少な素材アイテムが見つかる可能性もあった。


──翌朝、俺は長老に、
「少し遠くまで薬草採集に行きます」と告げ、村を後にした。
向かうは、村人たちが忌避する「森の奥の洞窟」。

それが、俺が目指すダンジョンだった。

洞窟の入り口は、黒い口を開けたように不気味だった。
ひんやりとした空気が肌を刺す。

いくらゲーム知識があるとはいえ、やはり生身で踏み入れるのは恐怖を感じる。

腰には、村の雑貨屋でなんとか手に入れた、錆びついた小さなナイフ。

背負った袋には、採集道具と、万が一のために村の薬師から分けてもらった解毒剤がいくつか。

「……行くぞ」

俺は、意を決して、暗闇が広がる洞窟の奥へと足を踏み入れた。
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