攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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第二章 ヒーラー 王国篇 《第一部》

第17話 「『獣化』」

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もうダメだ……逃げたい。俺たちは今、絶賛エルザにしばかれ……いや、しごかれている。

あのよく曲がるフニフニのオモチャになって以降、確かに骨が折れることはなくなった。
だが、それだけだ。

「痛いのは変わらない……」

「……そう……だね」

俺たちはまたしても天井を見つめていた。この天井、何度見ただろうか……。
もはや天井の石タイルの数を数えてしまうほど、俺たちは床に転がっていた。
ちなみにまだ数え終わっていない。広すぎて途中で諦めた。

「さぁ次だ!」

「……ねぇエルザ、お腹すいたんだけど」

「レイラもぉ~」

「……うむ、もうそんな時間か。よし、じゃあ今日はここまでだ!」

やっと終わったぁ……!ダメージは俺の『ヒール』で回復できる。
だが、心の疲労は回復できない。今日はもう飯を食って、さっさと寝よう……。

ここの飯はすごく美味しい。俺たちの村の料理とは違い、華やかさがある。
以前食べたワイバーンの肉料理なんかもそうだった。とにかく見た目が鮮やかで、そして美味い。

「やっぱりここのご飯は何度食べても美味しいね、レイラ!」

「うん、レイラも幸せだよ」

「気に入ってくれたのなら私も嬉しい。ここの料理はメイド達が作っている。存分に味わいたまえ! ハッハッハ!」

と言うのはエルザパパ……もといエルフォードだ。ほんと、この親子は笑い方までそっくりだな。

俺とレイラ、それにエルザ親子の四人での食事。
机はやたらと長く、メイドたちもここで一緒に食べるのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「エルフォードさん、娘さん物凄く鬼なんですけど……どうにかなりませんか?」

俺はエルフォードに、エルザの容赦のない特訓について訴えた。

「……そうか、またやっているのかエルザちゃん」

「違うのよパパ、手加減しているのよ」

「……エルザちゃんの手加減は手加減じゃないんだから……」

そう言われて、しょんぼりするエルザ。あのエルザが怒られている……?怒られるのがそんなに嫌なのか。あんなに強いのに。

「アスフィ、それにレイラよ。明日は私が相手をしよう。私はA級だ。エルザちゃんよりかは手加減できるだろう」

それはありがたい!もう逃げ出したいくらいだったから、素直に感謝する!

俺の尊敬ランキング、エルフォードさんが堂々の二位に浮上!
ちなみに父さんは三位……いや、ゲンじいがいるから四位でいいか。

「ありがとうございます! やったねレイラ」

「うん……ありがとうございます」

「では明日の早朝から始めるとしよう。ところでアスフィ。娘が鬼というのが聞き捨てならないのだが……」

その後、俺はエルフォードに延々と「エルザがどれだけ可愛いか」という話を聞かされた。
一方、そのエルザはというと、まだショックを受けている様子だった。

父は娘に弱いが、娘もまた父に弱いのか。俺も父さんに怒られるのは怖かったっけ……。

そうして、俺たちは腹を満たし部屋へ戻った。

部屋に入るなり、ベッドにダイブ――。

「ふぅ、良かったぁ~。これで死なずに済みそうだね」

「でもアスフィ、エルフォードさんも強いよ」

そう、A級冒険者であるエルフォードは、エルザとはまた違ったオーラを持っている。
ひと目でわかる強者の風格。俺も、エルザと一緒にいる“親バカ”エルフォードを見ていなければ、きっと怯えていたはずだ。

「でも、エルフォードさんは話のわかる人だし」

「……それもそうだね」

そして俺たちは布団に入った。
今夜はぐっすり眠れそうだ。

「…………あ、風呂」

また覗くのを忘れた。

***

「では、始めようか」

「「お願いします!」」

エルフォードの威厳ある声が道場に響く。俺とレイラは竹刀を握りしめ、呼吸を整えた。

なんだか、父さんとの特訓を思い出す。まだ始まってもいないのに、そんな気がしてならなかった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

まずは俺から。

「動きはいい、だが正面から考えなしに突っ込んでくるとは、あまりいい考えとは言えないな」

「おっ――!」

次の瞬間、俺の体は宙を舞い、そのまま床に転がった。

……やっぱりだ。

竹刀で軽くいなされた。まるで、父さんにやられた時のように。懐かしい……いや、まだそんなに時は経っていないはずなのに。でも、なんだかすごく懐かしく感じた。

「行きます! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

続いて、レイラがエルフォードに向かっていく。

「ほう、流石だ。レイラはいい動きをする。ウチの団員の誰よりも強い。エルザちゃんの修行の成果は既に出ているようだね。だが――」

「きゃっ」

小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、レイラの体が弧を描いて倒れた。
俺と同じように、軽々と竹刀で転ばされる。

「行きます、と宣言して突っ込んでくる剣士がどこにいる。ここは道場ではあるが、実戦と思ってかかってきなさい」

さすがはA級冒険者。あのエルザのように、ただ圧倒的な力で殴り倒す戦い方とは違う。
的確に、無駄なく、理にかなった戦い方だった。

……俺は楽しくなっていた。

俺に剣術の才能はない。だから、どれだけ修行をしても、剣術の才能を持つ者には勝てない。
けれど、そんなことは関係なかった。懐かしい父さんとの特訓を思い出しながら、ただ剣を振るうことが楽しくて仕方なかった。

「もう一戦お願いします!」

俺は自然とエルフォードに願い出た。

「いい心がけだ。かかってきなさい」

俺は、真正面から大きく振りかぶる。大振りの構えを見せ、一直線に突進――

「だからそれは通じぬと――」

だが、ここで俺は剣を振るうと見せかけ、エルフォードの左脇腹に蹴りを叩き込んだ。

「……ほう、なかなか面白いことをする。……ガーフィの手癖の悪さを見ているようだ」

一瞬で見抜かれた。

この蹴りは、俺が十歳の時に父さんから教わったフェイント。
"ズルスキル"と呼んでいた、父さん直伝の小細工だった。

だが、エルフォードには通用しなかった。俺の蹴りは、あっさりと片手で防がれる。

「フェイント……それ自体はいい。他の団員にならば通用するだろう。だが、私はその技を誰よりも見てきた。残念だったな、ハッハッハ!」

どうやら、昔から父さんがよく使っていた技らしい。だから、エルフォードには通じなかったのか……。

「……レイラもお願いします!」

「よし、面白くなってきた。かかってきなさい」

レイラの構えが鋭くなる。

確かに、彼女は強くなっていた。もしかしたら、今ならワイバーン相手でも渡り合えるかもしれない。この短期間で、明らかに動きが洗練されてきている。

「やはり才能の子、先の戦いを学んだか。着実に強くなっているな」

俺も、そう思った。さっきの戦いよりも、さらに速くなっている。

まるで獣のような動き……獣?

「獣人の特性が出たか……だが――」

「うあ?」

エルフォードの竹刀が軽く弾かれ、レイラの体がよろめいた。
それでも、さっきより動きが洗練されているのは確かだった。

「『獣化』、獣人固有の『強化技術』。まだまだ甘いが、それを極めれば動きは誰よりも早くなるだろう」

『獣化』獣人固有の"強化技術"。

ヒューマンに『身体強化ブースト』があるように、
獣人にもまた、それぞれの種族特有の"力"がある。

俺は、昔読んだ母さんの日記でその存在を知っていた。
もちろん、"浮気許さない日記"の方ではなく、ちゃんとした冒険の日記の方だ。

「レイラ、凄いじゃないか!」

「……なんか体が勝手に動いていたんだよ?」

「ハッハッハ! 恐らく獣人の本能だろう。だが、それは『祝福さいのう』ある者にしか発現しない。誇るといい」

エルフォードの言葉に、レイラは少しだけ嬉しそうに見えた。

その後も、俺たちはエルフォードの指導のもと修行に励んだ。

「では、ここまでにするとしよう」

「はぁ……はぁ……ありがとう……ございます」

「ありがとう……ございます」

エルフォードとの剣術修行は、これにて終了。エルザの特訓のような、ただ"しばかれる"訓練ではない。的確な指導のもと、俺たちは確かな成長を実感できた。

特にレイラ。"獣化"の発現という、確かな変化があった。

俺には剣術の才能はない。だから、限界はあるかもしれない。でも、レイラは違う。彼女は、まだまだ強くなれる。

――その後、俺たちはエルザ親子と共に、広々とした食卓を囲んだ。王族の食卓は、やはり規模が違う。皿の数も食事の種類も、俺たちの村とは比べものにならないほど豪華だった。

だが、それよりも目の前の"親バカ"に意識を奪われる。

「どうだった? パパ」

エルザが、期待するようにエルフォードへ尋ねる。
彼女の表情には、"褒めてもらいたい"という気持ちが隠せていなかった。

「二人とも筋がいい。ガーフィの教えが良かったのだろう」

淡々とした声でそう言い放つエルフォード。
その瞬間、エルザの顔がみるみる曇っていく。

「……そうなんだ。私……いらない子……」

どんよりとした空気をまといながら、エルザが落ち込む。
だが、それを見たエルフォードは、即座に反応した。

「ああもちろん! エルザちゃんの教えもあるよ?! エルザちゃんの教え九割! そう! 九割だよ! ガーフィは一割だから!」

慌てた様子で、全力で娘を持ち上げ始めるエルフォード。
その必死な姿に、俺とレイラは思わず目を見合わせた。

「パパ……!!」

エルザの表情が一転。感動したように父を見つめ、瞳を潤ませている。

……単純すぎる。

「親バカだ」

「そうだね……」

いや、これは単純というより"親バカと娘バカ"か?

俺たちは、呆れたように小声で共感し合うのだった。
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