転生したら、まさかの脇役モブでした ~能力値ゼロからの成り上がり、世界を覆すは俺の役目?~

水無月いい人(minazuki)

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第一章:モブからの覚醒

第一話:モブなりに

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目が覚めてから、数日が過ぎた。

俺が転生したのは、村外れの小さな家だった。どうやらこの家は、両親が何年か前に病で亡くなり、今は幼い俺(アルス)が一人で暮らしているらしい。

もちろん、現実世界では三十路の社畜だった俺にとって、こんな幼い身体で一人暮らしなんて、想像を絶する状況だ。

それでも、奇妙なことに、この世界のアルスとしての記憶が、俺の中に確かに存在している。

両親との温かい思い出や、村人との交流の記憶。それらが、俺の混乱を少しだけ和らげてくれた。

この数日間、俺はまず現状の確認に努めた。
幸いなことに、食べるものには困らなかった。村の長老や、近所の優しいおばさんが、時折食事を届けてくれる。

彼らから話を聞くと、村では幼い子供が一人で暮らすことは珍しくないらしい。孤児院もあるが、血縁者がいなければ、近所が助け合うのが当たり前だという。

ありがたい話だが、同時に「この世界、想像以上に弱肉強食だぞ……」と、背筋が寒くなった。

そして、俺は改めて自身のステータスを確認した。

【名前:アルス】
【種族:人間】
【職業:なし】
【体力:0】
【魔力:0】
【筋力:0】
【敏捷:0】
【器用:0】
【知力:0】
【幸運:0】

【スキル:なし】
【ユニーク能力:なし】

何度見ても、やはりオールゼロ。
これは冗談抜きでヤバい。

普通のRPGなら、初期ステータスとして多少は数値が振られているはずだ。それがまさか、文字通り「0」とは。

もはや、才能がないとか、凡人とかいうレベルではない。生物としてどうなんだ、これは。

「……まじかよ。本当に初期装備なし、チュートリアルスキップどころか、チュートリアルすら用意されてないのか、俺は」

自嘲気味に呟く。
しかし、ここで嘆いていても何も始まらない。俺は社畜だ。

ブラック企業で培ったものは、どんな逆境でも活路を見出す執念と、理不尽に耐え抜く精神力だ。

この世界は『アルカディアの光と闇』。
俺が死ぬほどやり込んだ乙女ゲームの世界だ。
ゲーム知識なら誰にも負けない。これこそが、俺の唯一のアドバンテージだ。

このゲームのシステムを思い出す。
ステータスは、純粋に身体を鍛えたり、魔力を練ったりすることで向上していくタイプ。

いわゆる「努力型」の世界。そして、特定の行動や経験によって「隠しスキル」が覚醒することもある。

まず、今後の生存戦略を練る。

現状、俺が住んでいるのは、森に囲まれた小さな村だ。ゲーム序盤でヒロインが立ち寄る「始まりの村」の一つだが、メインストーリーとはほとんど関係ない場所だ。

特産品は薬草。そして、近くには魔物の巣窟とも言えるダンジョンがある。村人たちは魔物の出現範囲を把握し、うまく共存していたが、数年後には「魔物の大侵攻」で壊滅する運命だ。

このままでは、俺も巻き込まれて死んでしまう。

「最初の目標は、まず死なないこと。そして、魔物の大侵攻までに、村から安全な場所に移動するための準備を整えることだ」

そのためには、まず能力を上げる必要がある。
オールゼロの俺では、村から出ることもままならない。

俺は村の中を歩きながら、今後の行動を模索した。
土の道、木造の家々、そしてどこか懐かしいような村人たちの会話。全てがゲームで見た風景だが、より鮮明で、より生々しい。

「おや、アルスじゃないか。珍しいね、こんな時間に外に出るなんて」

村の長老らしき老人が、優しく声をかけてきた。
どうやら、この村では「アルス」という名前で通っているらしい。

悪くない響きだ。仮とはいえ、名前が与えられたことに、少しだけ嬉しさを覚える。

「はい、ちょっと散歩に」

幼い声で返事をすると、老人はにこやかに頷いた。

村の中を歩きながら、俺は脳内で今後の計画を練る。
能力値ゼロからのスタート。

これは、普通のレベルアップでは到底間に合わない。
肉体労働や魔力訓練が不可欠だ。

「まずは、村の仕事を手伝うところから始めよう」

幸い、この村は人手不足のようだ。簡単な雑用でも、経験値を稼ぐには十分だろう。
そして、もう一つ。

この世界には、ごく稀に「ユニークスキル」と呼ばれる、特殊な能力を持つ者が現れるという設定があった。

ユニークスキルは生まれつきのものが多いが、中には特殊な条件を満たすことで覚醒するものもある。

もしかしたら、俺にも何か覚醒するスキルがあるかもしれない。

そんな淡い期待を抱きつつ、俺は村の掲示板に貼り出された仕事の一覧を眺めた。

「薬草採集か……。これなら、俺でもできそうだ」

薬草採集は、危険度は低いが、体力と知識を要する仕事だ。薬草の見分け方や、毒草との区別、そして魔物が出現するエリアの把握。

これらの知識は、ゲームをやり込んだ俺にとっては、もはや常識レベルだ。

「よし、これにしよう」

俺は薬草採集の依頼を受け、村の外へと足を踏み出した。

森の中は、ゲームで見たよりもずっと生き生きとしていた。鳥のさえずり、風に揺れる木々の音、土の匂い。全てがリアルだ。

慎重に周囲を見回しながら、薬草を探す。目的の薬草は、特定の場所に群生していることが多い。ゲームの知識を頼りに、その場所へと向かう。

「あった!」

小さな野花の陰に、目当ての薬草が群生しているのを見つけた。小心者らしく、周囲を警戒しながら、慎重に薬草を摘み取る。

その時、ガサガサと茂みが揺れる音がした。

「ッ!?」

思わず身構える。まさか、魔物か!?

茂みから現れたのは、小さなゴブリンだった。だが、ゲームで見たものとは少し違う。

いや、ゲームのグラフィックでは表現しきれていなかった、生々しい魔物の姿がそこにはあった。

牙を剥き出しにして、こちらに向かってくるゴブリン。子供の俺では、逃げ出すことすら難しい。

「クソッ、いきなりクライマックスかよ!」

しかし、ここで死ぬわけにはいかない。オールゼロのモブが、こんなところで終わるわけにはいかない!

俺は必死に頭を回転させた。ゴブリンの弱点、有効な攻撃手段。ゲーム知識が脳内で高速で再生される。

ゴブリンは基本的に知能が低い。そして、視覚と聴覚に優れているが、嗅覚はそこまでではない。そして、火を極度に恐れる。

だが、俺は魔力ゼロ。火魔法なんて使えるはずがない。

その時、視界の端に、落ちていた木の枝が目に入った。

「これだ!」

俺は素早く木の枝を拾い上げ、ゴブリンに向かって走り出した。

ゴブリンは、まさか子供が向かってくるとは思わなかったのだろう。一瞬、動きが止まる。その隙を突き、俺はゴブリンの目の前で、木の枝を振り下ろした。

「ま、そうだよな」

当然、何のダメージも与えられない。だが、俺の狙いはそこではない。

木の枝の先端が、ゴブリンの鼻先をかすめた。そして、俺はそのまま、近くにあった毒草の葉を素早く千切り取り、それをゴブリンの口元に叩き込んだ。

ゴブリンは毒草を口にしてしまい、苦しそうにのたうち回る。

「フン、所詮は下級魔物だ」

俺は冷静に毒草の効き目を待った。やがてゴブリンは泡を吹いて倒れ、ぴくりとも動かなくなった。

毒草は、村の近くに自生している危険な植物だ。通常は触れることすら忌避されるが、ゲーム知識でその特性を理解していた俺は、これを応用することができたのだ。

「ふう……危なかった」

冷や汗が背中を伝う。これが、この世界の現実。ゲームとは違う、生身の命のやり取り。

そして、その時、俺の脳裏に、一つのウィンドウが表示された。

【毒物耐性が上昇しました】
【サバイバル知識が向上しました】
【経験値を得ました】
【ステータスポイントを1獲得しました】

「……マジか!」

俺は思わず声を上げた。まさか、魔物を倒すことでステータスポイントが手に入るとは!

そして、新たな項目が増えていることに気づいた。

【毒物耐性:1】
【サバイバル知識:1】

これらは、特定の行動や経験によって覚醒する「隠しスキル」だ。ゲーム攻略本にも載っていなかった、ごく一部のプレイヤーしか知らない情報だったはず。

「よし! これなら、いける!」

俺は再び希望を見出した。オールゼロからのスタートは、確かに絶望的だ。だが、この世界には、ゲーム知識を活かせる余地がまだまだある。

ステータスポイント1。これを何に振るべきか。

体力か、筋力か、それとも知力か。

しばらく考えた後、俺は決断した。

「知力に振ろう」

知識こそが、今の俺にとって最も重要な武器だ。知力が上がれば、新たなスキルを習得するヒントが得られるかもしれない。

あるいは、魔物の弱点や、この世界の隠された真実をより深く理解できるようになるかもしれない。

【知力:1】に上昇しました。

わずかな変化だが、俺にとっては大きな一歩だった。

薬草を全て採集し終え、村へと戻る。薬草の買い取り価格は微々たるものだったが、それでも今日の糧にはなる。

そして、俺は決意を新たにした。

「モブだって、世界を変えられる。この世界で、俺は俺だけの物語を紡いでいく!」

まだ始まったばかりの、全能力値ゼロのモブによる成り上がり物語。

その先には、一体どんな運命が待ち受けているのだろうか。
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