転生したら、まさかの脇役モブでした ~能力値ゼロからの成り上がり、世界を覆すは俺の役目?~

水無月いい人(minazuki)

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では本編へどうぞ……!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……は、え? ここ、どこ……?」

薄れゆく意識の淵から、俺はそう呟いた。鉛のように重い瞼をこじ開けると、目に映ったのは見慣れない木製の天井。

ざらりとした手触りのシーツ、鼻腔びこうをくすぐる土と草の匂い。全てが、俺の知る世界とは異なっていた。

俺は確か、残業続きで朦朧もうろうとする意識の中、駅のホームで電車を待っていたはずだ。足元がぐらつき、線路に吸い込まれるような感覚。あの全身を貫くような衝撃が、最後の記憶だ。

──ああ、そうか。俺、死んだんだ。

令和の時代に、まさかの過労死。月残業200時間超えが常態化し、休日出勤は当たり前。睡眠時間は削られ、食事はコンビニ弁当。

そんな生活を何年も続ければ、当然の報いといえばそれまでだが。我ながら、どこか滑稽で、どこか悲しい結末だ。

しかし、死んだはずの俺が、こうして意識を取り戻しているということは……。

「もしかして、流行りの転生ってやつか?」

思わず口に出してしまった独り言は、驚くほど幼い声だった。

慌てて自分の身体を見下ろす。手足は小さく、華奢。どう見ても子供の体だ。周りを見渡せば、粗末な木製の壁、簡素な机と椅子。どうやら、どこかの家の寝室らしい。

記憶を辿る。俺は生前、ブラック企業に勤めるしがないサラリーマンだった。

唯一の趣味は乙女ゲーム。ふと立ち寄った店で、店員に勧められたのが、キッカケだ。

特に『アルカディアの光と闇』という、ファンタジー世界を舞台にした恋愛シミュレーションゲームにドハマりしていた。

主人公の″リリア″というキャラクターが、
堪らなく可愛い。俺の推しだった。

この『アルカディアの光と闇』という、シミュレーションゲームは、世にも珍しい″バトルに特化したゲーム″で、特に女主人公で誘ってくるイケメン共を次々と、(物理的に)攻略していくのが俺のストレス発散になっていた。

イケメンの好感度を上げて、
最後にはこっちから振って、斬って落とす!
これが社畜男のストレス発散だった。

イケメン死すべし!

(……ん?なんだこの違和感)

『アルカディアの光と闇』……。その単語が脳裏をよぎった瞬間、全身に電流が走ったような感覚に襲われた。

この部屋のどこか懐かしいような簡素な作り。どこかで見たような……。そうだ、これは!

ガバリと起き上がり、部屋の隅に置かれた古びた鏡に駆け寄る。そこに映っていたのは、平凡極まりない、しかし見覚えのある顔だった。

「うっそだろ……」

思わず絶句する。鏡に映るのは、まさに『アルカディアの光と闇』に登場する、名前すらないモブキャラクターAの顔。

特徴のない茶色の髪、何の感情も読み取れないような黒い瞳。ゲーム中で一度だけ、街角の背景として登場するだけの、文字通りの脇役モブ。

「よりにもよって、モブかよぉぉぉぉぉぉっ!!」

俺は天を仰いで叫んだ。

転生するなら、せめて攻略対象キャラの一人とか、物語に大きく関わる重要人物とか、そういう華やかな存在になりたかった。

まさかのモブ。しかも、登場シーンはたったの一枚絵。セリフもなければ、名前もない。

『アルカディアの光と闇』は、王国の第一王女や、他にも自身で選択したヒロインで、個性豊かな攻略対象キャラたちとの交流を通じて、世界の危機を救うという壮大なストーリーだった。

魔王の復活、古代兵器、隠された真実……とにかく要素が盛りだくさんで、やり込みがいのあるゲームだった。

たまに攻略キャラをいきなり切りつけるなんて極悪非道な事もしていたが、何度も周回プレイを重ね、隠しルートや裏設定まで知り尽くした、自他ともに認めるガチ勢だった。

しかし、その壮大な物語の中で、俺が演じることになったのは、物語の蚊帳の外の存在。

メインストーリーには一切絡まず、ヒロインたちと出会うこともなく、ただ背景として存在するだけの、言わば空気……。

絶望に打ちひしがれながら、自分のステータスを確認しようと念じる。転生者なら、大抵はステータスウィンドウとか、ユニークスキルとか、そういうチート能力があるはずだ。

【名前:アルス(仮)】
【種族:人間】
【職業:なし】
【体力:0】
【魔力:0】
【筋力:0】
【敏捷:0】
【器用:0】
【知力:0】
【幸運:0】

【スキル:なし】
【ユニーク能力:なし】

「…………ゼロ。全部、ゼロだと?」

目を疑った。いや、信じたくなかった。何かの間違いであってくれ、と強く願った。

普通、転生したら何かしらの補正がかかるはずだ。チート能力とまではいかなくとも、何かしらの始まりのステータスはあるはずだ。それがまさかの、オールゼロ。

「冗談だろ……? これじゃあ、ただの歩く死体じゃないか!」

この世界は魔物で溢れている。少し街を外れれば、ゴブリンやスライムといった雑魚魔物はもちろん、下級悪魔やオーガといった危険な魔物も跋扈している。

そんな中で、能力値オールゼロの子供が、どうやって生き残れというのだ?

前世の記憶を辿れば、このモブキャラAは、ゲーム開始から数年後に起こる「魔物の大侵攻」で、住んでいた村が壊滅し、あっけなく死んでしまう運命だったはず。

「待てよ、それじゃあ、俺、このまま死ぬしかないのか? せっかく手に入れた第二の人生が、まさかの詰みゲー状態……?」

あまりにも理不尽な現実を突きつけられ、俺は呆然と座り込んだ。しかし、その時、前世の記憶が俺の脳裏を駆け巡った。

ブラック企業での日々。終わりの見えない業務、理不尽な上司からの叱責。それでも、俺は諦めなかった。

どんな絶望的な状況でも、どうにかして活路を見出し、目標を達成するために尽力した。

そうだ、俺は社畜だ。ブラック企業で培ったものは何か? それは、どんな絶望的な状況でも、どうにかして活路を見出す執念だ。

そして、無限とも思える残業に耐え抜いた精神力だ。

オールゼロ? 結構じゃないか。ゼロから始まるのなら、むしろ俺が作り上げる物語は、誰よりも輝くはずだ!

俺には、このゲームの知識がある。ストーリーの流れ、イベント発生条件、攻略対象キャラの好み、隠しアイテムの場所、魔物の弱点……。

全て、脳内に叩き込んである。攻略本も設定資料集も、まるで聖書のように読み込み、隠された裏設定まで知り尽くしている。

「そうだ。この知識こそが、俺の唯一の武器だ!」

顔を上げ、小さく拳を握る。

俺の見立てによると、ここは始まりの村だ。
転生した時点は、ゲーム開始の約十年前って所だな。
ヒロインが王立学園に入学するよりも、ずっと前の時間軸だ。

つまり、まだ物語のメインストーリーは始まっていない。

この十年間で、俺は自分を強くする。ゲーム知識を最大限に活用し、能力値を上げていく。そして、何よりも重要なのは、死なないこと。

モブにはモブの生き方がある。そして、モブだからこそできることがあるはずだ。

これは、全能力値ゼロのモブが、世界の理不尽に抗い、運命を捻じ曲げ、やがては世界の真実にたどり着くまでの、波乱に満ちた成り上がり物語。

俺は、この世界で、俺だけの物語を紡ぎ始める。

【後書き】

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