転生したら、まさかの脇役モブでした ~能力値ゼロからの成り上がり、世界を覆すは俺の役目?~

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
93 / 152
第八章:王城決戦編

第九十話:王女の覚悟と黒い男の忠告

しおりを挟む
男は、過去の追憶から覚めると、すぐに髪を後ろで一つにまとめ、脱出の準備を始めた。その表情は、先ほどまでの飄々としたものとは違い、どこか鋭い。

「待て、起きたんなら早く教えろ。リリアについて」

俺は、ナナシの言葉を遮るように言った。彼の過去、そして「魔刻」の代償。その全てが、リリアという女性に関係している。その詳細を知らずにはいられなかった。

「……特に何もねぇよ。それより優先するべきはリアムだ」

ナナシは、俺の問いをはぐらかすように、そっけない態度で返した。その言葉に、俺は苛立ちを募らせる。

「おい!はぐらかしてんじゃねぇよ!」

「アルスさん。貴方は今追われている身です。この城から逃げるのなら今しかありません」

俺の苛立ちを察したのか、エルが俺に逃げるよう促した。おそらく、俺の身を案じての言葉だろう。

「そうだな……兄ちゃんはリアムを探してこの国を出ろ」

ナナシもまた、エルの言葉に同意した。彼の言葉には、何らかの深い意図が隠されているように感じられた。

「探すつっても、城にはもう居ないみたいなんだよ……」

俺は、エルから聞いた情報をナナシに伝えた。あの魔王、一体どこに行ったんだ?城にいないとなると、探すのは容易ではないだろう。俺の考えを察したのか──

「ならこれを使え」

ナナシは、黒い何かを放り投げてきた。手のひらサイズのそれは見覚えのある者だった。

「魂片……なんでお前が」

俺は、それがリアムの持っていた「魂片」と同じものであることに気づき、驚いた。一体、なぜナナシがそんなものを持っているのかと。

「理由は聞くな。その魂片は魔王が近いと光るようになってる」

ナナシは、俺の疑問を遮るように、淡々と説明した。

「なんだよその便利道具……もっと早くに」

俺は、思わずそう呟いた。しかし、すぐに思い直す。俺も同じものを持っているじゃないか。

「それなら俺も持ってる」

俺がそう言うと、ナナシはニヤリと笑った。

「それは魔王の心臓部分……つまりコアだ」

「……は?」

俺は、受け取った魂片改めて見る。しかし、俺が持っているものと何ら変わらない。
……そもそも魂片って何なんだ?

勇者の魂が闇に汚染され、それが魔王復活の鍵になるとされていた。俺は、その情報を繋ぎ合わせ、一つの可能性にたどり着いた。

「魔王の心臓……九つの魂片……体……?」

俺は、静かに呟いた。俺が勇者復活のために集めていたものは、結果的に魔王を不完全な状態で復活させることになってしまった。俺はその罪悪感に囚われ、その可能性を考えないようにしていたのかもしれない。

「察しがいいな兄ちゃん。ま、おおむね兄ちゃんが考えてる通りだ」

ナナシの言葉が、俺の考えを裏付けた。国王は勇者復活が目的ではなく、魔王を復活させるための器を探していた……?。だとすれば、俺を勇者として持て囃し、結果的に俺を弱いと切り捨てたのも合点がいく。

 しかし、分からないのはそんなことをして一体何をしようとしているかという事だ。

 この国の王は一体何を考えている……。

「なぁ、ナナシ──」

「これ以上は危険です、アルスさん」

エルが、俺の考えをまるで遮るかのように割って入ってきた。外から、そして城内からも、警備の兵士たちの騒がしい声が聞こえ始めた。

「……話してる時間はないか」

俺は、そう呟いた。このままでは、兵士たちに見つかってしまう。

「兄ちゃん、魔王のやつを見つけたら一緒にここを出ろと言ったが、一緒に来るか?」

ナナシは、意外な言葉を口にした。

「……急にどうした?さっきは逃げろとか言ってたろ」

「少し考えが変わった」

ナナシは、俺の問いには答えず、エル…王女エルヴィーナを見た。その視線に気づいたのか、彼女はサッと目を逸らした。

「……ま、人にはそれぞれ事情がある。俺には俺の。兄ちゃん達には兄ちゃん達の。……勿論、王女様にもな」

「……そうですね」

エルは、静かにそう答えた。

「…………嬢ちゃんには関係ない事だ。だから責めるつもりはねぇ。ただ、一つ」

ナナシは、エルにそう語りかけた。その声には、先ほどまでのふざけた様子は一切ない。

「何でしょうか」

「自分を信じろ」

ナナシは、そう言って入ってきた窓から姿を消した。彼の言葉は、部屋に残された俺たちの心に、深く突き刺さる。

「まぁ、あいつに言われなくとも俺は残るつもりだったが」

「……私、あの方が苦手です」

エルが、ナナシの消えた窓を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「皆、そうだ。自分だけ知っているような顔をしやがる」

俺は、苦々しくそう言った。

「いいえ、そうではありません。……あの方は、全てを見通している。私の心を……まるで丸裸にされた気分です」

その表現はどうなんだ、王女として。俺は、エルの言葉に呆れながらも、彼女がナナシに感じた畏怖のようなものを理解した。彼は、あまりにも底知れない存在だった。

 俺も初めてあの男と出会った時、恐怖と底知れない何かを持っているように感じていた。

「……さぁ、こちらから逃げてください」

エルは、再び冷静な表情に戻り、俺たちを促した。そう案内されたのは、クローゼットだった。そこを開くと、多種多様なドレスが並べられている。

「こちらからって……」

俺とセレナが戸惑っていると、エルはドレスをかき分け始めた。

「何して……なっ」

そこには、隠しエレベーターのようなものが隠されていた。

「異世界でまさかのエレベーターかよ……」

「こちらは誰も知らない抜け道です。どうぞ」

「……エルはどうするんだ」

俺が尋ねると、エルは静かに首を振った。

「私は少し考えたいことがありますのでここに残ります。安心してください、警備の者が来ても誰も来ていないと伝えておきますので」

「……助かる」

窓ガラスが派手に破られているのにも関わらず、一体どう言い訳するつもりなのだろうか。しかし、深く聞かないでおこうと、俺は直感的に思った。

そして、俺とセレナは王女の自室から出た。

 ……
 …………

「…………パパ。どうか穏便に」

残された少女は、ただ窓の外を見つめ、そう願った。それは王女としてではなく、ただ一人の男を愛する者として。この状況が、これ以上長く続くことのないように。

 そして、いつかこの身が解放されることを願って──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

処理中です...